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8. そうだ! いい事思いついちまった
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「いい事。まずワタクシに逆らうとモトグリフ家に卸している農産物が割引適用外になるの。シュヴァルツ家からあなた方の家に卸している新鮮な野菜や果物は、アーヴァイン様の為にとワタクシが愛をこめて半額で提供しているものよ。しかも獲れたて、この意味解るかしら?」
「……う、ぐぬぬぬ」
食に関してのペナルティーは、春男最大の弱点である。悪役令嬢マリーはドヤ顔で続ける。
「あ、そうそう、忘れていたけれどシュヴァルツ家では痩せた農地で家畜も育て初めたのよね。最近ではヒヨコがネズミ算式に増えていって立派な鶏が増えているの。その影響かしら新鮮な産み立て卵がゴロッゴロッ収穫出来ているのだけれど、食べた事あるかしら?」
「……ぐぬぬ、オムレツ」
「あらオムレツにしたのね。それは、さぞかし美味しかった事でしょうね」
打算的に成り上がってきたシュヴァルツ家、その血筋を受け継ぐマリーは頭脳派だ。勿論モトグリフ家の愛され四男坊であるマールが食に弱い事は調査済みである。
「あーあ。ワタクシの事を敵に回したという事は、もう新鮮な収穫物を手頃な価格で楽しめなくなるという事ね。今から市場に手回ししておくわ。モトグリフ家の人間には相場の100倍で収穫物を売る様にと」
ウフフッ、と羽扇子で口元を隠し笑う。春男は言い返せずその場で固まる。
(これは大変な事になっちまったな。貯蔵した食料が尽きた頃には、もう腹いっぱい食えないかも知れねぇ)
知らない世界に連れてこられて、平気なフリをしていても不安はあった。だが、美味しい食事をお腹一杯食べれる事が春男のモチベーションになっていた。
そんな食にペナルティーを下すマリーは春男にとっては悪魔の化身だった。
「ねぇ、家畜君。何もワタクシは悪魔ではないのよ。あんたがワタクシの要求を呑んでくれさえすればこのペナルティーは実行しないわ」
オホホホッ、と高らかに笑って春男を見やる。その卑しく細められた目には勝算が浮かんでいる。
「ぐぬぬ。どんな要求っすか。まず内容を聞いてからだべさ」
「そうねぇ、凄く簡単よ身内なら誰でも実行できる事かしら」
マリーが羽扇子で口元を隠すと躊躇う様に呟く。
「アーヴァイン様の履き古したおパンツが欲しいの」
と、そこでけたたましいブザー音が鳴り響きマリーの動きが止まる。
――バッドエンドルート分岐に差し掛かりました。悪役令嬢マリーの要求を受け入れますか?
「いやそんな事言われても困るべさ。アーヴァインさんのおパンツが何処にあるのか解らねぇし……」
困ったように佇む春男は自分のおでこをパンッと手の平で叩くと
「そうだ! いい事思いついちまった」
マールの衣装ダンスから借りていた高貴な刺繍が施された白いズボンを脱ぐ。
そこにお目見えしたのは、3枚で699円の自慢のスイカ柄のトランクスだ。
春男は男らしくスイカ柄トランクスを脱ぎ捨てると、下着を履かずに再びズボンを履く。
「あんたの要求はオラが呑んでやる。その代わり新鮮な食材達はこれからも約束してもらうっぺよ」
春男は浮かび上がってきた選択肢『新鮮なアーヴァインの脱ぎたておパンツをマリーに手渡す』をタッチする。
止まっていた時間が再び動き出す。
そこには春男が脱ぎ捨てたばかりの新鮮なスイカ柄のトランクスを恍惚とした表情で手に持つマリーの姿が!?
「まさか、夢の様だわ。ずっと憧れていたアーヴァイン様の使い古したおパンツが手に入るなんて。しかも何か暖かいわ、まるで産み立ての卵の様に新鮮という事? まさか脱ぎたて!?」
ムフフフ、というマリーの下品な笑顔を横目に春男が呟く。
「かなり苦労して手に入れた奴だっちゃべ。そのおパンツは並んで手に入れた物だからオラにとっては宝物だべな」
「まぁ、並んでまで!? やはりアーヴァイン様の様な美しい伯爵の下着を手にしたいというマニアックな輩が世の中にはうじゃうじゃいるのね。でも脱ぎたてを手にしたのはワタクシぐらいじゃないかしら。グフフッ」
実際には春男が近所にある、シモムラの周年セールで限定10セットだった物を朝から並んで勝ち取った逸品である。
しかしマリーの思考は既に妄想の世界に誘われている。マリーの脳内ではアーヴァインの美しい裸体から下着が引きずり下ろされる映像が無限リピートされていた。
「白く艶やかな長い脚。丁度その間に聳え立つ一つの山を支える薄い布を、あのお方はゆっくりと下ろしたのね」
「んだ」
「そして露わになった山を男らしく隠すそぶりも見せずに、新たな布を纏ったのね。そして取り払ったばかりの布はワタクシの手中に、グフフッ」
「まぁ、そうゆう事になるべな。ノーパンって奴だべ」
「の、ののの、ノーパン!? 何て甘美な響きなの。アフタヌーンティーのお供に添えられた洋菓子よりも甘美な響きだわ」
マリーと春男はそれぞれ思っている事は違うが不思議と会話が成立する。そして……。
「こ、これは、いけない事だと思うのだけれど嗅いでもいいのかしら?」
「勿論自由っちゃね」
「嫌だわワタクシったらこんな下品な事を。でもこんなチャンス滅多にないわ。あの氷の伯爵と詠われるアーヴァイン様の秘密を覆い隠していたヴェールを手にしただけでも奇跡なのよ。こんなチャンス二度とないわ。家畜あんたこの事は絶対黙ってなさいよ」
「勿論だべさ」
凄むマリーに気圧される事なく当然の如く答える春男の様子に安心したのか、マリーはアーヴァインの秘部を覆い隠していた秘密のヴェールをゆっくりと顔に近付ける。
「アーヴァイン様から漂う花の香水。微笑む時の優しい表情、その薄い唇から時折見える白い歯。ワタクシが知っているのはいつも綺麗なあなた様の姿だったわ。でも、今日はあなた様のまた違った一面に遭遇してしまうのね」
マリーはその至福の瞬間の為に止めていた呼吸をゆっくりと味わうかの様に再開する、が……。
「アーヴァ……うっ」
あまりの臭さに気を失い、バタンッとその場に崩れ落ちる悪役令嬢マリー。
アーヴァ、の後にはきっと美しい比喩が沢山並んだはずだ、甘美で甘い比喩の数々が。
しかし、その甘美な比喩を聞いた者は誰もいない。
「あんた、どうしたんすか! ちょ、ちょっと、もしもし。あんれまぁー、そんなにオラのおパンツに感動しちまったんですか」
――バットエンド回避しました。
ぶっ倒れる悪役令嬢をよそに、電子音声が冷静にそう告げたのであった。
「……う、ぐぬぬぬ」
食に関してのペナルティーは、春男最大の弱点である。悪役令嬢マリーはドヤ顔で続ける。
「あ、そうそう、忘れていたけれどシュヴァルツ家では痩せた農地で家畜も育て初めたのよね。最近ではヒヨコがネズミ算式に増えていって立派な鶏が増えているの。その影響かしら新鮮な産み立て卵がゴロッゴロッ収穫出来ているのだけれど、食べた事あるかしら?」
「……ぐぬぬ、オムレツ」
「あらオムレツにしたのね。それは、さぞかし美味しかった事でしょうね」
打算的に成り上がってきたシュヴァルツ家、その血筋を受け継ぐマリーは頭脳派だ。勿論モトグリフ家の愛され四男坊であるマールが食に弱い事は調査済みである。
「あーあ。ワタクシの事を敵に回したという事は、もう新鮮な収穫物を手頃な価格で楽しめなくなるという事ね。今から市場に手回ししておくわ。モトグリフ家の人間には相場の100倍で収穫物を売る様にと」
ウフフッ、と羽扇子で口元を隠し笑う。春男は言い返せずその場で固まる。
(これは大変な事になっちまったな。貯蔵した食料が尽きた頃には、もう腹いっぱい食えないかも知れねぇ)
知らない世界に連れてこられて、平気なフリをしていても不安はあった。だが、美味しい食事をお腹一杯食べれる事が春男のモチベーションになっていた。
そんな食にペナルティーを下すマリーは春男にとっては悪魔の化身だった。
「ねぇ、家畜君。何もワタクシは悪魔ではないのよ。あんたがワタクシの要求を呑んでくれさえすればこのペナルティーは実行しないわ」
オホホホッ、と高らかに笑って春男を見やる。その卑しく細められた目には勝算が浮かんでいる。
「ぐぬぬ。どんな要求っすか。まず内容を聞いてからだべさ」
「そうねぇ、凄く簡単よ身内なら誰でも実行できる事かしら」
マリーが羽扇子で口元を隠すと躊躇う様に呟く。
「アーヴァイン様の履き古したおパンツが欲しいの」
と、そこでけたたましいブザー音が鳴り響きマリーの動きが止まる。
――バッドエンドルート分岐に差し掛かりました。悪役令嬢マリーの要求を受け入れますか?
「いやそんな事言われても困るべさ。アーヴァインさんのおパンツが何処にあるのか解らねぇし……」
困ったように佇む春男は自分のおでこをパンッと手の平で叩くと
「そうだ! いい事思いついちまった」
マールの衣装ダンスから借りていた高貴な刺繍が施された白いズボンを脱ぐ。
そこにお目見えしたのは、3枚で699円の自慢のスイカ柄のトランクスだ。
春男は男らしくスイカ柄トランクスを脱ぎ捨てると、下着を履かずに再びズボンを履く。
「あんたの要求はオラが呑んでやる。その代わり新鮮な食材達はこれからも約束してもらうっぺよ」
春男は浮かび上がってきた選択肢『新鮮なアーヴァインの脱ぎたておパンツをマリーに手渡す』をタッチする。
止まっていた時間が再び動き出す。
そこには春男が脱ぎ捨てたばかりの新鮮なスイカ柄のトランクスを恍惚とした表情で手に持つマリーの姿が!?
「まさか、夢の様だわ。ずっと憧れていたアーヴァイン様の使い古したおパンツが手に入るなんて。しかも何か暖かいわ、まるで産み立ての卵の様に新鮮という事? まさか脱ぎたて!?」
ムフフフ、というマリーの下品な笑顔を横目に春男が呟く。
「かなり苦労して手に入れた奴だっちゃべ。そのおパンツは並んで手に入れた物だからオラにとっては宝物だべな」
「まぁ、並んでまで!? やはりアーヴァイン様の様な美しい伯爵の下着を手にしたいというマニアックな輩が世の中にはうじゃうじゃいるのね。でも脱ぎたてを手にしたのはワタクシぐらいじゃないかしら。グフフッ」
実際には春男が近所にある、シモムラの周年セールで限定10セットだった物を朝から並んで勝ち取った逸品である。
しかしマリーの思考は既に妄想の世界に誘われている。マリーの脳内ではアーヴァインの美しい裸体から下着が引きずり下ろされる映像が無限リピートされていた。
「白く艶やかな長い脚。丁度その間に聳え立つ一つの山を支える薄い布を、あのお方はゆっくりと下ろしたのね」
「んだ」
「そして露わになった山を男らしく隠すそぶりも見せずに、新たな布を纏ったのね。そして取り払ったばかりの布はワタクシの手中に、グフフッ」
「まぁ、そうゆう事になるべな。ノーパンって奴だべ」
「の、ののの、ノーパン!? 何て甘美な響きなの。アフタヌーンティーのお供に添えられた洋菓子よりも甘美な響きだわ」
マリーと春男はそれぞれ思っている事は違うが不思議と会話が成立する。そして……。
「こ、これは、いけない事だと思うのだけれど嗅いでもいいのかしら?」
「勿論自由っちゃね」
「嫌だわワタクシったらこんな下品な事を。でもこんなチャンス滅多にないわ。あの氷の伯爵と詠われるアーヴァイン様の秘密を覆い隠していたヴェールを手にしただけでも奇跡なのよ。こんなチャンス二度とないわ。家畜あんたこの事は絶対黙ってなさいよ」
「勿論だべさ」
凄むマリーに気圧される事なく当然の如く答える春男の様子に安心したのか、マリーはアーヴァインの秘部を覆い隠していた秘密のヴェールをゆっくりと顔に近付ける。
「アーヴァイン様から漂う花の香水。微笑む時の優しい表情、その薄い唇から時折見える白い歯。ワタクシが知っているのはいつも綺麗なあなた様の姿だったわ。でも、今日はあなた様のまた違った一面に遭遇してしまうのね」
マリーはその至福の瞬間の為に止めていた呼吸をゆっくりと味わうかの様に再開する、が……。
「アーヴァ……うっ」
あまりの臭さに気を失い、バタンッとその場に崩れ落ちる悪役令嬢マリー。
アーヴァ、の後にはきっと美しい比喩が沢山並んだはずだ、甘美で甘い比喩の数々が。
しかし、その甘美な比喩を聞いた者は誰もいない。
「あんた、どうしたんすか! ちょ、ちょっと、もしもし。あんれまぁー、そんなにオラのおパンツに感動しちまったんですか」
――バットエンド回避しました。
ぶっ倒れる悪役令嬢をよそに、電子音声が冷静にそう告げたのであった。
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