瓶底メガネデブが人気BLゲーム【侯爵家の秘め事】の愛され四男に!?

ぴよこ合唱団

文字の大きさ
上 下
5 / 12

4. ちょ、お姉さんどうしたんすか

しおりを挟む
 見事カッツアの尻揉みバッドエンドを回避した春男は、ベッドの上にいた。
 柔らかいキングサイズのベッドは春男がいつも寝ている煎餅布団とは雲泥の差だ。
 その体が沈み込むふんわり感に、春男は秒速で眠りに落ちてしまった。

 朝起きると、長身の男2人が春男に寄り添うように寝ていた。
 瓶底メガネを外して、眠い目をごしごしとこすりながら起き上がった春男は声を上げる。

「な、何してるんすか!」

 その声に二人が起きる。

「……うーん、朝からどうしたんだマールそんな大声を出して」
「……もうちょっと寝かしてくれ」 
「いんや、なんで一緒に寝てるんすか、えんらいびっくりしましたよ」

 女性であれば眠気が一瞬で吹き飛ぶ程の美しい笑顔でアーヴァインが言った。
 
「モトグリフ家は代々、兄弟同じベッドで眠るのが習わしだ。受け継がれてきた習慣なのだよ。忘れてしまっているのかもしれぬが……」

 そうそう、とカッツアが当然の様に頷く。

「あんれ、まー。そうなんですね。こらまた聞いた事もねぇ習慣だもんですから、びっくらこいちまって。いんやーいいベッドだったもんでいっぺー寝ちまいましたよ」
「良く眠れた様で安心した。ちなみにマールが寝ている間に私は3回程、君のおっぱいを揉ませてもらったよ」

 アーヴァインがいたずらに笑う。春男は恥ずかしそうに「あんれ、まぁー」とアーヴァインを軽く小突く。

「ちなみに、俺もケツを2回程揉ませてもらったぜ」
「兄弟揃って何やってんすかー。困ったもんだべ本当」
「はははっ」

 すったもんだで、3人の絆は深まりつつある。しかし、BLゲーム【侯爵家の秘め事】序盤の最難関がやってこようとしていた。

 その元凶となるのは、3人目の兄弟『リバース・モトグリフ』である。
 リバースはから王都にある病院に入院している。今日が退院日。付き添っていた父母と共に、久しぶりにモトグリフ家のお屋敷に戻ってくるのだ。

「兄貴、今日だったよなあいつの退院日……」
「……ああ、そうだ」
「戻ってくるって事はって事なんだよな……」
「ああ、そうだと思うが……」

 煮え切らない二人の様子を見て春男は不安になる。

 (何かあるんだべな……)

 春男は気づかないフリをして聞き流す。

 大人気BLゲームである侯爵家シリーズの前作である【侯爵家の悲劇】で起きたにより、マールは侯爵家を家出同然で逃げだしたのである。

 春男は二人に悟られない様に、呑気な声で朝ご飯の心配をする。

「朝飯は何が食べれるんすかねー。オラお腹空いちまったなぁー」
「ははは。マールは相変わらず食いしん坊だな」
「食ってばかりいて、また屁で俺らの事気絶させないでくれよ。好きではあるんだけど、さっきはびっくりしちまったからな」
「また冗談いいなすっぺ、オラはそんな屁ばかりこいてるイメージなんかじゃないっすからね。いんやだなーほんと」
 
 寝室に3人の笑い声が響き渡る。嵐の前の平和な時間だ。
 3人は食堂に移動し朝食をとった。アンティークテーブルに並べられた朝食に春男の目が輝く。

 焼きたてのバターロールに野菜とお肉のスープ。ブドウジュース、ヨーグルト。一番目立つのが特大オムレツだ。

 食欲旺盛な春男の為に、特別に大きなオムレツを春男専用に用意してくれていたのだ。
 使用人の粋な計らいに春男は感動する。

「すんげぇー。俺オムレツ好きっすよ、こんなデカいの初めて食べるんだなコレが。んぐんぐ、ウマッ! 美味いっすよー、ほっぺたとろけちまう」

 春男は【いただきます】もせずに、椅子に座ったと思ったら食べ始める。「いただきますを、きちんと言わなければだめだぞ」とアーヴァインに諭されて春男は慌てて「いただきます」と手を合わせる。

「いんや、あんまりにも美味そうなもんでしたから、先に手が出ちまった。へへへっお恥ずかしいっす」
「それでこそ、俺らのマールだぜ。ガンガン食って、ガンガン太ってくれよ!」

 アーヴァインも、カッツアもデブ専だ。太る事に関しては大歓迎のスタンスだ。
 春男がふがふが言いながら巨大オムレツを平らげ終えたその時、使用人のクロークが神妙な顔つきで近づいてくる。アーヴァインにそっと耳打ちする。
 
 アーヴァインは困惑した表情で頷くと

「父上達が戻ってきた。玄関で出迎えるぞ」

 ☆

「マールちゃん戻ってきてくれたのね! ママとっても嬉しいわ」
「久しぶりだな、マール。良く帰ってきてくれたな」

 花柄の刺繍が施された白いワンピースを身に包んだ、その清楚な女性は目に涙を浮かべている。
 アーヴァインの姉と言われても誰も疑わない程に若い。透き通った白い肌にはシミ一つなく、ウェーブがかった金髪を編み込んでいる為、少女の様にも見える。

 その隣で嬉しそうにほほ笑んでいるのが、モトグリフ家当主である父親のハミルトン・モトグリフである。金髪をオールバックにして、口元に髭を生やした渋い風貌だが、子供達同様に男前だ。

「……なんだ、マール戻ってきてたんだね。でも好都合、また暇が潰せる。くくっ」

 抑揚のない声で喋るその声に、春男は嫌な予感を感じる。

 リバースは、アーヴァインやカッツアの肩よりも低い身長で、金髪の髪を腰まで伸ばしている。一見女性に見えないでもない風貌の持ち主だが、正真正銘の男である。
 
 両手に大事そうに、継ぎ接ぎだらけの豚の人形を抱えている。

「……じゃあ、ボク実験があるから」

 そう言って背中を丸めて、春男達の間を幽霊の様に通り抜ける。
 それは、幽霊と比喩するに等しい生気のない歩き方だった。

「マール、気にしないでくれ、あの子はいつもああなんだ」
「そうだぜ、久しぶりに会ったのに挨拶もなしだしな」

 カッツアが唇を尖らす。

「何だか、個性的なご子息さんで、ちょっとびっくりしちまったけれども」
「!?」

 マールの母である、バーバラ・モトグリフが声にならない声を上げる。

「マールちゃん……リバースの事を忘れてしまったの!?」
「母上、マールは家出中に何やらショックな出来事があった様で、記憶を失っているのです」

 間髪入れずにフォローするアーヴァインの発言を聞いて、バーバラは安心した様に胸を撫でおろす。

「そ、そう、そうだったのね……。辛い思いをさせて本当に申し訳なかったわマールちゃん。安心出来る家に帰ってきたんだもの、記憶もその内に戻るわよね」
「え、辛い思いってなんすか? 俺何にも辛い思いなんてしてないっすけど」
「……うっ」

 その場に崩れ落ちて、泣き出すバーバラ。

「ちょ、お姉さんどうしたんすか」

 心配そうに駆け寄る春男の腕にすがるようにして立ち上がり、涙をふくと

「何でもないのよ。忘れているのなら、もあるわ。本当になんでもないのよ」

 そう気丈に振る舞うが表情は狼狽している。
 このお金持ちの一族には何か大きな秘密がある、と春男は感じ初めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...