上 下
24 / 25

24話:雑貨店アメリア

しおりを挟む

 翌朝には雨が止んでおり、窓の外には不思議な街光景が広がっていた。
 どの建物も奇妙な形で、滑らかな白色をしている。光沢のあるつるりとした見た目もあって、まるで角張った大きな真珠のようだ。
 その真珠は地上だけでは無く、空にもたくさん浮いている。
 ぷかりと海の泡のように並ぶそれらが居住用の家で、地上に並んでいるのは全て店舗なのだと、昔ノアは聞いたことがあった。
 街の各所に転移用の魔導具が設置されており、それを使用して家の出入りを行うらしい。
 そんな他の街とは大きく異なる街並みに、オリビアは宿の前で目を輝かせながら歓声を上げる。

「ノアさん! なんか浮いてますよ! ぷかぷかって!」
「あぁ、浮いているな」

 魔法の事に詳しくないノアからすれば、ふとした拍子に落下してくるような気がして落ち着かない光景だ。
 しかしオリビアが特に警戒して居ないことから、特に問題は無いのだろうと結論付けた。
 それに何より、オリビアが楽しんでいるならそれで良い。

「オリビア。今日は買い出しを行う予定だが、少し散策してみるか?」
「そうしましょう!」
「では手早く済ませるか。店はすぐ近くだ」
「はい!」

 テンションの高いオリビアを連れ、ノアは記憶の中の地図を頼りに歩き出した。
 店主は傭兵時代の仲間で、貴重な魔導具なども含め何でも取り扱っている店だ。
 色々な物があるからオリビアが喜ぶかもしれないな、と思いつつ、その光景を想像して若干顔が緩んでいた。

〇〇〇〇〇〇〇〇

 ノアの知り合いがやっていると店に着いた瞬間から、オリビアは不穏な空気を感じていた。
 入口には「雑貨店アメリア」と書かれた看板が下げられており、明らかに女性の好みそうな華やかな装飾が施されている。
 もしやと思い警戒しながら店内に入ると、そこには予想通りに少女が立っていた。

 空のように澄んだ青色の髪、ラピスラズリのような瞳。
 背は低く華奢な体つきで、まるで成功な人形のようだ。
 独特なデザインのモノクロなメイド服を着ているが、幼い顔とは不釣り合いに胸がかなり大きい。
 胸元が開いたデザインのせいでそれがより強調されていて、つい目線が向かってしまいそうになる。
 頭に飾られているのは愛らしいヘッドドレス。淡いピンクの花飾りが印象的だ。
 同性から見ても魅力的な彼女を前にして、少女としてのオリビアから聖女としてのオリビアに頭を切り替えた。
 これは強敵だ。気を引き締めなければならない。
 特に胸だ。彼女は自分には無い破壊力を持っている。

 少女はオリビア達の姿を見ると、イタズラめいた笑みを浮かべながらこちらに歩み寄って来た。
 
「あら、久しぶりねご主人様。今日はどうしたのかしら」
「アメリア。いつものやつを頼む」
「喜んで。少し待っていてね」

 アメリアと呼ばれた少女は笑顔のまま一旦店の奥に入ると、何やら大きな箱を持って戻ってきた。
 カウンターに置かれたその箱の中には、ノアが使っている金属の筒や黒色火薬がぎっしり詰められている。
 しかしオリビアが気になったのはそちらでは無い。

「ご主人様? ノアさん、こちらの方とはどのようなご関係なんですか?」
「あぁ、彼女はアメリアだ。元傭兵仲間で……何だったか。アメリア、俺たちの関係を前に何か言ってたろ」
「ご主人様と肉奴隷よ」

 アメリアがクスクスと笑いながらそう言った。
 ピシリと。オリビアの表情が凍り付く。
 いま何かおかしな単語が聞こえた気がする。
 再びアメリアの全身を見る。
 華奢で顔立ちは幼いが、メイド服を押し上げる胸は大きく、アンバランスながらも非常に魅力的な少女だ。
 確かに男性はこういう女の子が好きだと聞いたことがある。
 だが、さすがに聞き間違いだろう。そう願いながらオリビアが口を開く。

「えぇと、どういう意味なのでしょうか」
「すまないが意味は分からない。誰かにアメリアを紹介する時はこう言えと頼まれている」

 ノアのその言葉に、オリビアは女神のような微笑みを浮かべたままアメリアに向き直る。

「アメリアさん。そのような事を吹聴するのはあまり良くないですよ?」
「将来的にはご主人様専用のぷにあなになるから大丈夫よ」
「ぷにっ……⁉」

 いきなりの爆弾発言にオリビアが言い淀む。
 知識としてそういう嗜好があるのは知っていたが、自ら呼称するとは思いもしなかった。
 
「アメリア。いい加減その言葉の意味を教えてくれないか?」
「あら。じゃあ今晩私の部屋に来てくれる? 全部教えてあげるわよ」
「今晩か。オリビアも一緒なら構わないが」
「ノアさん⁉」
「ご主人様の初体験が三人でっていうのも楽しそうね。私は構わないわ」
「アメリアさん⁉」

 予想の斜め上を行く会話にオリビアが声を荒らげる。
 彼女としては非常に珍しく、と言うよりは物心が着いてから初めて、聖女の皮が外れかけていた。

「あら、冗談よ。ご主人様は何も理解していないでしょうし。それに貴女も未開封でしょう?」
「みっ⁉」

 両手を口元に当ててくすくす笑うアメリアに、咄嗟に言い返そうとするが上手く言葉が出て来ない。
 オリビアはこのような話を他人とした事がない為、勝手が分からないでいた。
 混乱する頭の中で必死に考え、とにかく自分の想いを主張しなければと口を開く。

「ノアさんは私のパートナーです!」

 咄嗟に放たれたその言葉に、ノアの胸に暖かなものが宿る。
 オリビアからパートナーと呼ばれた。それがとても嬉しい。
 何の話をしているかは全く分からないが、二人が楽しそうにしているから問題は無いのだろう。
 無垢な青年はそのように考え、負けられない戦いに挑むオリビアに柔らかな笑みを向けていた。

 アメリアはその事に気が付いて居たが、オリビアは位置的に見えないようだ。
 敢えて言及せず、まるで小悪魔のように笑う。

「パートナー。素敵な言葉だけれど、夜の相手を出来ないのならダメじゃないかしら」
「私たちはプラトニックな関係なんです!」
「若い男女が二人きりなのよ? オリビアさんが頑張らないといけないわ」
「私だって頑張っています! 色々と!」
「あら、そうなのね。ふぅん……ねぇオリビアさん?」

 くすくすと笑いながら、アメリアが一つの提案をする。

「良かったらご主人様の事を色々と教えてあげましょうか? 昔の話とか、聞きたくない?」
「是非よろしくお願いします!」

 オリビアが勢いよく頭を下げる。
 それはもう清々しい程の手のひら返しだった。

「でしたら、主人様は店番をお願いできる? 女の子だけの秘密のお茶会をしたいの」
「俺は構わないが……オリビア、大丈夫か? よく分からないが、無理をする必要はないからな?」
「えぇ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 一瞬で聖女らしさを身にまとったオリビアが微笑む。
 そのいつもの表情に安心したノアはカウンターの奥に座ると、オリビアの前でしか見せないあどけない笑みを浮かべた。

「俺の事は気にするな。何かあったら読んでくれ」

 オリビアは彼の子犬のような表情を見て、思わず抱きしめそうになるのを堪える。
 すると次いで、彼はアメリアに真剣な顔を向けた。

「アメリア、オリビアの事を頼む」
「あら、良いの? 私がオリビアさんを襲うかも知れないわよ?」
「からかわないでくれ。アメリアがオリビアを傷付ける訳が無いだろう」
「そういう意味ではないのだけれど……まぁ良いわ。さぁ聖女サマ、こちらへどうぞ」

 幼い姿に似合わない妖艶な笑みを浮かべ、アメリアはオリビアの手を引いて店の奥へと姿を消して行った。
 それを見届けた後、ノアはカウンターに置かれた荷物を手に取り、真剣な顔で中身の確認を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

処理中です...