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17話:出発

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 司祭服に着替えたオリビアが部屋から出て来るのを待って、ノア達は村の冒険者ギルドに向かった。
 建物内は昨日とは違い多くの人で埋め尽くされている。
 おそらく彼らは、村の依頼を受ける冒険者達なのだろう。
 ギルドの受付カウンターで依頼を受注する者、少し離れたテーブルで情報交換を行う者、出発前に手筈てはずを確認しあう者など様々だ。
 そんな中、二人は冒険者達を横目に、併設へいせつされた酒場兼食堂へと向かった。

 こちらも朝から喧騒けんそうに溢れかえっており、各々がテーブルに着き朝食をとっている。
 ノア達もくるくるとせわしなく歩き回る店員に声を掛け、二人分の代金を渡して朝食を注文し、比較的空いていた壁際の席に座った。
 ものの数分で渡されたトレイには豪華では無いが十分な量の朝食が盛り付けられている。
 小さな感謝の念を込めて、早速頂くことにした。

 今朝のメニューはシンプルで、オムレツとソーセージ、芋の入ったポタージュに白パンだった。
 ふわりと焼き上げられたオムレツは甘めで、塩気の効いたソーセージと良く合う。
 ポタージュは濃厚なのに後味が良く、素材の味が引き立ったスープはほんのり甘みを感じる。
 そしてどうやら自家製らしい白パンは柔らかく、もっちりとした食感は旅先では味わえない代物だ。
 それらが織り交ざった香りを楽しみながら順番に食べ進め、二人は十分もしない内に完食してしまった。

「オリビア。今日から魔導都市へ出発しようと思う。旅の買い出しは済んでいるが、構わないか?」
「えぇと、私は大丈夫です。すぐに出発ですか?」
「ああ。魔導都市で武具の手入れや火薬の買い足しもしたい。早めに出るとしよう」
「分かりました」

 簡単な打ち合わせを済ませてからトレイを返した後、念の為ギルドの方で依頼発注書を目にする。
 一応護衛依頼を探したがやはり見当たらず、取り立てて急ぎの依頼もなかった為、予定通りそのまま村を出ることにした。

 村の門の前で待機していた乗合馬車に乗り込むと、そこには冒険者風の青年達三人が座っていた。
 乗合馬車の専属護衛だろうか。皆茶色の短髪で顔が似ている所を見るに、兄弟なのかもしれない。
 ノアがそう考えていると、オリビアは彼らに向かって柔らかく微笑みかける。

「おはようございます。魔導都市までの間、よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします! ……あの、もしかして聖女様ですか?」
「はい。オリビアと申します」

 キラキラと目を輝かせる青年に彼女が答える。
 オリビアの清楚可憐な振る舞いに何故か誇らしさを感じながら、ノアは一番前の椅子に腰掛けた。
 自分が話し掛けられる事は無いだろうと思い腕を組んだ時、しかし青年達の一人が彼に声を掛けてくる。

「僕は冒険者のトムです、あっちの2人がタムとテム。貴方も冒険者ですか?」
「……そうだが」
「やっぱりそうですか! お名前を聞いてもいいですか?」
「ノアだ。家名は無い」
「……えぇっ⁉」

 黒衣の青年の名乗りに、青年達が揃って驚きの声を上げる。

「まさか……『残響の剣舞ファールウィンド』のノアさんですか⁉」
「……なんだ、それは?」

 珍しくパチクリと瞬かせ、ノアがたずね返した。

「何って、ノアさんの二つ名じゃないですか! ガンブレイドを使う無敗の元傭兵『残響の剣舞ファールウィンド』は冒険者やってて知らない奴はいませんよ!」
「……そう、なのか?」

 まさか自分がそんな呼ばれ方をしていたなんて知らず、彼は少し困惑する。

 事実、『残響の剣舞ファールウィンド』の二つ名を持つノアは、現冒険者の中でも最上位の戦力を持つと言われている。
 冒険者歴は浅いものの、傭兵時代に成し遂げた偉業は吟遊詩人達によって唄い広げられ、一部では救国の英雄と並ぶ程の人気を誇っていた。
 曰く、旧時代の武器であるガンブレイドを使い、あらゆる敵をほふる黒衣の剣士。
 その姿は一陣の旋風の如く、正に一騎当千。
 らしい。
 自身ですら忘れていたような戦歴を事を熱く語られ、ノアは困ったように首裏に手を当てた。

「そうか。オリビアは知っていたか?」
「知っていましたけど……ノアさんは昔の話を嫌がるので黙ってました。本人が知らないとは思って居ませんでしたけどね」

 オリビアに話を振ると苦笑いを返された。
 どうやら知らなかったのは自分だけのようだと、ノアは何とも言えず黙って眉尻を下げる。

「でも何で聖女様と?」
「ああ、オリビアの巡礼の護衛をしている」
「……え? 最上位の冒険者が護衛……?」

 三人揃って首をかしげる兄弟に、ノアは訳が分からずオリビアに視線を向けた。

「神託が下ったのです。黒衣の青年を共に巡礼の旅に出よ、と」
「なるほど! さすが二つ名持ちの冒険者ですね!」

 ノアには良く分からない話だが、どうやら彼らはその一言で納得したらしい。
 揃ってうなずく彼らの様子にオリビアがクスクスと笑い、自然とノアも穏やかな笑みを浮かべていた。


 しばらく馬車の前方の席で四人の歓談を聞いていると、御者ぎょしゃ席から窓越しに声を掛けられた。

「出発するが、大丈夫かい?」
「構わない。だが、他に客はいないのか?」
「今日は聖女様とあんただけだよ。そっちの三兄弟は専属護衛だ」
「そうか。じゃあ頼む」

 素っ気なく返すノアにニカリと笑い返し、御者は馬車の窓を閉める。
 すぐに馬のいななきが聞こえ、ガタゴトと馬車が走り出した。
 思っていたより揺れが少なく、賑やかな三兄弟のおかげもあって、ノアは想定より快適な旅になりそうだと感じた。
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