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26話「でもこれ、絶対怒られるんだよなぁ」
しおりを挟む捕獲した海賊たちはとりあえずマストに縛り付けておいた。
そちらはまぁ、護衛の冒険者達が交代で見張りをしてくれるから大丈夫だろう。
問題はこっち。奴らが乗ってた海賊船だ。
俺たちの乗っている船とロープで結んで引っ張っては居るものの、舵取り役がいないと少し危ない。
と言う事で、俺たちが船の操作を行うことになった。
うーん。俺たちも客なんだけどなぁ。
まぁ報酬貰えるらしいし、危険もないから別にいいか。
とか。思ってたんだけど。
「おいおい。なんだこりゃ……」
船室に入ると、小さな光を放つ魔導具に照らされて、十人程の子ども達が部屋の隅に固まっていた。
みんな痩せこけていて、ボロ布を着ている。
そして皆、怯えきった目でこちらを見つめている。
「……人さらい?」
「だと思うよなぁ、やっぱり」
なにせ海賊だもんな。それくらいやってても不思議じゃないけど。
ただ、この人数は多すぎないか?
それに、人さらいにしちゃ様子がおかしい。
繋がれも閉じ込められもしていないし。
「ねぇお姉ちゃん達、おじちゃん達はどこに行ったの?」
「あの方達ならあっちの船の中ですよ」
「わぁ、おじちゃん達とお友達なの?」
「えぇとですね、お友達という訳では……ライさん?」
対応するジュレの前に出て、目線を合わせるために屈み込む。
「あいつらは昔からの友達でな。久しぶりに会ったんで大人たちで騒いでんだよ」
「そうなんだ! 私達も行っていいかなぁ?」
「すまん、今回は我慢してくれ。そんでさ、お前ら何であいつらと一緒にいるんだ?」
「えっとね、私たちはみんな、親が居ないの。だからおじちゃん達と一緒に暮らしてるんだよー」
「あー……おっけ、大体分かった。ありがとな」
わしわしと頭を撫でてやると、キャッキャと喜ばれた。
なるほど、と思う。見たところ、子どもたちは働ける年齢ではない。
この数の孤児を養おうとしたらまともな仕事じゃ無理だろう。
それこそ、海賊でもしない限り。
まぁ違和感はあったんだよ。海賊なのに大砲も矢も撃ってこなかったし、魔法が使えるのに攻撃魔法も使わなかった。
多分、脅すだけのつもりだったんだろうなー。
うーん。これはまた、面倒だけど……
「アル、ジュレ、ここは任せた。俺とサウレはあいつらと話してくる」
「お任せください!」
「お断りします」
「良いから黙って言うこと聞いてろ、変態が」
「はぁはぁ……ありがとうございます!」
子ども達の教育に悪いからやめてくんねぇかな、マジで。
前の船に戻ると、目を覚ましたおっさん達がクレア達に取り囲まれていた。
おぉ、起きてたか。ちょうどいいわ。
「よぉ、目が覚めたかよ」
「くそっ……この卑怯者が!」
「うるせぇわ海賊モドキ」
「……なんだと?」
「馬鹿だなあんたら。港町アスーラに行きゃあ解決する問題なのによ」
まぁ、気持ちは分かるけどな。
余裕が無い時ってどうしても頭が回らなくなるもんだし。
動きを見た感じ、こいつら多分初犯だし。実害出る前で良かったわ。
「あの子たち、戦災孤児だろ?」
「……見たのか。あぁそうだ、あいつらに飯を食わさなきゃならねぇからよ」
「だーからさー、誰か思いつけよ。あいつら、子どもだぞ?」
「何が言いたい?」
「あーもー。とりあえずお前ら全員、アスーラに連行な。暴れたり逃げたりしないなら船に戻っていいぞー」
もし暴れた時の為に、念の為サウレにアイコンタクトを送っておいて、おっさん達の縄を解いてやる。
冒険者連中も含めて、みんな揃って呆気に取られた顔をしていた。
「……なんなんだ、お前。俺たちゃこの船を襲ったんだぞ?」
「いやまぁ、はっきり言うがあんたらに勝ち目はねぇよ。一流冒険者が二人乗ってるからな、この船」
「まじかよおい……くそ、どこまで運ないんだよ俺たち……」
「ばーか。悪事働く前に止められて良かっただろうが。お前ら犯罪で手に入れた金であの子たち養う気か?」
それを知ったらあの子たちがどう思うか。
まぁ、それで喜ぶような奴らにはなってほしくねぇわな。
「だが! ……他に手の打ちようが無かったんだ!」
「だからさー。なんでそう頭が固いかね。一応英雄の話だからあんたらも知ってるはずなんだけど」
「……何が言いたいんだ、お前」
「分かんねーならいいよ。どうせアスーラに着いたら引き渡すし」
たぶん。何となくだけど、アスーラにいる気がするしな。
いなくてもまぁ、何とかなるだろうし、うん。
「とにかく大人しくしとけ。悪いようにはしねぇから」
「……意味は分からねぇけど、拒否できる立場でもねぇからな。大人しく従おう」
「おう。あぁ、食い物と水はあるか? 無いなら俺たちの予備分持ってけ」
「そりゃ助かるが……何なんだ? 何でそこまでしてくれるんだ、アンタ」
「うちの家訓でな。困ってる奴がいたら自分の出来る範囲で助ける。助けられたら他の奴に手を貸す。そうやって世界は回ってるんだってさ」
それに、彼女なら。
子どもが腹を空かせてる状況を放っておくわけねぇし。
……うわぁ。でも、会いたくねぇなー。絶対怒られるもん、俺。
「気にせず受け取っておけ。そんで、笑ってろ。大人が笑ってないと子ども達は不安になるからな」
「……すまねぇ、感謝する」
「おぅ、感謝されとく。んじゃ、アスーラ着いたら呼びに行くから船に戻っとけよ。
一応言っておくが、いらん事したらサウレに撃たせるからな」
「あぁ、分かってる。アンタらを敵に回すつもりはねぇよ」
両手を上げて、降参だと苦笑いする。
とりあえずこれで良いか。面倒事にならなくて良かったわ。
「サウレ。一応気にかけといてくれ。こいつら逃げたら子ども達が困る」
「……分かった。けど、何をするの?」
「なんだ、お前も分からねぇのかよ。まぁ大丈夫だから安心しろ」
頭の固い奴らばかりだなー。もっと俺みたいに適当に生きれば楽だろうに。
自分たちで面倒見れないなら。そして、見捨てることも出来ないなら、どうしたら良いか。
簡単な話だ。周りを巻き込めば良い。
ただそれだけの話だろうが。
何にしても、出来れば会いたくねぇんだが……まぁ仕方ないか。
俺も見ちまったしなぁ。放っておくわけにもいかねぇし。
でもこれ、絶対怒られるんだよなぁ。
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