華鬘草

🌸幽夜屍姫🌸

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第二章 時間

第三話

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いつもの朝。なくてもいいチャイム。

「おーい!ウリアー!一緒に行こうぜー!」

だから俺退学したんだっつーの。
あのバカはひとりがさみしいみたいだから、仕方なく外に出る。
制服にパーカーを羽織ったいつもの姿で出迎える幼馴染のバカ。
相変わらずかなり玄関に近いところで待ち構えている。

「いい加減お前のボサボサ頭なんとかなんねーの?」

コイツ、人の髪型にケチつけやがった。
ウリアは腹が立ったので、

「お前もボサボサだろ」

と、返してやった。
あのバカは笑いながら

「オレはこういう髪型にしてんの!」

とか言い出した。
ウゼー。
そんなやりとりをしていると、コイツは人の家の中を覗き込んで、
あれ、とか言って首を傾げている。

「なんか文句か?」

ウリアが問えば、

「いやぁ…ウリアって妹いたっけ?」

バカが言う。
ウリアは深くため息をついて、

「いねーよ、バーカ」

俺たち不本意ながら幼馴染だろうが。
兄妹がいないことくらいわかってるだろうに、何をいまさら。

「え…じゃあ…彼女・・?」

コイツがニヤニヤしだしたのでさすがにおかしいと思い、
ウリアは家の中を見る。

す、と何かが動いた。

本人はうまく隠れているつもりなのだろうが、無駄にひらひらしたマントは
チェストの影からはみ出しまくっていた。

常葉トコノハだ。

ウリアはため息をつきながら携帯端末を取り出し、
画面に表示されている数字を゛110”と指を滑らせる。

「もしもし、警察ですか?」

ウリアの言葉を聞くと、バカは呆けた顔で、
え、通報していいの?とか言っている。

「家の中に不審人物がいます。これ不法侵入っすよねー。
 …あ”?住所っすか?住所は―――」

常葉はウリアが何をしているのかわからず、ただこっそりと隠れ続けている。
ヤツは何か考えながら、じっと電話が終わるのを待っていた―――。
―――。
――。

***

もうすぐ学校に着く。
その時にヤツは言った。

「なぁ、お前の家にいた子って女神様じゃね?
 大きかったけど、なんか面影があるっていうかさぁ…違う?」

ウリアは本当のことを言おうか迷った。
もし本当のことを言ったとして、なぜ女神と暮らしているのかと聞かれても答えられない。
そもそも暮らしてなどいないのだ。
その質問はそっくりそのまま常葉にしてやろう。
そう考えながら歩き続ければ、もう学校の校門は目の前。
さっさと切り上げてしまおう。
面倒なことになる前に。

「知らん」
「へ?」
「知らんっつった。じゃあな」

そう言ってくるりと校門に背を向け歩く。
アイツはしばらく呆けていたが、やがてウリアの上着を掴み、

「おいっ!待て待て!オレたちの仲だろ!?隠すなって!」

イラッ。
ウゼーな、遅刻するぞこのバカ。

「邪魔だチービ!もう8時50分だぞ!」

ウリアが言うと、ヤツは

「チビですみませんんーー!お前がでかすぎ―――って、ん?
 50分??ウソォーーー!!」

とか言い出したので、上着を掴んでた手の力が緩んだ。
その隙にウリアは全力疾走。

「あっ!ウソついたな!?ウリアーーーっ!!」

あぁ、バカが遠くで叫んでるよ。
ざまぁ。

***

ウリアは家に帰ってみたが、常葉はどこにもいなかった。
そのことに少し安心して。
また、少し不安でもあった。
安心する意味は分かる。
ただ、なぜ不安になるのかは分からない。

だから、ただ何となくの感覚で常葉を探す。

年寄りだらけの、人がまばらな昼の街をさまよう。
九年前、目の前で死んだ男の子に恋した女神。
生きながらにして死んでいる街を創った女神。
願いが必ず叶う女神。

常葉トコノハ

ふと目の前に、腰を屈めたおじいさんがいた。
杖を震える手で突きながら、ゆっくりと歩く。
ウリアがその横を通り過ぎようとしたとき。
そのおじいさんが、独り言を言っていることに気づいた。

「九年に一度女神さまが天から降りてくるそうだ。
 九年に一度、私たちに会いに来るそうだ。
 そしてほんの三カ月滞在なさる―――」

「―――――」

それは、ヴィーナスの言い伝え。
金星ヴィーナスの言い伝え。
誰もが知っているはずの―――。

ただウリアは興味なかったので知らない。

今まで右から左へ聞き流していた言い伝えに、ウリアは立ち止まる。

三カ月―――。

常葉がここにとどまるのは三カ月。
それが過ぎれば、また次に会えるのは九年後になる。

(俺、何考えてるんだ…?)

別に常葉と一緒にいようがいまいが、自分には関係ないだろう。
むしろ気楽なのかもしれない、とさえ思える。

゛私が―――ウリアくんを好きになっちゃったから”

くそっ。
なんで今あの言葉が。
あいつはきっと自分ウリアの命の恩人。
ただ、まだ何もお礼もしてないし、なにをすればいいのかわからない。

そうか。

だからまだ、別れるわけにはいかないんだ。
きっとそうだ。
そう思いたい。
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