華鬘草

🌸幽夜屍姫🌸

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第一章 再会

第三話

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白い少女はようやく傷口を洗い終えたらしく、
軽くハンカチで拭いてからさっきの絆創膏を貼る。
なぜかすごくうれしそうなこの少女になんて声をかければいいか、
ウリアは本気で考えた。

「ねぇ、ヨミノクニ…知ってる?」

少女は無邪気に問うてきた。

「ヨミノクニ…?なんか聞いたことあるような…」

はっきりとは思い出せないけれど。
絵本か小説か漫画か。物語として出てきた名詞か。
いや、もっと身近に聞いたことあったような。
問いの答えを探していると、ふふふ、と少女は笑いながら突然ウリアの手を引いて走り出した。

「はぁ!?なんだよいきなり…訴えるぞ!」

そう声を上げるも、少女はどこ吹く風。
ただひたすら楽しそうな少女に手を引かれるまま走って辿り着いたのは、
街の隅っこにある砂場。
少女は手ごろな枝を拾い、砂を掻き分けるように書く。

黄泉国ヨミノクニ

何だろう。
見たことある。この変な記号。

「そしてこれが私の名前!」

少女はさきほどの記号の横に、また違った記号を書いた。

常葉

あぁ、分かった。この少女は宇宙人だ。
そんなウリアの考えはいざ知らず、少女はウリアが読めないのを知ると嬉しそうに笑って

常葉トコノハ

と、さっきの記号の上に読み仮名を書いた。

「あれだけあなたにバカにされたんだもん。私、頑張ってカタカナ覚えたんだよ」

そう言って得意げに笑う。
そして枝をウリアに渡す。
にっこり笑って待っている。

なんだろう―――この、懐かしい感じ。

なぜわざわざ書かなければいけないのか、という疑問がよぎったものの、
なぜかその枝を受け取り、砂に書いてしまう。
黒いコートに砂の白が混ざるのを考える余地などなく、無意識に。
ウリアは妙な懐かしさのせいだ、とそう思い込むことにした。

「ウ…リ…ア…。ウリアくんか…」

少女は一文字ずつ読み上げ、最後に確認するようにつぶやく。

「よし!゛ウリウリ”って呼ぶーっ!!」
「却下」

嬉しそうに立ち上がりながら、とんでもなく恥ずかしい呼び方に決定しようとする常葉を問答無用で一刀両断する。

「あぅ…」

常葉は悲しそうにうつむく。
しかしすぐに顔を上げると、ウリアの顔を覗き込み、

「思い出してくれた…?私のこと…」

ウリアはその常葉の問いに首をひねる。

「九年前…ここにあったはずの森で会った、
 ひとりの少女のこと…思い出してくれた…?」

不安げに揺れる大きなエメラルドの瞳。
別に思い出さなくてもいいはずなのに、なぜか必死で思い出そうとしてしまう。
きっと思い出せないままというのが気持ち悪いからだ、とまた勝手に思い込む。

「あ…」

長い金髪。
白いマント。
天使の羽根の髪飾り。
あぁ―――あの時の―――

「でっけー袋引きずってたあのチビ子か!!」

思い出した。
狼に喰い殺されたらしいあの日。
森の探検に出かけたら、大きな袋を引きずってる奇妙な少女を見つけ、
その袋から零れ落ちる本を拾いながら後をつけていたこと。
問いに応えず、なぜか地面に妙な記号を書き始めた変な少女を。

思い出した。なのに、

「ちょっと!そんな思い出し方ってひどいっ!!」

常葉は不満げに口を尖らせ、そっぽを向いてしまった。
どうすればよかったのかは分からない。

***

ウリアくん、ウリアくん。
やっと会えた。
よかった、ちゃんと生きていた。
そして―――思い出してくれた。

はじめは人違いかな?とも思った。
だって不審者扱いするんだもん。
九年前と性格も姿も全然違うけど。

でも―――

忘れられない、あのダークブルーのぼさぼさ頭。
それと、あの時の彼の腕にあった絆創膏。
今は、私の膝にもある彼の絆創膏。

ほんの三カ月。
私はあなたと過ごしたい―――。
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