17 / 21
17. 亀裂
しおりを挟む
家に到着すると、今は完全に置き物となってしまった母さんの車の隣に、一台の白い車が停まっていた。
(ああ…そっか。今日は伯母さんが病院に連れていってくれたんだっけ…。)
庭先で軽く水やりをしていたところ、玄関から伯母さんが出てきた。どうやらこれから帰るようだ。
「ん…?ああ、お帰りなさい夕也君。」
「こんにちは。今日は母さんがお世話になりました…。それで、身体の方はどうでした…?」
「そこまで大事ないみたいだけど...一応、一週間はなるべく安静にするように、って言われてるわ。」
「そう…ですか。」
「ごめんなさいね、夕也君。あの子…お母さん、最近ワガママばっかり言ってるんじゃない?」
「ええ...まあ、そうですね…。」
伯母さんがこう訊いてくるということは、大方、母さんから僕に対する不満でも聞かされたのだろう…。
「全く、あの子ったら...昔っから落ち着きがなくてねぇ…。」
「母さんが…?」
「ええ。旭君が生まれてからは、少しはしっかりしてきたと思ったんだけど...旦那…お父さんが居なくなってからは、また前みたいに戻っちゃってね。」
「え...そうなんですか…?」
「あなた達の前では気丈に振る舞ってたんでしょうけど、私と二人で居る時はいっつも弱音ばっかり吐いてたのよ。毎日忙しくて辛いとか、子供達を立派に育てていく自信が無いとか……って――、ごめんなさい!こんな話聞きたくなかったかしら…?」
「いえ...大丈夫ですよ。昔の母さんの事知れて良かったです。」
「それならよかったわ…。だからって言うのもなんだけど...なるべく大目に見てあげてね。お母さん…事故の影響で感情の抑えが効かなくなってるんだと思うの。」
「そうですね...分かりました。」
「それと…今夜のおかずはあの子の希望でハンバーグにするから、帰り際にまた千夜子ちゃんに持たせておくわね。これくらいの事しか出来なくて申し訳ないけど…。」
「そんな!これくらいだなんて…本当に、いつも助かってます。」
「そう言って貰えるとありがたいわ。それじゃあ、お母さん…日向のことよろしくね、夕也君。」
「はい…ありがとうございました。」
5人乗りの白のワゴン車を見送り、水やりも終えて家へと入っていく。
「ただいまー。」
聞こえていないのか...そうでないのかは知らないが、返事はない。
朝はドタバタしていたため、母さんとまともに顔を合わせることもなかった。そのため...今の母さんがどんな様子なのかは分からないが、きっとまだへそを曲げていることだろう。
…昨日決めた通り、こちらから謝る他ない。とはいえ…正直、こちらに非があるとは思えないので、何をどう謝ったものか見当がつかない。この場合、非を認めて謝るというよりは、自分の至らなさを詫びるという方がしっくりくる。…となると、「最近忙しくて、構ってあげられなくてゴメン。」といった感じだろうか…。
リビングの戸を開けると、紅茶の入ったティーカップを片手に、伯母さんが持ってきたであろうお茶菓子を…おぼつかない手つきでつまむ母さんの姿があった。
「あら、おかえりなさい。」
「うん...ただいま。…あのさ、母さん。最近、家の事とかちゃんと出来てなくてごめんよ…。」
「いいのよ。だってアナタ...最近忙しいんでしょう?」
(やっぱりまだ怒ってる・・・)
母さんが僕を”アナタ”と呼ぶときは――大体、何か不満があるときだ。
「そうだけど...」
「忙しいのに無理言ってごめんなさいね。別に大変だったら、食事も毎回用意しなくてもいいのよ。」
(・・・そう来たか。)
その謝罪からは誠意や気遣いといったものは全く感じられず、ある種の当てつけのように思えてならない…。
「それに...これからはお風呂の介助も必要ないから。」
「え・・・。それってどういう…」
ピンポーン――。
「丁度来たみたいね。」
(・・・?)
「ごめん...僕出てくるから、話は後でね。」
母さんの最後の一言が、妙に引っ掛かったが…今はとりあえず来客の対応に向かおう。
(ああ…そっか。今日は伯母さんが病院に連れていってくれたんだっけ…。)
庭先で軽く水やりをしていたところ、玄関から伯母さんが出てきた。どうやらこれから帰るようだ。
「ん…?ああ、お帰りなさい夕也君。」
「こんにちは。今日は母さんがお世話になりました…。それで、身体の方はどうでした…?」
「そこまで大事ないみたいだけど...一応、一週間はなるべく安静にするように、って言われてるわ。」
「そう…ですか。」
「ごめんなさいね、夕也君。あの子…お母さん、最近ワガママばっかり言ってるんじゃない?」
「ええ...まあ、そうですね…。」
伯母さんがこう訊いてくるということは、大方、母さんから僕に対する不満でも聞かされたのだろう…。
「全く、あの子ったら...昔っから落ち着きがなくてねぇ…。」
「母さんが…?」
「ええ。旭君が生まれてからは、少しはしっかりしてきたと思ったんだけど...旦那…お父さんが居なくなってからは、また前みたいに戻っちゃってね。」
「え...そうなんですか…?」
「あなた達の前では気丈に振る舞ってたんでしょうけど、私と二人で居る時はいっつも弱音ばっかり吐いてたのよ。毎日忙しくて辛いとか、子供達を立派に育てていく自信が無いとか……って――、ごめんなさい!こんな話聞きたくなかったかしら…?」
「いえ...大丈夫ですよ。昔の母さんの事知れて良かったです。」
「それならよかったわ…。だからって言うのもなんだけど...なるべく大目に見てあげてね。お母さん…事故の影響で感情の抑えが効かなくなってるんだと思うの。」
「そうですね...分かりました。」
「それと…今夜のおかずはあの子の希望でハンバーグにするから、帰り際にまた千夜子ちゃんに持たせておくわね。これくらいの事しか出来なくて申し訳ないけど…。」
「そんな!これくらいだなんて…本当に、いつも助かってます。」
「そう言って貰えるとありがたいわ。それじゃあ、お母さん…日向のことよろしくね、夕也君。」
「はい…ありがとうございました。」
5人乗りの白のワゴン車を見送り、水やりも終えて家へと入っていく。
「ただいまー。」
聞こえていないのか...そうでないのかは知らないが、返事はない。
朝はドタバタしていたため、母さんとまともに顔を合わせることもなかった。そのため...今の母さんがどんな様子なのかは分からないが、きっとまだへそを曲げていることだろう。
…昨日決めた通り、こちらから謝る他ない。とはいえ…正直、こちらに非があるとは思えないので、何をどう謝ったものか見当がつかない。この場合、非を認めて謝るというよりは、自分の至らなさを詫びるという方がしっくりくる。…となると、「最近忙しくて、構ってあげられなくてゴメン。」といった感じだろうか…。
リビングの戸を開けると、紅茶の入ったティーカップを片手に、伯母さんが持ってきたであろうお茶菓子を…おぼつかない手つきでつまむ母さんの姿があった。
「あら、おかえりなさい。」
「うん...ただいま。…あのさ、母さん。最近、家の事とかちゃんと出来てなくてごめんよ…。」
「いいのよ。だってアナタ...最近忙しいんでしょう?」
(やっぱりまだ怒ってる・・・)
母さんが僕を”アナタ”と呼ぶときは――大体、何か不満があるときだ。
「そうだけど...」
「忙しいのに無理言ってごめんなさいね。別に大変だったら、食事も毎回用意しなくてもいいのよ。」
(・・・そう来たか。)
その謝罪からは誠意や気遣いといったものは全く感じられず、ある種の当てつけのように思えてならない…。
「それに...これからはお風呂の介助も必要ないから。」
「え・・・。それってどういう…」
ピンポーン――。
「丁度来たみたいね。」
(・・・?)
「ごめん...僕出てくるから、話は後でね。」
母さんの最後の一言が、妙に引っ掛かったが…今はとりあえず来客の対応に向かおう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる