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14. 月
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昔から、月を見るのは好きだった――満月なら尚更良い…。今日の月は、満月の前後2~3日くらいの月だが、月光浴と呼ぶには十分な明るさだ。
蒼白い月の光に照らされて、頭の中で蠢く様々な思考を一つ一つ消していく。
マインドフルネスというのだろうか…それとも瞑想?どちらでもいいけど…とにかく、ただボーっと月を眺めながら、何も考えないことだけに注力する。
これをすると浄化されるような気分になり、30分も続けると、頭の中がスッキリして日常のストレスや不安がほんの些末なことに感じられるのだ。
しかし...先ほどから、何度消しても繰り返し浮かんでくる…不死鳥のような思考が頭の中を侵食する。
(・・・暑い…。)
兄さんも言っていたように、エアコンを付ければいい――そんなことは初めから分かり切っている。でも...一度エアコンに頼ってしまうと、この先もずっと甘えてしまいそうな気がして、どうしても使うのが憚られる。日中であれば太陽も出ているということで言い訳も出来るが、夜まで付けていると何だか負けたような気分になる……何にかは知らないが。
(あー...汗ベタベタで気持ちわる・・・。シャワー浴びてサッパリしたいなあ…。)
僕の脳内はもう、『暑い』の二文字にすっかり支配されていた。
コンッ、コンッ、コンッ―――。
「おにぃ~、入るよー。」
控えめなノックと共に千夜子が入ってくる。
「おー、どうした?千夜子。」
「あ、起きてたんだ。電気消えてたから、もう寝ちゃってるのかと思った。」
「まあ…ちょっとな。」
「ふーん、そ…。それよりお風呂空いたけど、おにぃは今日も入らないの?」
「あ~~……ま、そうだな。また朝シャワーでいいよ。」
「……またエアコン付けてないし…」
千夜子がボソッと何か言ったが、上手く聞き取れなかった。
「ん…なんて?」
「…何でもない。おにぃさぁ…疲れてるんだから、たまにはゆっくり湯船にでも浸かってきたら?」
「疲れてる・・・?兄ちゃん、そんなに疲れてるように見えるか…?」
「他はどうか知らないけど...分かるよ。ずっと一緒に居るんだから。」
「・・・そっか。分かった、じゃあ僕もお風呂入ってくるよ。」
「うん。それと…ちょっと話があるから、お風呂上がったらわたしの部屋に来てくれる?」
「・・・?ああ、いいけど…。」
千夜子の言う、話が気になったが…ひとまずは、その厚意をありがたく受け取ることにした。
白い、浴室の天井の一点を見つめながら、ゆったりと浴槽に浸かる。こうして首の後ろを伸ばしていると、脳に詰まった悪いモノが、温められて良くなった血流に乗って全身に流れていくのを感じられる。
お風呂の温かさも、夏の暑さだって同じ熱なのに、ここまで感じ方に差が生まれるのはなぜだろうか…?
心地良い温度のお湯に包まれていると、何故だか茜さんのことを思い出す…。
千夜子は…ずっと一緒に居るから、僕が疲れているのに気付いたと言っていた。
実際、僕もそこまで表に出していたわけじゃないから、いつも僕をよく見ている――それこそ家族でもなければそうそう気付かない筈だ。
それなのに...どうして茜さんは気付いたのだろう…。
ここで...茜さんに助けてもらってから、母の僕に対する態度は険悪なものであった。お礼だって茜さんにしか言わなかったし、僕が買ってきた好物のカニクリームコロッケに対しても、特に何のコメントもなかった。
自分で招いたトラブルだというのに、僕のせいだ――とでも言いたげな、まるで間違いを認められない子供のような態度だった…。
(・・・あれじゃあ、まだ10歳にもなっていない千夜子の方がよっぽど大人じゃないか…。)
(そういえば...話って何だろうな…?)
タイミング的に考えると、やっぱり母さんと僕の仲を心配してくれてのことだろう。
小4の女児にケンカの仲裁をしてもらう、中2男子と45歳の母親……この構図を考えると情けなさでいっぱいになる…。
千夜子に余計な心配をかけないためにも、ここは僕が折れて――いや...大人になって、先に謝ろう。
母さんは事故の影響で子供に戻ってしまった。
千夜子だって本当は、まだまだ我儘を言っていい年頃なのに…色々と我慢させてしまっている。
だから...僕が大人になる他ないのだ。
でも・・・僕だって、本当は...
(もう少し子供で居たかったな――。)
鼻をつまみ、湯船の中へと沈んでいく…。
蒼白い月の光に照らされて、頭の中で蠢く様々な思考を一つ一つ消していく。
マインドフルネスというのだろうか…それとも瞑想?どちらでもいいけど…とにかく、ただボーっと月を眺めながら、何も考えないことだけに注力する。
これをすると浄化されるような気分になり、30分も続けると、頭の中がスッキリして日常のストレスや不安がほんの些末なことに感じられるのだ。
しかし...先ほどから、何度消しても繰り返し浮かんでくる…不死鳥のような思考が頭の中を侵食する。
(・・・暑い…。)
兄さんも言っていたように、エアコンを付ければいい――そんなことは初めから分かり切っている。でも...一度エアコンに頼ってしまうと、この先もずっと甘えてしまいそうな気がして、どうしても使うのが憚られる。日中であれば太陽も出ているということで言い訳も出来るが、夜まで付けていると何だか負けたような気分になる……何にかは知らないが。
(あー...汗ベタベタで気持ちわる・・・。シャワー浴びてサッパリしたいなあ…。)
僕の脳内はもう、『暑い』の二文字にすっかり支配されていた。
コンッ、コンッ、コンッ―――。
「おにぃ~、入るよー。」
控えめなノックと共に千夜子が入ってくる。
「おー、どうした?千夜子。」
「あ、起きてたんだ。電気消えてたから、もう寝ちゃってるのかと思った。」
「まあ…ちょっとな。」
「ふーん、そ…。それよりお風呂空いたけど、おにぃは今日も入らないの?」
「あ~~……ま、そうだな。また朝シャワーでいいよ。」
「……またエアコン付けてないし…」
千夜子がボソッと何か言ったが、上手く聞き取れなかった。
「ん…なんて?」
「…何でもない。おにぃさぁ…疲れてるんだから、たまにはゆっくり湯船にでも浸かってきたら?」
「疲れてる・・・?兄ちゃん、そんなに疲れてるように見えるか…?」
「他はどうか知らないけど...分かるよ。ずっと一緒に居るんだから。」
「・・・そっか。分かった、じゃあ僕もお風呂入ってくるよ。」
「うん。それと…ちょっと話があるから、お風呂上がったらわたしの部屋に来てくれる?」
「・・・?ああ、いいけど…。」
千夜子の言う、話が気になったが…ひとまずは、その厚意をありがたく受け取ることにした。
白い、浴室の天井の一点を見つめながら、ゆったりと浴槽に浸かる。こうして首の後ろを伸ばしていると、脳に詰まった悪いモノが、温められて良くなった血流に乗って全身に流れていくのを感じられる。
お風呂の温かさも、夏の暑さだって同じ熱なのに、ここまで感じ方に差が生まれるのはなぜだろうか…?
心地良い温度のお湯に包まれていると、何故だか茜さんのことを思い出す…。
千夜子は…ずっと一緒に居るから、僕が疲れているのに気付いたと言っていた。
実際、僕もそこまで表に出していたわけじゃないから、いつも僕をよく見ている――それこそ家族でもなければそうそう気付かない筈だ。
それなのに...どうして茜さんは気付いたのだろう…。
ここで...茜さんに助けてもらってから、母の僕に対する態度は険悪なものであった。お礼だって茜さんにしか言わなかったし、僕が買ってきた好物のカニクリームコロッケに対しても、特に何のコメントもなかった。
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母さんは事故の影響で子供に戻ってしまった。
千夜子だって本当は、まだまだ我儘を言っていい年頃なのに…色々と我慢させてしまっている。
だから...僕が大人になる他ないのだ。
でも・・・僕だって、本当は...
(もう少し子供で居たかったな――。)
鼻をつまみ、湯船の中へと沈んでいく…。
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