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11. お日様
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期末テストを約一週間後に控えた僕はどういう訳か――今、草むしりをしている。
小さい頃はお駄賃が貰えたりもしたため、嫌々ながらもそれなりに頑張れた記憶が残っている。しかし...最低賃金という概念を知ってしまった今となっては、1時間を越える過酷な労働の後に、500円ぽっちを貰って喜んでいた昔の自分は愚かだったとしか言いようがない。
あまりこういう事を言うものではないが…世の中にはもっと楽な仕事をしながら高い給料を貰っている人もいる訳で――それに引き換え今の僕は、こんなにハードな仕事をたったの500円のお駄賃も無しにやらされているのだから、そりゃあ不平不満の一つや二つも言いたくなるというものだ。
(・・・イヤ、やめよう…。)
そんなドコの誰とも知らない貴族様と自分を勝手に比べて、一人で惨めになっていたって何にもならない。
…しかし、こうも暑いと無性にイライラしてしまう…。
(太陽というヤツは、どうしてこうも加減というものを知らないんだ…。馬鹿なのか…?そうだ、きっと馬鹿なんだろう。)
人は負の感情を抱えたままではいられない…世の中にはそれらを一身に受ける、スケープゴートが必要なのだ。悪役の登場しない物語は退屈でつまらないし、SNSでは、どこかに叩いてもいい人間が居ないかと、皆が常に目を光らせている。
でも...僕の物語には、悪役も叩いていい人間も存在しない。だからこそ、こうして行き場の無い怒りをオブジェクトにぶつける事で発散する。太陽であれば、結局のところは物質に過ぎないので、どれだけ非難しようとも誰かを傷つける事も無い……はずだ。
(いや…太陽の場合、天照大神とかに当たるのかな…?そういえば、太陽崇拝なんてものもあるらしいし...たった今僕は、神様を侮辱したことになるんだなぁ。
あーあ...この先ロクな目に遭わないだろうな…。)
「ふ~...暑いわねー。」
(うん。そりゃあ、今夏だし、ここ外だしね。)
「そうだねー。」
と、これ以上の失言をしないよう、適当な返答をしておく。
恐らく...今の僕は疲れている。気を抜くと、余計な事を口走りそうなくらいには。きっとお天道様も、その寛大で暖かな心を以ってして赦して下さることだろう――。
修行同然の苦行も終えて、ようやく一息……ともいかず、これから夕飯の準備をしなければならない。…とはいえ、さっきの草むしりでもう三人分の食事をゼロから作る程の気力は残っていない。
(そういえば...昼のそうめんもまだちょっと残ってるし、追加で茹でて、晩もそうめんにしよ…。)
そう思ってそうめんを茹でていると、替えの服を抱えた母さんがやって来た。
「あら…?お夕飯もまたそうめんなの?」
(誰のせいだと思ってるんだよ…。)
「ああ、ごめん…。母さんには何か他のを準備しとくから…。」
「ううん、いいのよ~。それよりも、またお風呂に入りたいから手伝って欲しいのだけど…」
「母さん…悪いけど、他にも準備するものがあるから夕飯の後にしてもらえるかな…?」
「そう...分かったわ。」
母さんはいつもよりワントーン低い声でそう言うと、明らかに不機嫌そうに部屋へと戻っていった…。
(・・・ハァ。)
母さんはそうめんでもいいと言っていたけれど...あれは本当にそうすると、後々もっと不機嫌になるヤツだ。
(仕方ない・・・せめてスーパーで惣菜でも買ってこよう。)
拗ねてしまった母親のご機嫌を取るため――母の好物であるカニクリームコロッケを求めて、いつものスーパーへと向かった。
小さい頃はお駄賃が貰えたりもしたため、嫌々ながらもそれなりに頑張れた記憶が残っている。しかし...最低賃金という概念を知ってしまった今となっては、1時間を越える過酷な労働の後に、500円ぽっちを貰って喜んでいた昔の自分は愚かだったとしか言いようがない。
あまりこういう事を言うものではないが…世の中にはもっと楽な仕事をしながら高い給料を貰っている人もいる訳で――それに引き換え今の僕は、こんなにハードな仕事をたったの500円のお駄賃も無しにやらされているのだから、そりゃあ不平不満の一つや二つも言いたくなるというものだ。
(・・・イヤ、やめよう…。)
そんなドコの誰とも知らない貴族様と自分を勝手に比べて、一人で惨めになっていたって何にもならない。
…しかし、こうも暑いと無性にイライラしてしまう…。
(太陽というヤツは、どうしてこうも加減というものを知らないんだ…。馬鹿なのか…?そうだ、きっと馬鹿なんだろう。)
人は負の感情を抱えたままではいられない…世の中にはそれらを一身に受ける、スケープゴートが必要なのだ。悪役の登場しない物語は退屈でつまらないし、SNSでは、どこかに叩いてもいい人間が居ないかと、皆が常に目を光らせている。
でも...僕の物語には、悪役も叩いていい人間も存在しない。だからこそ、こうして行き場の無い怒りをオブジェクトにぶつける事で発散する。太陽であれば、結局のところは物質に過ぎないので、どれだけ非難しようとも誰かを傷つける事も無い……はずだ。
(いや…太陽の場合、天照大神とかに当たるのかな…?そういえば、太陽崇拝なんてものもあるらしいし...たった今僕は、神様を侮辱したことになるんだなぁ。
あーあ...この先ロクな目に遭わないだろうな…。)
「ふ~...暑いわねー。」
(うん。そりゃあ、今夏だし、ここ外だしね。)
「そうだねー。」
と、これ以上の失言をしないよう、適当な返答をしておく。
恐らく...今の僕は疲れている。気を抜くと、余計な事を口走りそうなくらいには。きっとお天道様も、その寛大で暖かな心を以ってして赦して下さることだろう――。
修行同然の苦行も終えて、ようやく一息……ともいかず、これから夕飯の準備をしなければならない。…とはいえ、さっきの草むしりでもう三人分の食事をゼロから作る程の気力は残っていない。
(そういえば...昼のそうめんもまだちょっと残ってるし、追加で茹でて、晩もそうめんにしよ…。)
そう思ってそうめんを茹でていると、替えの服を抱えた母さんがやって来た。
「あら…?お夕飯もまたそうめんなの?」
(誰のせいだと思ってるんだよ…。)
「ああ、ごめん…。母さんには何か他のを準備しとくから…。」
「ううん、いいのよ~。それよりも、またお風呂に入りたいから手伝って欲しいのだけど…」
「母さん…悪いけど、他にも準備するものがあるから夕飯の後にしてもらえるかな…?」
「そう...分かったわ。」
母さんはいつもよりワントーン低い声でそう言うと、明らかに不機嫌そうに部屋へと戻っていった…。
(・・・ハァ。)
母さんはそうめんでもいいと言っていたけれど...あれは本当にそうすると、後々もっと不機嫌になるヤツだ。
(仕方ない・・・せめてスーパーで惣菜でも買ってこよう。)
拗ねてしまった母親のご機嫌を取るため――母の好物であるカニクリームコロッケを求めて、いつものスーパーへと向かった。
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