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7. 遭遇
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帰り道は行きとは逆に、西日を真っ向から受けて歩かなければならない。このくらいの日差しなら帽子無しでも大丈夫…とは言ったが、真正面から対峙するとなると話は変わってくる。帽子を深々と被り、俯き気味になって歩き出す。
自宅までの道のりも中盤に差し掛かる頃、突如背後から肩をたたかれる。
「や、少年!元気かな?」
「お…! おぉ、”茜さん”…。ビックリさせないでくださいよ…。」
この人は茜さん。ご近所さん…という程でもないけど、家はそこそこ近くにあり、生活圏も似ているので必然的によく出会う人だ。
「ははっ!ゴメンゴメン。それより…お母さんはあれから変わりない?」
「はい…お陰様で…。その節は本当にお世話になりました…。」
茜さんは、この辺りでは一番大きい総合病院の病棟看護師さんで、母が入院していた際も日替わりの担当看護師として何度かお世話になっていた。
勤め先の病院は一般的に見れば中規模程度だが、人員も設備も充実しており、質のいい医療を受けられる病院として近隣住民からは評価されている。
「んもう…!相変わらず他人行儀だなあ、”夕くん”は。
夕くんも、”旭くん”や千夜ちゃんみたいにお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ…?」
(…また始まった・・・。)
茜さんはなぜか事あるごとに、自分のことを『お姉ちゃん』と呼ばせたがる…。
”旭くん”...というのは僕の兄で、現在は大学に通いながら東京で生活している。ちなみに…兄さんは朝に生まれたから”旭”、僕は夕方に生まれたから”夕也”、妹は夜に生まれたから”千夜子”と名付けられた。
「僕はいいですよ…。それに、兄がそう呼んでたのも小学校くらいまでの話ですし...もうそんな年じゃないですよ。」
一瞬――、茜さんの表情が曇ったかと思うと、大袈裟に胸を押さえてみせて軽く後ろに仰け反る。
「う……っ!そ…そうだよね。私なんてもう28歳……お姉ちゃんなんて歳じゃないよね…。今年で14の夕くんにしてみれば2倍差……そんなのもう”おばさん”だよね…。」
「ち・・・違いますよ!!自分がもう中学2年だからって話であって、別に茜さんのことを言ったわけではなくてですね!その…」
「まだ9歳の千夜ちゃんに至っては3倍しても届かない……もはや”おばあちゃん”だね…。お姉ちゃんだなんて身の程知らずも良いトコだったね…。」
「えっと...茜さん?」
「……茜……さん・・・?」
「・・・茜…お姉・・・・・・さん…。」
「……しょうがない。今日はそのくらいで許してあげよう。」
「・・・はい、スミマセン…。」
・・・正直なところ、僕はこの人が苦手だ…。やたらと子ども扱いしてくるからか、単純に合わないからなのかは分からない。ただ...この人といると、何か決心が揺らぐような…自分の存在を見失うような…そんな感覚に陥ってしまう。
「忙しいのに、引き止めちゃって悪かったね。これはほんのお詫びだよ。」
茜さんが何かを手渡して来る。
「…あんまり一人で抱え込んじゃ駄目だゾ、少年。いつでもお姉ちゃんを頼っていいんだからね~。」
そう言い残すと、反対方向へと去っていった―――。
(…今の僕は、そんなに疲れているように見えるだろうか…?)
茜さんから渡された物を見つめながら考える。
・・・いや、きっと...紫外線から目を守るために、俯いて歩いてたからそう見えただけだろう。
自宅までの道のりも中盤に差し掛かる頃、突如背後から肩をたたかれる。
「や、少年!元気かな?」
「お…! おぉ、”茜さん”…。ビックリさせないでくださいよ…。」
この人は茜さん。ご近所さん…という程でもないけど、家はそこそこ近くにあり、生活圏も似ているので必然的によく出会う人だ。
「ははっ!ゴメンゴメン。それより…お母さんはあれから変わりない?」
「はい…お陰様で…。その節は本当にお世話になりました…。」
茜さんは、この辺りでは一番大きい総合病院の病棟看護師さんで、母が入院していた際も日替わりの担当看護師として何度かお世話になっていた。
勤め先の病院は一般的に見れば中規模程度だが、人員も設備も充実しており、質のいい医療を受けられる病院として近隣住民からは評価されている。
「んもう…!相変わらず他人行儀だなあ、”夕くん”は。
夕くんも、”旭くん”や千夜ちゃんみたいにお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ…?」
(…また始まった・・・。)
茜さんはなぜか事あるごとに、自分のことを『お姉ちゃん』と呼ばせたがる…。
”旭くん”...というのは僕の兄で、現在は大学に通いながら東京で生活している。ちなみに…兄さんは朝に生まれたから”旭”、僕は夕方に生まれたから”夕也”、妹は夜に生まれたから”千夜子”と名付けられた。
「僕はいいですよ…。それに、兄がそう呼んでたのも小学校くらいまでの話ですし...もうそんな年じゃないですよ。」
一瞬――、茜さんの表情が曇ったかと思うと、大袈裟に胸を押さえてみせて軽く後ろに仰け反る。
「う……っ!そ…そうだよね。私なんてもう28歳……お姉ちゃんなんて歳じゃないよね…。今年で14の夕くんにしてみれば2倍差……そんなのもう”おばさん”だよね…。」
「ち・・・違いますよ!!自分がもう中学2年だからって話であって、別に茜さんのことを言ったわけではなくてですね!その…」
「まだ9歳の千夜ちゃんに至っては3倍しても届かない……もはや”おばあちゃん”だね…。お姉ちゃんだなんて身の程知らずも良いトコだったね…。」
「えっと...茜さん?」
「……茜……さん・・・?」
「・・・茜…お姉・・・・・・さん…。」
「……しょうがない。今日はそのくらいで許してあげよう。」
「・・・はい、スミマセン…。」
・・・正直なところ、僕はこの人が苦手だ…。やたらと子ども扱いしてくるからか、単純に合わないからなのかは分からない。ただ...この人といると、何か決心が揺らぐような…自分の存在を見失うような…そんな感覚に陥ってしまう。
「忙しいのに、引き止めちゃって悪かったね。これはほんのお詫びだよ。」
茜さんが何かを手渡して来る。
「…あんまり一人で抱え込んじゃ駄目だゾ、少年。いつでもお姉ちゃんを頼っていいんだからね~。」
そう言い残すと、反対方向へと去っていった―――。
(…今の僕は、そんなに疲れているように見えるだろうか…?)
茜さんから渡された物を見つめながら考える。
・・・いや、きっと...紫外線から目を守るために、俯いて歩いてたからそう見えただけだろう。
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