大人になりたくなかったオトナたち

辻 野乃子

文字の大きさ
上 下
2 / 21

2. 通学路

しおりを挟む
ミンミンミンミンミンミン―――。

 外に出ると、一層に大きく脳内に響いてくるセミの聲。この音を聞いているだけでも、体感気温が2~3度上がってくる気さえしてくる。

 千夜子の通う小学校は同じ方向にあるので途中までは一緒に向かう。

「あ゛ぁ~、あづい~~。溶ける~~。」

「おにぃ、直射日光苦手だもんね。」

「おいおい、そんな人を吸血鬼みたいに言うなよ・・・」

「そんなに苦手だったら日傘でも差したら?」

「えぇ...?男が日傘差すのって、なんか変じゃないか?」

「そうかなぁ?ジェントルマンって感じでカッコイイと思うけどなー。」

「いやいや、あの可愛らしいピンクの日傘じゃそうはならないと思うぞ。」

「え?それってあのママが使ってた日傘の事言ってる…?」

「え...?ウチにアレ以外の日傘なんてあったっけ?」

「もー!日傘くらい新しく買えばいいじゃん。それともわたしが買ってあげようか?おにぃもうすぐ誕生日だし。」

「日傘かぁ...どうなんだろなあ・・・」


「おはよう!お二人さん。」
不意に背後から声をかけられる。

「あ、かけるにぃだ。おはよー。」

「ウンウン、千夜子ちゃんは今日も可愛いね~。」

「・・・・・・。」
バシッ―― バシッ――!

「イテッ、いてっ!ちょ・・・っ、やめろって夕也...無言でシバいてくるな!」

「お前みたいなチャラ男に千夜子はやらん。」

「そんなんじゃねえって...ってか、誰がチャラ男だ!」

 こいつは”かける”。知り合ったのは中学に入ってからで、一年の時に同じクラスだった。所属は陸上部で大した接点も無かったが、通学路で何度も出会うため自然と話すようになっていった。今朝みたいに千夜子との通学中に会うこともあり、その時はこうして途中の交差点まで三人で一緒に通学している。

「そんなことより...翔はさぁ、男が日傘差して歩いてるのってどう思う?」

「日傘?」

「おにぃに日傘でも差したら?って言ったんだけど、変じゃないかって気にしてるの…。」

「お前が日差しに弱いのはみんな知ってるし、今更どうも思わないんじゃねえの?」

「僕がどうとかじゃなくて…あくまで一般的に見ての話だよ。」

「うーん...俺はいいと思うけどなあ。英国貴族っぽくてカッコイイし!」

「ほら!翔にぃもこういってるじゃん。」

「いや...どっちにしても目立つのは間違いないし・・・」

「あーっ!信号変わってる!じゃあわたし行くねー。」
 千夜子は急いで小走りで駆けていく。

「おう!いってらっしゃーい。」
「急ぐと危ないぞー!気を付けてなー。」

 パタパタと揺れる――、今風な水色のランドセルを見送った後、二人になった僕たちも学校へと歩き始める。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・そんなに気になる?人目。」

「…まあ、それもあるけど...千夜子が誕生日プレゼントに買ってくれるって言うからさ・・・」

「ああ、そろそろだもんな。でも...それならもっと喜べばいいじゃん?大好きな妹ちゃんからの贈り物なんだし。」

「だってさ・・・日傘って1000円じゃ買えないよな?」

「あー...そっちか・・・。
 まあ確かに、小4がする兄貴へのプレゼントとしてはちょっと高いかもな…。
 お!じゃあさ、俺が一緒に出して二人からのプレゼントって事にするのはどう?」

「んー...?でも…お前はいいのか?」

「ああ!丁度俺もプレゼント何にしようかって悩んでたトコだったしさ。」

「ならいいけど・・・
 でも、それって...翔と千夜子が二人で日傘を買いに行くってことだよな。」

「ん…?まあ、そうなるな…。」

「・・・・・・。
 ヘンな事したら……す・・・。」

「何もしないって!ていうか...途中よく聞こえなかったけど…恐っ!」


 学校に着くまでの間、こんな風に何気ない会話を交わす日常―――。
 今はまだ実感が湧かないが、こういう日常が送れている僕はきっと恵まれているのだろう―――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

かあさんのつぶやき

春秋花壇
現代文学
あんなに美しかった母さんが年を取っていく。要介護一歩手前。そんなかあさんを息子は時にお世話し、時に距離を取る。ヤマアラシのジレンマを意識しながら。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...