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第四章『ボタン』
雨女と天候予測
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なぜかシリアス気な雰囲気になってしまった喫茶店のなかで、私はゆったりと紅茶を口に含む。
時間的なものだったり、二層のお祭りにプレイヤーが行ってしまっているのものあってか、店内は私達の他にはマスターしかおらず、そのマスターも空気を読んでか、なにも言わず、ただのんびりとカウンターでお茶を飲んでいた。
「……なにか無いの?」
「え?」
横に座るケートが、空気に耐えきれないみたいに、私の脇を肘でつつく。
囁くように口にした言葉は、私以外には聞こえてなかったみたいで、私の声だけが反響して……シロ達は私の方へ顔を向けた。
あー……。
「そ、そういえばシロは、なんで雨が降るって分かったの?」
「雨、ですか?」
「そうそう。さっき二層で、雨が降る前に“雨が降りそう”って教えてくれたじゃん」
私の言葉で、その時の状況を思い出したのか、シロは「あっ」と小さく声をあげる。
その声もまた静かな店内に馴染むように広がり……視界の端でマスターが顔を上げたのが見えた。
「私のスキル、【天候予測】の効果ですの。まだまだレベルは低いですが、六割ほどは当たりますので」
「【天候予測】って、また珍しいスキルだにゃー」
「そうなの?」
「うむー。ガチャ産じゃなくて、選べるスキルの中にあるスキルなんだけどにゃー。サポートスキルというか……半ば趣味スキル扱いをされてるからか、持ってるプレイヤーはかなり珍しいぜ。それこそ、テイミング系スキルを持ってるプレイヤーの方が多いくらいだし」
そ、それはかなり少ないんじゃ……。
でも、そんな珍しいスキルを、なんでシロが?
なんて、そんな疑問が顔に出ていたのか、シロは少し苦笑しつつ「私、かなりの雨女でしたので」と、小さくこぼした。
……雨女かー。
「家族旅行はほぼ雨で、友人と待ち合わせをすれば雨が降り、冬になると雪が降ることも珍しくなく……」
「お、おう……それはやばいにゃー」
「入学式も、卒業式も、はたまた誕生日や告白をしようとした日も……すべてが雨の記憶ですの」
「そういえば、あの日も雨だったっスね」
「……あの日?」
シロの言葉に反応したナインが、ぽろりと溢す呟き。
それが妙に気になって、私は思わず聞き返してしまう。
いや、でもねえ?
気になるじゃん?
「あー、それは気にしないで欲しいっスよー」
「……ふーん?」
「セツナー、ちょっと秘密にされたからって刀に手を伸ばすのはダメだぜー」
ケートの位置とは逆側の手を動かしたのにも関わらず、ケートはまるで見透かしたみたいに口を挟む。
……まあ、さすがに釘を刺されてまでやることじゃないし。
なんて、しょうがない……と言わんばかりの雰囲気を醸し出しつつ、私は刀から手を離す。
それを見て、ナインは「背筋に寒気が走ったっスよ……」と、両腕で自分の体を抱いていた。
「まあ、つまり……自分が雨女だから、【天候予測】のスキルを取ったってこと?」
「え、あ、はい。こちらの天気も、リアルと同じく……雨なのかどうかを調べたかったので」
「なるほどにゃー。それで、今のところはどうなのかにゃー?」
「晴れの日が多いですの。それこそ、雨は今のところ二回ほどでしょうか?」
二回ってことは、今日以外にも雨の日があったってことなんだろう。
私は今日が初めての雨の日だし……私よりプレイ期間の短いシロが、雨の日に当たってるのは、やっぱり雨女だからなんだろうか?
……もしかして雨だった日って。
「ねえシロ。雨だった日って、初めてアルテラの外に出た日……だったりする?」
「はい! すごいですの! 大正解です」
「……雨女だにゃー」
「……雨女だねー」
ゲーム開始当日どころか、プレイ開始直後に雨って……どんなタイミングよ。
というか、私も結構第一層には行ってるはずなんだけど……晴れの日しか見たことがない気がする。
「ちなみにもっと驚くことがあるんスよ!」
「えー? もう十分驚きを堪能したぜー?」
「いやいや、まだまだっスよ。だって、その雨……スコールだったんっスよ? アルテラの門すぐから、少しの範囲だけに、五分ちょっとだけ降った大雨だったんスから」
「マジ?」
「マジっスよ!」
なぜか自分のことのようにドヤ顔をするナイン。
そんなナインにちょっとイラッとした私の横で、驚いていたケートが突然「……そういえばそんな書き込みがあったにゃ」と呟いて、納得したような顔をした。
掲示板って、ほんとにいろんな情報があるんだなー。
「はー、不思議なこともあるもんだにゃー」
「だねー。リアルだけじゃなくて、ゲーム内でも雨女ってあるんだねー」
「いやぁ、不思議っスよー」
「不思議だにゃー」
当人を放置したまま、私達三人は“不思議、不思議”と互いに頷く。
そんな私達を見てるのも飽きたのか困ったのか、十数秒ほど眺めてからシロは「あ、あの!」と声を上げた。
なぜか、手も一緒に上げながら。
「はい、シロちゃん」
「はい。もし差し支えなければ、皆様のスキルを教えていただけないでしょうか? 第三層は大海の世界と聞いています。それはすなわち、全員で協力することが求められる世界ではないかと……」
「ふむ。それもそうだにゃー。私は構わんぜー」
「自分も大丈夫っス!」
シロの提案に、ほぼノータイムで乗っかる二人。
……まあ、特に私も問題はないかな?
むしろ、シロのスキル構成は知っとかないといけないだろうしねー。
「じゃあ、私のから見せようか」
-----
名前:セツナ
所持金:105,040リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』改
テイム:ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
時間的なものだったり、二層のお祭りにプレイヤーが行ってしまっているのものあってか、店内は私達の他にはマスターしかおらず、そのマスターも空気を読んでか、なにも言わず、ただのんびりとカウンターでお茶を飲んでいた。
「……なにか無いの?」
「え?」
横に座るケートが、空気に耐えきれないみたいに、私の脇を肘でつつく。
囁くように口にした言葉は、私以外には聞こえてなかったみたいで、私の声だけが反響して……シロ達は私の方へ顔を向けた。
あー……。
「そ、そういえばシロは、なんで雨が降るって分かったの?」
「雨、ですか?」
「そうそう。さっき二層で、雨が降る前に“雨が降りそう”って教えてくれたじゃん」
私の言葉で、その時の状況を思い出したのか、シロは「あっ」と小さく声をあげる。
その声もまた静かな店内に馴染むように広がり……視界の端でマスターが顔を上げたのが見えた。
「私のスキル、【天候予測】の効果ですの。まだまだレベルは低いですが、六割ほどは当たりますので」
「【天候予測】って、また珍しいスキルだにゃー」
「そうなの?」
「うむー。ガチャ産じゃなくて、選べるスキルの中にあるスキルなんだけどにゃー。サポートスキルというか……半ば趣味スキル扱いをされてるからか、持ってるプレイヤーはかなり珍しいぜ。それこそ、テイミング系スキルを持ってるプレイヤーの方が多いくらいだし」
そ、それはかなり少ないんじゃ……。
でも、そんな珍しいスキルを、なんでシロが?
なんて、そんな疑問が顔に出ていたのか、シロは少し苦笑しつつ「私、かなりの雨女でしたので」と、小さくこぼした。
……雨女かー。
「家族旅行はほぼ雨で、友人と待ち合わせをすれば雨が降り、冬になると雪が降ることも珍しくなく……」
「お、おう……それはやばいにゃー」
「入学式も、卒業式も、はたまた誕生日や告白をしようとした日も……すべてが雨の記憶ですの」
「そういえば、あの日も雨だったっスね」
「……あの日?」
シロの言葉に反応したナインが、ぽろりと溢す呟き。
それが妙に気になって、私は思わず聞き返してしまう。
いや、でもねえ?
気になるじゃん?
「あー、それは気にしないで欲しいっスよー」
「……ふーん?」
「セツナー、ちょっと秘密にされたからって刀に手を伸ばすのはダメだぜー」
ケートの位置とは逆側の手を動かしたのにも関わらず、ケートはまるで見透かしたみたいに口を挟む。
……まあ、さすがに釘を刺されてまでやることじゃないし。
なんて、しょうがない……と言わんばかりの雰囲気を醸し出しつつ、私は刀から手を離す。
それを見て、ナインは「背筋に寒気が走ったっスよ……」と、両腕で自分の体を抱いていた。
「まあ、つまり……自分が雨女だから、【天候予測】のスキルを取ったってこと?」
「え、あ、はい。こちらの天気も、リアルと同じく……雨なのかどうかを調べたかったので」
「なるほどにゃー。それで、今のところはどうなのかにゃー?」
「晴れの日が多いですの。それこそ、雨は今のところ二回ほどでしょうか?」
二回ってことは、今日以外にも雨の日があったってことなんだろう。
私は今日が初めての雨の日だし……私よりプレイ期間の短いシロが、雨の日に当たってるのは、やっぱり雨女だからなんだろうか?
……もしかして雨だった日って。
「ねえシロ。雨だった日って、初めてアルテラの外に出た日……だったりする?」
「はい! すごいですの! 大正解です」
「……雨女だにゃー」
「……雨女だねー」
ゲーム開始当日どころか、プレイ開始直後に雨って……どんなタイミングよ。
というか、私も結構第一層には行ってるはずなんだけど……晴れの日しか見たことがない気がする。
「ちなみにもっと驚くことがあるんスよ!」
「えー? もう十分驚きを堪能したぜー?」
「いやいや、まだまだっスよ。だって、その雨……スコールだったんっスよ? アルテラの門すぐから、少しの範囲だけに、五分ちょっとだけ降った大雨だったんスから」
「マジ?」
「マジっスよ!」
なぜか自分のことのようにドヤ顔をするナイン。
そんなナインにちょっとイラッとした私の横で、驚いていたケートが突然「……そういえばそんな書き込みがあったにゃ」と呟いて、納得したような顔をした。
掲示板って、ほんとにいろんな情報があるんだなー。
「はー、不思議なこともあるもんだにゃー」
「だねー。リアルだけじゃなくて、ゲーム内でも雨女ってあるんだねー」
「いやぁ、不思議っスよー」
「不思議だにゃー」
当人を放置したまま、私達三人は“不思議、不思議”と互いに頷く。
そんな私達を見てるのも飽きたのか困ったのか、十数秒ほど眺めてからシロは「あ、あの!」と声を上げた。
なぜか、手も一緒に上げながら。
「はい、シロちゃん」
「はい。もし差し支えなければ、皆様のスキルを教えていただけないでしょうか? 第三層は大海の世界と聞いています。それはすなわち、全員で協力することが求められる世界ではないかと……」
「ふむ。それもそうだにゃー。私は構わんぜー」
「自分も大丈夫っス!」
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……まあ、特に私も問題はないかな?
むしろ、シロのスキル構成は知っとかないといけないだろうしねー。
「じゃあ、私のから見せようか」
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名前:セツナ
所持金:105,040リブラ
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防具:戦装束『無鎧』改
テイム:ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
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