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第四章『ボタン』

天才と秀才と凡才と

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 あれから数十分ほど、屋台を周り、ほどほどに商品を堪能した後、私達は第一層の喫茶店、エルマンにやってきていた。
 さすがに色々食べたこともあって、食欲は無かったものの……それぞれの前には、温かい紅茶が置かれていた。
 ちなみに、ここの支払いは、さすがに私がやることに。

「け、結構買ったにゃー……」

「ごちそうさまでしたっス」

「ケート様、ありがとうございました」

「いえいえー」

 お土産の肉を買ったこともあり、ケートの支出は2万程に。
 いやー、買ったねー。

「まあ、このくらいの支出なら問題はないけどにゃー。本来なら船の代金だとか、操舵手を雇う際のお金だとか、色々必要になるところを、かなり節約できてるし」

「倉庫のお金とかは大丈夫なの?」

「あそこはリンが借りてるからにゃー。リンはリンで結構稼いでるみたいだし、大丈夫っぽいぜー」

「そうなんだ?」

 ケートが言うには、私がシロの特訓をしている間に、カリンやミトは結構な数の依頼をこなしていたらしい。
 最近は、カリンやミト専門の掲示板も出来たらしく、未だに依頼が殺到しているとかなんとか……。

「ま、それもあって、ミシェルさんが私達に直接打診してきたのは、納得が出来るんだよにゃー」

「ふむ……。掲示板に書き込むと、いつになるかわからないから?」

「だにゃー。あと、リン宛の依頼はリンの興味次第な部分があるから、掲示板の書き込みも“もしよろしければ”って感じばっかりだしにゃ」

 それでも依頼が止まらないっていうのは、やっぱり実力がきっちりと証明されてるからだろうか?
 なんていうか、カリンはすごいなぁ……。

「依頼の数だとリンが一番だけど、ミトちゃんも結構受けてるんだぜー? 最近はミト印のポーションっていう扱いを受けてて、ちょっと難易度の高い冒険をするときには御守り代わりに持っていく人もいるとかなんとか」

「なにそれ」

「いやー、私も知らなかったんだけどにゃー。ポーションってどうも、回復量や回復力? に、個々の違いがあるらしいんだよにゃー。同じ“普通サイズの回復ポーション”を使用しても、効果がしっかり出る場合と、効きが悪い場合があるらしいぜ」

 つまり、粗悪品的な?
 私はあんまり使わないけど、結構被弾する人からすれば、回復しようと思ったらあんまり回復しないってなると、かなり危ないかも。

「でも、ミトちゃんのはいつも同じように回復するみたいで、その振れ幅が小さいらしいんだよにゃー。だから、信頼と実績の“ミト印のポーション”らしいぜー」

「へー。面白いね」

「だにゃー。初めて会った時からずーっと頑張ってきた努力が、ようやく報われてきた感じだぜー。まあ、イベントで優勝してるけども」

 ただ、あの優勝はカリンの力も借りたことで掴めた優勝だったはずだし、ミトさんの力だけで掴めた評価、としては、今回のミト印が初めてなんだろう。
 だからこそ、私もケートも余計嬉しく感じてしまうのだ。
 まあ、まだカリンに比べればスタート地点って感じなのかもしれないけど。

「……話を聞いているだけでも、わたくしがキャラバンに参加しても良いのか、悩んでしまいますね」

「ん? なんで?」

「カリン様、ミト様だけでなく、ケート様、セツナ様もこの世界では大きく名の知られた方々であり、素晴らしい実力と実績を兼ね備えられています。もちろん、ナイン様も」

「……自分はまだまだっスよ。ケートさんには手も足も出なかったっスから」

 シロの言葉に、ナインは顔を俯かせつつ、そう呟く。
 まあ、ナインの実力だったら、ケートはおろか……ミシェルやイチカにも勝てない気がする。
 そういえば、ミシェルの件ってどうなったんだろう?

「まあそう重く考えなくていいぜー。確かにトップを爆走したい気持ちもあるんだけど、一番は楽しむことが大事だぜ」

「しかし、」

「しかしも、だがも要らないにゃー。あ、でも駄菓子は欲しいし、その駄菓子をみんなで食べるのが一番楽しいにゃ。だから私はそういうキャラバンにしたいんだぜー」

「まあ、そうね。強さを極めるのは、強い人に任せておけば良いし……それにこのゲームは、強さだけを競って楽しむゲームじゃないと思う。カリンさんみたいに、自分の物作り力を高めたい人や、ミトちゃんみたいに、自分のやれることを見つけたい人。グレンさんみたいに、パーティープレイで強敵と戦いたいって人もいる。みんな違うし、それはそれで良いと思う」

 ケートの言葉を繋ぐように、私も思いを口から溢す。
 そうしてカランと、マスターが鳴らした氷の音で、言葉を切り……ゆっくりと紅茶を口に含む。
 紅茶を舌と喉で楽しみ、横に座ったケートと微笑みあって、私はようやく次の言葉を口にした。

「だから、シロがこの世界でやりたいことを、目指したいものを……目指せば良い。私達はそれを極力手伝うから」

「だぜー。それが今すぐに見つからなくても、焦る必要性はないしにゃ。のんびりやっていこうぜー」

 にししと笑うケートにつられて、私も少し笑ってしまう。
 そんな私達につられたみたいに、ナインも「そう、っスね」と苦笑し、シロへと顔を向けた。

「自分も、シロのこと手伝うっスよ。……シロのことは好きっスから」

「ナイン様……」

「これがどっちの好きかは、まだ分かんないっス。でも、今度は逃げないっス。だから、またよろしくっスよ」

 そう言って頭を掻くナインに目を向けたまま、シロは何度も瞬きを繰り返す。
 そして、ゆっくりと顔を俯かせて「はい」と、小さく呟いた。

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 名前:セツナ
 所持金:105,040リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』改

 テイム:ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
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