また、つまらぬものを斬ってしまった……で、よかったっけ? ~ 女の子達による『Freelife Frontier』 攻略記

一色 遥

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第四章『ボタン』

広げる世界

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草摺くさずり収納」

「あ、ホントだ。草摺の網目に沿う形でスリットがある。ここに呪符を差しておいたら良いかも」

「ん」

「良い感じですね、コレ」

 腰の部分が少しだけ重たくはなったものの、足を動かすことにはまるで影響せず、純粋に防御力と収納力が上がっている。
 しかしスリットかー……。

「んー……」

「セツナ?」

「あの、カリンさん。ちょっとだけ相談があるんですけど、良いですか?」

「……? 構わない」

 首を傾げつつも頷いてくれたカリンと、二人で作業台の方で頭を突きあわせる。
 一人で考えててもどうしようもないから、マスタークリエイターに相談するのだ。

「ケートが言うには、呪符って魔法陣を持ち歩いてるような感じらしいんですよ。電池とか、メモリみたいな」

「ん」

「で、この呪符をカートリッジみたいに使って、宣言せずに発動させたりできないかなって」

 私の話に一瞬沈黙した後、カリンは「銃?」と首を傾げた。
 たしかに、銃なら考えやすいかも?

「銃みたいに、引き金を引いたらセットした呪符が発動するとか……刀や足に魔法を纏わせたりとかも面白そうじゃないですか?」

「……ん。考える」

「ありがとうございます。えっと、サンプルに呪符を、」

「作れる。問題ない」

「作れるんですか!?」

 さも当然といった様子で言い切ったカリンに、私は驚いてそんな声をあげてしまう。
 そんな私に驚いたのか、のんびりとお茶していたケートが「にゃ、にゃんだー!?」と椅子から転げ落ちた。
 いきなり大惨事じゃん、大丈夫?

 ちなみに、ミトは「ひぁっ」ってかわいい声が出てて可愛かった。
 ケートももう少し見習ってほしい。

「えっと、ケートさん大丈夫っスか? ミトさんも、変な声出てましたっスけど」

「だ、大丈夫だにゃー」

「変な声出てました!? わ、忘れていただければ」

「了解っス」

 「ほへー、アイタタタ」とか言いながら椅子に座り直すケートと、顔を紅くするミト。
 そして、ビシッと頭を下げるナイン……なんだこれ。

「ま、まあいいや。それで、カリンさん。呪符作れるって本当ですか?」

「ん。ミト」

 よく分からないけど、どうやらミトが作れるらしい。
 なら、ミトさんに聞いてみるかー。

「ミトさん、もしかして呪符作れるんですか?」

「え? あ、はい。【錬金術】で素材の紙とインクは作れるので、カリンさんが【細工】で印をいれれば出来ますよ」

「なるほど……。ちなみに素材と値段は?」

「最下級のものなら、紙もインクも第一層の素材なので、今のところは安定供給されてますよー。値段は、えーっと……」

 そこまで言いかけてチラッとカリンの方に目を配り、「10枚セットで15,000リブラくらいです」と言いきった。
 つまり、1枚1,500ということらしい。
 店で買うよりも500リブラも安いぞっ!

「でも、なんでセットなんですか?」

「1ロット」

「ロット?」

 聞いたことがある言葉だけど……なんだっけ?

「ロットってのはひとつの製品の最小単位のことだぜー。たとえば500ミリジュースの箱に、ペットボトルがいっぱいに入って、1ダースって言うよね? で、製造側はその1ダースを5個まとめた数が、販売できる最小数とかだったりするのさー。だから、5ダースが1ロットみたいなね」

「つまり今回だと、呪符10枚が1ロットってことっスね! 勉強になるっス!」

 えっと、要は……呪符を作ると、10枚セットで完成しちゃうから、10枚セットだよってことかな?
 ……それでいいよね?

「あはは……。以前試したところ、呪符を10枚作ったところで、インクが1つ使いきれる感じだったので、作る側としては10枚セットがありがたいんです。もちろん無理にとは言わないんですが……」

「いやいや、大丈夫。それならそれでお願いするだけだし」

「ありがとうございます。何種類かで10枚みたいに作ることも可能なので、2種類を5枚ずつとかもできますから」

 あ、そういうのは可能なんだ。
 なら全然問題ないなー、むしろお得感が増す感じかも。

「しっかし、それなら他の職人さんも作ってバラ売りとかしそうなのににゃー。なんでしてないのかにゃ?」

「面倒」

「面倒て」

「いえ、カリンさんの言う通りでして……セツナさんのように、呪符を頻繁に使う方が身近にいれば良いんですが、いない場合はかなり時間をかけた割りには、あまり売れないという状況になってしまうので」

 なんでも、インクの素材からインクを作ると、最大3個のインクが出来るらしく、インクだけではほとんど売れない。
 呪符があまりメジャー商品じゃないだけに、その素材が売れるわけもなく……そうなると紙を作って呪符にする方がまだ売れる。
 が、インクを使いきるには紙が30枚必要。
 しかし、紙自体は【マッピング】用やレシピ用紙として売れるから、呪符にするよりも紙にして売る方が手早く金になる。

 よって、インクを持っている人はインクを投げ売り、掲示板で広まってしまった今となっては、ほぼ誰もインクを作らない。
 そうなれば、もちろん呪符も作られない……呪符を使う人が身近にいる職人以外には。

 ということらしい。

「ふ、負の連鎖だにゃー……」

「めちゃくちゃっスね……。あれ? でも、なんでミトさん達は作ったんスか?」

「あ、それはですね。素材を取りに行く時の予備として持って行くためです。私もカリンさんも、戦闘スキルをひとつも持っていないので」

「なるほどにゃー。それなら確かに有用だと思うぜー」

 スキル無しでも十分な効果を発揮するうえ、魔法スキルも必要ない。
 そうやって考えれば……すごく正しい使い方なのかも?

「セツナ、光明」

「え?」

「銃」

「ああ、私の案で呪符を銃みたいに使えれば、呪符需要が高まるってこと?」

「ん」

 強く頷いたカリンの目は、なんだかすごく楽しそうに光っていて……やっぱり羨ましく感じてしまう。
 だからなんだろう、私は不意に「楽しそうだなぁ……」と呟いてしまったのは。

「……セツナ、手伝う?」

「え?」

「銃作り、意見欲しい」

 まっすぐにそう言って差し出された手。
 その手に手を重ねようとしたとき、ふとミトの顔が浮かんできてしまった。
 ナインの装備を作るときの、ミトの大変そうな顔を。

 だからこそ、その手を取ってしまって大丈夫なのか、なんてそんな気持ちがふつふつと沸いてしまう。
 私に、あそこまで頑張れる意思があるのか。
 軽く手を伸ばしていいようなそんな世界ではないんじゃなかろうか。
 なんて、そんな思いが。



 しかしそんな私の背に、「やってみなよー、セツナ」と軽い声が届く。
 瞬間、世界に光が指したような気がして……気づけば私は、カリンの手を取っていた。

-----

 名前:セツナ
 所持金:105,040リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』改

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.9】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】
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