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第四章『ボタン』

増えていく称号

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「だ、大丈夫っスか……?」

 影からにゅるんと顔だけ出して、ナインがケートへとそう声をかける。
 けれど、私はあえて蝶から元には戻らないでいた。
 なぜなら……ケートの怒りがマックスになっていたからだ。

「にゃはは、にゃははははははは!」

「け、ケートさん?」

「ふざけた真似しやがって……ぶっ殺す!」

「ひぃっ!?」

 怒りはボスに向いているものの、その圧は周囲全体へとのし掛かっており……まあつまりは、ナインもがっつり受けていた。
 ちなみに、私は蝶になっているので、圧とかそういったものは全く。
 そもそもこの状態ってそういった感覚は薄いからねー。

「モードチェンジ【魔法連結】『ダブルギガントハンマー』! ぶん殴る!」

 ハンマー状態に変形させたゴーレムを両手に持って、ケートは文字通り、ぶっ飛びながらフンコロガシへと突貫する。
 しかし、フンが無くなったフンコロガシもまた、戦う体勢を整えており、その厚い甲でケートのハンマーを防ぎきった。

「GYURAAAA!」

「うるせぇ! 潰せないなら、砕くまで! モードチェンジ【魔法連結】『ドリルブレイカー』!」

「は、ハンマーがドリルになったっスよぉ!?」

 ハンマー部分をドリルに変化させ、ドリルを叩きつけていく。
 さすがにこの攻撃は防げないのか、フンコロガシは「GYURAA!?」と驚いたような声をあげて、後ろへと吹っ飛ばされていた。
 これ、このままケートに任せといても勝てそうな気がする。

「逃がすかァ! モードチェンジ【魔法連結】『スパイラルランス』!」

「GYURAAAA!?」

「め、めちゃくちゃっスね……」

 そう思うなら、そのまま影に隠れてた方が良いと思う。
 下手に参加すると、巻き添えを食うだろうし。

 まあ、でも……。

「オラァ! まだまだァ! 超『フレアバ」

「GYUAAA!」

「『剛脚』」

「にゅあ!?」

 割り込むように復元し、ケートの死角から放たれたフンコロガシの足を【蹴撃】の技で蹴り飛ばす。
 まったく、頭に血が上るのは良いけど、ちゃんと相手を見ないとダメだよ?
 ……まあ、私がいるときは別に良いんだけどさー。

「『ラピットシュート』っス!」

「GYURA!?」

「じゃあ、こっちも『二連脚』からの『鬼火』」

「GYURAAAA!?」

 ナインの攻撃に合わせ、連撃からの呪符で攪乱。
 たいしたダメージにはならないけど、私はその間に、ケートを抱きかかえ、フンコロガシから距離を取った。
 私は触れあうくらいの距離がいいけど、ケートは違うからねー。

「あ、ありがと……」

「いえいえ、どういたしましてー。ケガはないよね?」

「う、うむ。大丈夫じゃ」

「そっか。ならこの後もよろしくー」

 怒り狂っていたのが恥ずかしかったのか、顔を紅くしたケートがいつもよりも歯切れ悪く頷いた。
 それを見て、私は一人で相手をしているナインを助けに走るのだった。
 夜だからか、ナインの【影走術】がどこでも発動できて滅茶苦茶強いんだけどねー。

「『剛脚』」

「GYUA!?」

「や、やっと来てくれたっスか!? 助かったっス」

「まあ、助ける必要無いかとも思ったけどねー」

「そんな!? ヒドイっスよぉ!」

 ぎゃーぎゃー騒ぐナインの声を右から左に受け流し、私はフンコロガシの真正面に立つ。
 そして、あえて刀へと手は伸ばさず……無手の構えをとった。

「そろそろこっちの訓練もしないと、ねっ!」

「GYURA!」

 振りかぶられた足を、技も使わず脚のみで返す。
 六本ある足の内、二本でバランスを取るフンコロガシ……つまり、攻撃には残りの四本が使われており、当たり前のように攻撃も二重三重と密度を増して繰り出されていた。
 が、まだ足りない。

「GYURA! GYU! GYU! GYURAA!」

「ほっ、ほい! よ、っと」


 蹴る、弾く、逸らす、叩き落とす。
 四対一の攻防戦であろうとも、全て見えるなら問題ないのだ。

「アレ、なんで対応できるんスか?」

「セツナだからにゃー。常識の範疇で考えたらダメなんだぜ」

「そういうもんっスかー」

「ま、だから、セツナに負けたからって気に病む必要はないんだぜー。アレは規格外だからにゃー。でも、私はそれに勝ったんだけど」

 集中してフンコロガシの対応をしている耳に、そんな呑気な会話が聞こえてくる。
 あー、顔見なくても分かる。
 今のケートの顔、絶対イラッとする顔してるわー。

「『鬼火』」

「にょわっ!? せ、セツナ、危ないにゃ!」

「呑気な話してないで、さっさと攻撃してよ」

「おっと、すまんぜー。んじゃ、ナイン君、やりますかー」

「了解っス! 【影走術】『瞬影』」

 ナインの気配が薄くなり、反面ケートの気配は大きくなる。
 そして私は、ここぞというタイミングで攻めに転じた。

「『二連脚』からの、『剛脚』!」

「『極影陣』、『パワーシュート』っス!」

「超々収束『フレアバーン』!」

「GYURA!? AAAaa……」

 ガンガンドカン、ドスドス……チュドーンという感じに、蹴られて射られて焼かれたフンコロガシが光になっていく。
 というか、あの『フレアバーン』なら、最初からダメージ与えられたんじゃないだろうか?
 めちゃくちゃ細く収束されてて、青白い炎だったんだけど。

『イーリアス東エリアボスモンスター、グランデスカラベが初討伐されました。討伐者はセツナさん、ケートさん、ナインさん。討伐者には、初討伐成功報酬と、討伐の証として、称号“イーリアス東エリアの覇者”をお送りいたします』

「よっしゃー! これで、イーリアスは東西共に私達のものじゃー!」

「いや、それは違うでしょ。確かに称号は東西共に取ったけど」

「お疲れさまっス。そういえばケートさん達って、今称号いくつあるんスか?」

「称号? えーっと、ちょっと確認する」

 そういえば、最初に“アルテラ湿原の覇者”をゲットして装着した以降はちゃんと見てなかった気がする。
 というわけで確認してみれば……なんか結構増えてるなー。

「“アルテラ湿原の覇者”、“第二層到達者”、“第一回戦闘イベント準優勝者”、“イーリアス西エリアの覇者”、“イーリアス東エリアの覇者”……“水生超王に挑みし者(2/4)”?」

「戦闘イベント優勝者ってところ以外は私も同じだにゃー。水生超王はたぶん、蛙と魚人を倒したからだとおもうぜー」

「ってことは、あんなのがあと二匹もいるってこと?」

「そういうことだろうぜー」

 ケートの言葉に、私はなんとも言えない気持ちになってしまう。
 水生超王はどちらもめんどくさい相手だったのだ……。
 蛙は取り巻き召喚からの、味方ごと薙ぎ払うアレがあったし、魚人はなんか槍の技使ってくるし、変形するし……。
 次はなんだ、タコでも来るの?

「すごいっスね! 自分は、“第二層到達者”と“東アルテラ森林の覇者”、“イーリアス東エリアの覇者”しかないっス!」

「いや、覇者称号持ってるだけでもトッププレイヤーだと思うぜー。まだ第一層のボス倒してるプレイヤーも少ないからにゃー」

「そ、そうっスか? ありがとうございますっス!」

 そんなこんな話しつつ、私達はとりあえず街へと戻ることにしたのだった。
 ……あることを忘れたまま。

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 名前:セツナ
 所持金:105,040リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.9】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】
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