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第三章『君には届かない』
新米生産職は倒されない
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高すぎる高すぎると言いながらも、私のアイテムボックスには『炎鎖』の呪符が5枚入っていた。
つまり、そう……25,000リブラが吹っ飛んでいったということだ。
「にゃはははは、にゃーっははははははは」
「って、ケート笑いすぎでしょ!?」
「だって、セツナが、あのセツナが。しみじみと“……高い”って呟くの面白すぎてねぇ。今まで我慢しただけでも褒めてほしい……ぷふふ」
イラッ。
「ぷふぶぇいったぁ!?」
「笑いすぎって言ってるでしょ!?」
「だ、だからって頭叩くのは反則! 横暴だ、横暴だ!」
「あんたが笑うからでしょうが!」
売り言葉に買い言葉の応酬。
しかし、止まらないと思っていた口喧嘩も、静かな「うるさい」という言葉でピタッと止まった。
……そう、今私達は、共有作業場にいたのだ。
そして私達を止めた声の主は……いつもと変わらない無表情のまま、その目が私達をジーっと見て動かない。
こわいこわい、こわいこわいこわい。
「あ、えっと、セツナさん達。ちょっと静かに」
「ご、ごめんなさい」
「ごめんなさいにゃー……」
「ん。分かれば良い」
くるりと背を向けて作業を再開するカリンに、私とケートはホッと胸を撫で下ろす。
そんな私達にミトは苦笑しつつ、お茶を淹れてくれた。
「ミトちゃん、ナイン君の装備製作はどんな感じかにゃ?」
「え、っと……順調、ですよ?」
「……全然順調そうに聞こえないんだけど」
「だにゃー」
私達の返しに、少し暗い顔をしたミトは「あはは……」と苦笑し、「あとひとつ、素材が完成してないんです」と、困ったような顔をした。
素材が完成してない?
「素材ってのは、どういうことにゃ?」
「あ、うん。私も気になるかな。もし手伝えるなら手伝うし」
「だぜー」
私とケートは、喧嘩していたことすらなかったみたいに二人で頷いて、ミトへと視線を投げかける。
そんな私達にミトはまた苦笑して、「いえ、私の作業ですので、大丈夫です」と頭を下げた。
うーむ……そうなると手伝えないのかなー。
「ねえミトさん。一応、何で詰まってるか聞いても良い?」
「え? ええ。『黒の染色液』です。消音の効果を付与したいんですが……なかなか難しくて」
「あー、それ掲示板で見た気がするにゃー。黒色は作ること自体が難しいって話だったぜ?」
なんでも、自然界に存在してないとかそんな感じで、難しいらしい。
今のところ、錬金術でしか作れないらしく、性質や性能をいじると難易度があがるとかなんとか。
なんだか難しいんだなぁ……。
「でも、黒色が足りないって、他の部分の色は揃えなくてもいいのかにゃ?」
「はい。他の部位は、深緑とか濃紺とかの色を指定されたので、そこまで難易度は高くなかったんですが……黒で消音となると、難易度がすごく高くて」
「なるほどにゃー。消音の効果は、ステルス系プレイヤーからすると、すごい有用性のある効果だし、難易度が上がるのは納得だにゃ」
それだけに、効果つき染色液や効果つき素材は、プレイヤーの間で高値取引されているらしい。
もっとも、消音や認識阻害といったステルス向きの効果は、明るい色では使いにくい効果なこともあって、あまり出回ってないらしいけど。
ほー、素材にも色々あるんだなー。
「でも、【錬金術】のスキル内スキルで、成功率を上げたりできないのかにゃ? そういった話も掲示板でみた気がするけど」
「あ、はい。【錬金術】のレベル8で使えるようになった、『三種融合』で、多少は成功率が上がるらしいんですが……」
「それでもまだ成功してない、と」
「はい……」
肩を落とし、ため息を吐くミトに、私はなにか声をかけようとして……できなかった。
私はあくまでも戦闘メインのプレイヤーだ。
だから、こういった“生産プレイヤーにしかわからない苦難”は、どうしても共感しきれない。
……だって、そこまで苦しんで何かを作るなんて、考えたこともないから。
でも――。
「ミトちゃん、難しいって思ったときは、全てを分解して考えるんだぜ」
そう、ケートは違う。
ケートは、とにかく努力で埋めてきたから。
……もっとも、ゲームのことだけ、だけど。
「分解、ですか?」
「そそ。どんな大きな物事も、ひとつひとつ要素を分解していけば、結構小さいことの集まりだったりするんだぜ。私達人間だって、大きな塊に見えるけど、その実、何十兆という細胞が集まって、ひとつの形になってる。もちろん、そんなに分解する必要はないけれど、例えば頭とか腕とか足とか、いろんな部位に分けて考えれば、それぞれの違いとか、作りとか……分かりやすくなるでしょ? そーいうことだよ」
「……つまり、どういうことよ」
「にゃはは。つまり、一ヶ所ばっかり見てないで、いろんなところに目を向けてみれば良いんじゃないかってことにゃ! 染色液も、いろんな部分があると思うしにゃ!」
キリッとした顔で言ったケートに、ため息混じりでツッコミをいれれば、笑いながらそう答える。
そう、ケートはそういう子。
いつだって色んなことを考えてる……考えすぎるくらいに考えてる。
だからこそ、私は負けたのだ。
考えすぎなくらいに私のことを考えてくれた、ケートに。
「ミト」
「……カリンさん?」
ケートが語っている間にすぐそばに来ていたカリンが、ミトの肩へと手を乗せる。
そして、まっすぐに目を見つめたまま「大丈夫。待つ」と、しっかり頷いた。
「私は、ミト、が作ってくれる、のを、待ってる、から」
「……はい。がんばります」
「ん」
頷いたミトの頭を撫でるカリンに、ケートはやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、「あー、良いところ取られちゃったにゃー」と笑った。
-----
名前:セツナ
所持金:105,040リブラ(-25,000リブラ)
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.7】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】
つまり、そう……25,000リブラが吹っ飛んでいったということだ。
「にゃはははは、にゃーっははははははは」
「って、ケート笑いすぎでしょ!?」
「だって、セツナが、あのセツナが。しみじみと“……高い”って呟くの面白すぎてねぇ。今まで我慢しただけでも褒めてほしい……ぷふふ」
イラッ。
「ぷふぶぇいったぁ!?」
「笑いすぎって言ってるでしょ!?」
「だ、だからって頭叩くのは反則! 横暴だ、横暴だ!」
「あんたが笑うからでしょうが!」
売り言葉に買い言葉の応酬。
しかし、止まらないと思っていた口喧嘩も、静かな「うるさい」という言葉でピタッと止まった。
……そう、今私達は、共有作業場にいたのだ。
そして私達を止めた声の主は……いつもと変わらない無表情のまま、その目が私達をジーっと見て動かない。
こわいこわい、こわいこわいこわい。
「あ、えっと、セツナさん達。ちょっと静かに」
「ご、ごめんなさい」
「ごめんなさいにゃー……」
「ん。分かれば良い」
くるりと背を向けて作業を再開するカリンに、私とケートはホッと胸を撫で下ろす。
そんな私達にミトは苦笑しつつ、お茶を淹れてくれた。
「ミトちゃん、ナイン君の装備製作はどんな感じかにゃ?」
「え、っと……順調、ですよ?」
「……全然順調そうに聞こえないんだけど」
「だにゃー」
私達の返しに、少し暗い顔をしたミトは「あはは……」と苦笑し、「あとひとつ、素材が完成してないんです」と、困ったような顔をした。
素材が完成してない?
「素材ってのは、どういうことにゃ?」
「あ、うん。私も気になるかな。もし手伝えるなら手伝うし」
「だぜー」
私とケートは、喧嘩していたことすらなかったみたいに二人で頷いて、ミトへと視線を投げかける。
そんな私達にミトはまた苦笑して、「いえ、私の作業ですので、大丈夫です」と頭を下げた。
うーむ……そうなると手伝えないのかなー。
「ねえミトさん。一応、何で詰まってるか聞いても良い?」
「え? ええ。『黒の染色液』です。消音の効果を付与したいんですが……なかなか難しくて」
「あー、それ掲示板で見た気がするにゃー。黒色は作ること自体が難しいって話だったぜ?」
なんでも、自然界に存在してないとかそんな感じで、難しいらしい。
今のところ、錬金術でしか作れないらしく、性質や性能をいじると難易度があがるとかなんとか。
なんだか難しいんだなぁ……。
「でも、黒色が足りないって、他の部分の色は揃えなくてもいいのかにゃ?」
「はい。他の部位は、深緑とか濃紺とかの色を指定されたので、そこまで難易度は高くなかったんですが……黒で消音となると、難易度がすごく高くて」
「なるほどにゃー。消音の効果は、ステルス系プレイヤーからすると、すごい有用性のある効果だし、難易度が上がるのは納得だにゃ」
それだけに、効果つき染色液や効果つき素材は、プレイヤーの間で高値取引されているらしい。
もっとも、消音や認識阻害といったステルス向きの効果は、明るい色では使いにくい効果なこともあって、あまり出回ってないらしいけど。
ほー、素材にも色々あるんだなー。
「でも、【錬金術】のスキル内スキルで、成功率を上げたりできないのかにゃ? そういった話も掲示板でみた気がするけど」
「あ、はい。【錬金術】のレベル8で使えるようになった、『三種融合』で、多少は成功率が上がるらしいんですが……」
「それでもまだ成功してない、と」
「はい……」
肩を落とし、ため息を吐くミトに、私はなにか声をかけようとして……できなかった。
私はあくまでも戦闘メインのプレイヤーだ。
だから、こういった“生産プレイヤーにしかわからない苦難”は、どうしても共感しきれない。
……だって、そこまで苦しんで何かを作るなんて、考えたこともないから。
でも――。
「ミトちゃん、難しいって思ったときは、全てを分解して考えるんだぜ」
そう、ケートは違う。
ケートは、とにかく努力で埋めてきたから。
……もっとも、ゲームのことだけ、だけど。
「分解、ですか?」
「そそ。どんな大きな物事も、ひとつひとつ要素を分解していけば、結構小さいことの集まりだったりするんだぜ。私達人間だって、大きな塊に見えるけど、その実、何十兆という細胞が集まって、ひとつの形になってる。もちろん、そんなに分解する必要はないけれど、例えば頭とか腕とか足とか、いろんな部位に分けて考えれば、それぞれの違いとか、作りとか……分かりやすくなるでしょ? そーいうことだよ」
「……つまり、どういうことよ」
「にゃはは。つまり、一ヶ所ばっかり見てないで、いろんなところに目を向けてみれば良いんじゃないかってことにゃ! 染色液も、いろんな部分があると思うしにゃ!」
キリッとした顔で言ったケートに、ため息混じりでツッコミをいれれば、笑いながらそう答える。
そう、ケートはそういう子。
いつだって色んなことを考えてる……考えすぎるくらいに考えてる。
だからこそ、私は負けたのだ。
考えすぎなくらいに私のことを考えてくれた、ケートに。
「ミト」
「……カリンさん?」
ケートが語っている間にすぐそばに来ていたカリンが、ミトの肩へと手を乗せる。
そして、まっすぐに目を見つめたまま「大丈夫。待つ」と、しっかり頷いた。
「私は、ミト、が作ってくれる、のを、待ってる、から」
「……はい。がんばります」
「ん」
頷いたミトの頭を撫でるカリンに、ケートはやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、「あー、良いところ取られちゃったにゃー」と笑った。
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名前:セツナ
所持金:105,040リブラ(-25,000リブラ)
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.7】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.10】【秘刃Lv.2】【符術Lv.1】
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