また、つまらぬものを斬ってしまった……で、よかったっけ? ~ 女の子達による『Freelife Frontier』 攻略記

一色 遥

文字の大きさ
上 下
55 / 111
第三章『君には届かない』

女子会っぽくない女子会(二人)

しおりを挟む
「そういえば、ケート。ミトさんになにか頼んでなかった?」

 喫茶エルマンで新作ケーキを堪能していた私は、箸休め……もとい、フォーク休めに、対面のケートへとそんなことを訊いていた。
 ちなみに、エルマンの新作ケーキは、お茶に使われる茶葉を使った、少し大人なケーキだった。
 ほんのりとした苦味と、柔らかな口溶けのクリームがマッチして、絶妙なハーモニーを奏でている。
 ……美味しい。

「んー? ああ、アレはなんていうか、使う機会が来なければいいなーって思ってるやつだねー」

「……わざわざ頼んだのに?」

「にっひっひ。それはほらアレですよ。もしもの備えってやつでさあ」

「まあ良いけど。そのもしもの備えは、そもそもなんのためにお願いしたのよ」

 言って、甘いカフェオレ的な飲み物を飲み、私はホッと一息つく。
 そんな私に少し笑いつつ、ケートは「それはまあ、その時のお楽しみってことで」と、ケーキにフォークを突き刺した。
 ケートはこう見えて、少し渋めのお菓子も好きだったりする。
 モンブランとか、抹茶のケーキとか。

「それよりもこの先どうすっかねー。二層のボスは未だ一体も見つからず、三層ゲートも見つからず、だぜー」

「だねー。例のあの人は何か言ってないの? ほら、一層を走り抜けた人」

「あー、あの人の報告はあったけど、なーんのヒントにもなりませんなー。二層は西側の大河以外全領域荒野で、ダンジョンがありそうな山も洞窟も谷も見当たらなかったってさー。ちなみに、大河の向こう側はエリアとして存在してなさそうだって」

「そっかー。それはもうどうしようもないね」

 そもそも、ダンジョンもないってなると、本格的に困っちゃうよねー。
 というか、ゲートってダンジョンの奥にあるものって認識で間違ってない……よね?
 んー、一層の時みたいに、イーリアスのNPCが何か知ってたりしないのかな?

「ま、なんにしても、ひとまずはナイン君の装備が完成するのを待つ感じかな」

「そうなの?」

「あーゆーちょっと強くて、名が知られてるプレイヤーとは親しくなっとくのが吉なんだぜ。まあ、それが面倒事を呼ぶ場合もあるけど……」

「……それって本当に良いことなの?」

 語尾が弱くなっていくケートに、じーっと目で圧力を掛けていけば、「たぶん、にゃ……」とケートは顔を逸らしていく。
 その反応に私はため息をついて、「まあ、いいけど」と話題を断ち切った。
 正直、ケートのことだから、ナインの装備が気になるってだけなんだろうけど。

「そういえば、生産イベントで優勝したアイテムが、課金ショップで販売開始されたんだぜ!」

「あ、そうなの?」

「うむー。課金アイテムだから、交換や譲渡は不可なんだけど、サンプルとして持っておきたいって生産プレイヤーは多いみたいだにゃー。ちなみに、リンの装備一式が3000円、ミトちゃんのジュースが一杯200円で、楽器が2000円だにゃー」

「へー、結構するんだねー」

 といっても、高すぎるというほど高くはないのかもしれない。
 特に、カリンの装備一式なんて、3000円で買えるならかなりお得感ある完成度だったし。
 あと、ドリンク200円っていう微妙な値段設定は誰が考えたんだ……。

「さすがにオリジナルよりは、装備の能力が落とされてるっぽいけどにゃー。まあ、リンの本気装備が出回ったら、ちょっとバランス崩壊しちゃいそうだし」

「そこまで崩壊する? 使ってる素材も普通の素材だし、そんなにはならないんじゃない?」

 驚く私に、ケートは「ノンノンだぜ」と、人差し指を揺らし、ニタッと笑う。
 その顔、あんまりやらない方がいいと思うよ?
 というか、ケートのドヤ顔とかキメ顔とかって、微妙にイラッとするレベルだから、その辺もまとめて封印した方がいい。

「普通の素材でも、縫製の質や裁断面の処理、鉄なら炉の温度調整などなど、職人の技術によって完成品の質は大きく変わるんだぜ。同じ木で同じ形の木彫りの熊を作っても、人それぞれ顔が違う、みたいな感じかにゃー」

「その例えはちょっと分かりにくいと思うけど、まあ、うん」

「だから、リンが本気で時間をかけて作り上げた装備は、ちょっとグレードがおかしいことになるんだぜ。もちろん私達の装備も、ちょっとおかしいことになってると思うにゃー」

 その、ちょっとおかしいレベルの装備を常に着てたのか、私は。
 ……あんまり目立たないレベルの服を一着買っとこうかなー。
 街を散策するときに目立ちすぎるのもアレだし。

「でも、私達の装備を作ったときって、まだカリンさんのスキルレベルは低かったんじゃないの? そんなにグレード高いのができる?」

「まあ、成功率は下がると思うけど、ある程度はプレイヤーの腕次第だからにゃー。そのくらいのハンデなら、ものともしない気がするぜ」

 さすがカリン。
 でもそうなると、私達の装備って、ここからしばらく変える必要がないってことなんじゃ……。
 んー、ずっと同じ服着てるのもねー、かわいいけど。

「にひひ。セツナは今、ずっと同じ装備かーって思ってるでしょ?」

「そうだけど……?」

「そんなセツナに、ちょっとした案がありまして……」

 そう言ってケートは、ちょいちょいっと手招きする。
 そんなケートに首を傾げつつ、私は机の上に身を乗りだし、耳をケートに近づけた。

「セツナはん、少しの間刀を置く気はないかにゃ?」

「……え?」
 
-----

 名前:セツナ
 所持金:211,590リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

処理中です...