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第三章『君には届かない』

無表情に揺れる想い

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「……ま、なんにせよ本格的に帰ろうぜーい。リンが待ちくたびれちまうぜ」

 妙な雰囲気を払拭するように、手で足についた砂埃を払って、ケートは笑う。
 その言葉に否を唱える必要もない私は、「それもそうね」と頷いて、ケートの隣へと並んだ。

「あ、待ってくださいっスよー!」

 その後ろから、少し遅れるようにナインがついてくる。
 ……ついでにその後ろに、サイがいたが。

「って、後ろから音がすると思ったら、モンスターじゃないっスか!?」

「がんばれーにゃー」

「っちょ、ケートさん!? 手伝ってくださいっスよ! 弓使いは接近戦苦手なんスよ!?」

「私の知っている弓使いならやれる」

 あれはだから弓使いじゃないって。
 そうこう言ってるうちにナインは弾き飛ばされ、サイは私達めがけて突っ込んできた。
 なるほど。

「ケート、ナインをお願い」

「りょーかいにゃー」

 ぴょんぴょん跳ねるような軽い足取りでナインを起こしにいくケート。
 なんかもう、緊張感が無さすぎ。

「ブモ!」

「その鳴き声はどちらかと言うと豚っぽいから違うと思う」

「ブ、ブモ?」

「でも、まあ、同じ四足動物なので許せるかなー? あ、でも死んでね。【蝶舞一刀】水の型『水月』」

 サイが飛び出すのと同時に、鼻先から尻尾まで真っ直ぐに斬り抜ける。
 チッと納める時の音がして、アイテム入手のアナウンスが流れた。
 うん、これくらいなら一刀両断できるね。

「相変わらず見事っスねぇ……」

「ありがと。ナインさんは大丈夫?」

「問題ないっス。吹っ飛ばされて頭打ってたところを、ケートさんが助けてくれたっス」

「にひひ。やることはしっかりやるんだぜ」
 
 にまにまと笑いながらピースしてくるケートに苦笑しつつ、そっと頭を撫でてあげる。
 すると、少し戸惑ったような声で「お、おう……?」とケートが鳴いた。
 ケート、アシカみたいな声だしてる。

「あ、ケートさん照れてるんスか?」

「てて、照れてねーべよ。ただなんかこう……」

「なんスか? よく聞こえないっスよ?」

「う、うっさいわい! ぽっと出弓使いが!」

「ひ、ひどいっス!」

 そうしてまたギャースカギャースカ口喧嘩を始めた二人に、私は今日何度目か分からない溜め息を吐くのだった。
 はぁ……そろそろ帰ろうよ、二人とも。



「あ、お帰りなさい。セツナさん、ケートさん、あとナインさん」

「ん」

「たーだいまにゃー」

「ただいま戻りましたっス! カリンさん、素材はこれで十分っスか!?」

 出迎えてくれたミトとカリンに「ただいま」と返しつつ椅子に座れば、ナインが机の上にサボテンやらサイやらの素材を出していく。
 いや、必要だったのは、サボテンのトゲだけだったはずだけど?

「残った素材はカリンさんに報酬の一部としてお渡しするっス! なので、すこーしだけお安くしてくれないっスかね……?」

 あ、なるほど。
 私やケートからするとそこまで高くないけど、それはイベントの賞金があるからだよね。
 つまり、ナインからすると少し苦しいんだなー。

「構わない」

「ほ、ほんとっスか!?」

「でも、ほぼ残らない」 

「……え?」

 喜んだのもつかの間、無慈悲なカリンの言葉に、ナインはその場でピシりと固まった。
 あーまあ、カリンだし……試作とか言って色々試すんだろうなぁ……。

「全種100」

「え、え?」

「えっと、万全なのは全種類100個くらい欲しい、だそうです?」

「ひゃ、ひゃく……」

 膨大過ぎる量にナインは呆然としつつ……しかし、すぐに「やってやるっスよぉ!」と作業場を飛び出していった。
 元気だなぁ……。
 もうすぐ夕暮れなんだけど、まあナインなら大丈夫かな。

「ねーねー、リンー。ホントに全種類100個も必要なのかにゃー?」

「……必要ない」

「にゃーるほどー。にひひ、まあ帰ってきたら謝りなよー?」

「ん」

 通じ合ってるっぽい二人に、私とミトは揃って首を傾げる。
 カリンさんが意地悪するとか、なんだか珍しい気がするなー。

 と思ってたら、ケートが私を手招きして、そっと作業場から出て行く。
 そんなケートの後を追って外にでると、ケートは私のそばまできて、耳元に口を近づけた。

「リン、ちょっと怒ってた感じだったにゃー」

「……え? なんで?」

「私達に対しては普通だったし、たぶんナイン君が、ミトちゃんに迷惑かけたからじゃないかにゃー?」

「ああ、なるほど」

 つまり、私と決闘する前の出来事を、狩りに行ってる間に詳しく聞いたんだろう。
 だから、帰ってきた時も、少し静かだったんだ。
 ……いや、静かなのはいつものことだっけ?

「でも、ちょっと不思議だにゃー。リンって、あんまり人に固執しないタイプだと思ってたし」

「そうなの?」

「うん。なんか間に線がある感じだからにゃー。まあ、今はもうお互いに慣れちゃったから、あんまり気にしてないんだけど」

「んー……よく分かんないかなー。カリンさんは最初からずっとカリンさんだし。あ、でもお肉関係の時は、全然違う人に見えるけど」

 アレはほら、なんていうか……中毒者みたいな。
 肉中毒ってなんか嫌な響きだけど……でもそんな感じ?

「まー、アレが多分、本来のリンの性格なんだと思うぜー。普段はいろいろ考えてて、逆に喋れてないって感じ」

「そういうものかなー?」

「そういうものですたい。ほら、好きなモノに対しては、口が軽くなるみたいな感じ? 身に覚えない?」

「……あんまりないかな」

 思い出してみても、そんな経験はあまりない。
 ケートのことで思い出してみれば……あー、たしかに。
 ゲームの話するときだけは、ケートもすっごいマシンガンだ。

「へへっ、照れるぜ」

「褒めて良いことなのか分からないんだけど」

「好きなことをいっぱい話せるって良いことだと思うんだけど、違うのかにゃ?」

「うーん……そう言われると、良いことのような気がするけど……」

 そもそもその場合、話す側じゃなくて、聞く側が良い人ってことなんじゃないだろうか。
 となると……私が良い子なんだな。
 うん、それは正しい気がする。

「……とりあえず、カリンさんはもう大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫じゃないかにゃー? でも、しばらくミトちゃんに任せとこうぜ!」

「まあ、それもそうね。作業場も出ちゃったし……戻った時に聞かれても困りそうだし」

「ういうい! んじゃ、狩りにはちょっと遅いし、茶でもしばこうぜ、お嬢さん」

 キリッとした顔で誘ってくるケートに笑いつつ、私は差し出された手を取る。
 そして私達は、すっかり行きつけになった喫茶エルマンへと向かった。

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 名前:セツナ
 所持金:211,590リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】
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