上 下
42 / 111
第二章『名前をつけるなら』

二人の距離

しおりを挟む
「ケート、お疲れさま」

「お疲れさまです、ケートさん!」

「ん、お疲れ」

「にゃはは、まさかここまで勝てるなんて思ってなかったにゃー」

 試合から出場者用観客席に戻ってきたケートを労うと、ケートはそんなことを言って頭を掻く。
 そうかなー?
 私はケートなら行けると思ってたんだけど。

「でも、ビックリしましたよー。ミシェルさんの弓が双剣になったときとか、私“ええっ!?”って驚いちゃいました」

「ミトさん、すごいビックリしてたよねー。その後も、ケートが空飛んだりとか、両腕と合体したときとかも驚いてた」

「ん。すごかった」

「むしろ、どうしてお二人は全然ビックリしてないんですか! もう!」

 そんなこと言われてもねー。
 ケートだし、なんかやらかしそうだなーくらいしか……。
 あと、グレンのパーティーメンバーってことは、あの人も変だって思ってたから?

「やあ、ケートさん。試合お疲れさま。面白い戦い方で、すごく勉強になったよ」

「あ、グレンさん。ありがとうございますですー。そちらのミシェルさんも、強かったですよー」

「はっはっは、伊達にうちのメンバーをやっていないからな。しかし、ミシェルが双剣を使うほどの相手か……今度、俺とも戦ってくれないか?」

「えー……その、機会があれば」

「ああ、その時はよろしくお願いする! では、俺はミシェルのところに行ってくるとするよ」

 言いながら手をあげて部屋を出ていくグレン。
 なんていうか、熱い人なんだよね……清々しすぎてちょっとウザい感じがするくらいの。

「ちょっと暑苦しいけど、あーゆー人の方がリーダーには向いてるんだろうにゃー。引っ張っていく力が強い感じで」

「まあ、そうなんだろうけどねー。私は苦手かなー」

「にゃはは。セツナは頼られる側だからね」

 そう言って笑うケートに苦笑しつつ、私達も部屋をでる。
 どこに行くわけでもないんだけど、ちょっとした気分転換、かな?



「セツナ、ちょっと良いかにゃー?」

 四人で屋台を回ったりフラフラしてると、ケートが突然そんなことを言って私を呼ぶ。
 その顔が少し困ったような、それでいて少し決心したような……とにかく、あまり見ない顔で、私は首を傾げつつもケートの誘いに乗った。
 ミトやカリンには、遅かったら先に戻ってもらうように伝えたけど、どこに向かうのかな?

「ここでいいかにゃー」

「ケート? どうかしたの?」

「にひひ、なんでもないんだけどねー。なんでもないんだけど、なんでもなくないっていうか」

「……? どういうこと?」

 ものすごくよくわからないことを言い出したケートに、私は眉間に皺を寄せて訝しむ。
 その表情に慌てたのか、「ちょ、ちょっとまってね! 整理するから!」とケートはワタワタしはじめた。

「えっと、えーっと……あの、セツナと私で決勝戦じゃん?」

「うん。そうだね」

「で、私は絶対に負けたくないって思ってる。たぶん、セツナが想像してるよりももっともっと強く」

「うん」

 ケートはそんな分かり切ったようなことを言い始める。
 まあ、ケートはゲームが好きだし、全力で楽しむためにトップを走ろうとするし?
 第二層にいち早く来ようとしてたのも、そういった理由なんだろうなーって思うからね。
 でも私は別に優勝にこだわってるわけじゃないし、ケートが勝ちたいならそれはまあそれで……。

「まあ、たぶん? セツナのことだから『勝ちたいなら、私が負ければ良いかな?』みたいなこと考えてるんじゃないかなーって思うんだよねー?」

「まあ、うん、そういう相談なのかなーって」

「にゃはは、そうだよね。セツナってそんな感じだよねー。頼られたりお願いされたら、基本的には頷いて受け入れて。このゲームもそう。私が一緒にやりたいっていったから、やってくれてるんだよね。それはすごい嬉しかったし、ありがとうございますですにゃー」

 まあ、最近はカリンとかミトとも知り合ったし、楽しくなってきてるけど、一番最初はそうかな?
 ケートが一緒にやってくれてるから、続いてるって感じもするしねー。

「だから、今回も同じでしょ? ケートが勝ちたいなら、私は負けるよ? 別に優勝にこだわりもないし」

 ここまで勝ってきたのだって、ケート達が期待してくれたり、カリンやミトの結果に見合うようにしたいってだけだし……?
 ケートと私で一位二位をとれるなら、その辺はまあもう十分でしょ?

 なんて考えてたら、目の前からすごく大きなため息が聞こえてきた。
 もう、これみよがしなくらいに「ハァー」って。

「ふざけてる。マジでふざけてる。冗談って言ってくれれば、まだマシなんだけど、セツナのことだからマジで言ってるのがわかるだけに、マジでキレそう」

「え、え? ケート?」

「いや、大丈夫。キレてない、大丈夫。でもちょっと待ってね」

 そう言ってケートは背を向け、大きく深呼吸すると「よし!」と気合いを入れて私の方へと向き直る。

「セツナ、大事なことを言っておくね。私って、すーんごい負けず嫌いなの。ゲームとかで負けると、イライラして家の壁壊したくなるくらいに」

「う、うん。だから、」

「だからって、手加減されて勝ったところで、嬉しくなんてない。勝つなら本気の相手に、本気でぶつかって勝ちたい」

 その言葉に、私はガツーンと頭を殴られたような衝撃を感じた。
 え、じゃあどうすればいいの?
 私が本気を出したら、ケートが……。

「ふざけんな」

「……え?」

「本気で来い。この天才魔法使いケート様が、その驕り、全部叩き折ってやる」

 怒ってもない。
 けれど笑ってもない。
 真剣な顔……だけど、目に闘志を燃え滾らせて、ケートは……いや、圭はそう言い切る。
 なら、私がやることはひとつだけ。

「わかった。本気で叩っ斬る。後悔しないでね」

「やーだにゃー。これは試合ですよ。……勝者がいれば敗者がいる、ただそれだけのこと。もっとも勝つのは私だけど」

 目を合わせ、私達はどちらともなくニヤリと笑い、お互いに背を向ける。
 会うのは闘技場、それまでは一番近い強敵だから。

-----

 名前:セツナ
 所持金:11,590リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...