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第二章『名前をつけるなら』
ふたりとふたり
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「おっはろーはろー! みんなのアイドル、ケートちゃんでっす! リンとミトちゃん、進捗はどんな感じかにゃー?」
「ん」
「あ、はろはろーです? ケートさん」
「んんぅ、ミトちゃんだけが癒しだぁ……ふべっ!?」
「ケート! 作業中に抱きつかないの! ミトさんごめんね、邪魔しちゃって」
あの、ケートが緊急会議と称した日から、ゲーム内で数日が経過し、私とケートは“そろそろ一度、二人の進捗を確認してみよう”ということで共有作業場に来ていた。
その結果、ミトに抱きついたケートの脳天に手刀を落とすことになったんだけどねー。
まったく、邪魔しちゃダメでしょ。
でも、恥ずかしそうしてるミトは、ちょっと可愛かったかも。
「で、どうなのかにゃー? 進んでるー?」
「はい。私も方向性は決まりましたし、カリンさんも試作をどんどん作ってますよ」
「ミト、弾ける」
「えっ!? ミトちゃん楽器が弾けるの!? わわわ、ぜひにぜひゃぶっ」
「だから邪魔をしないの!」
滑り込むように、ミトに近づいていったケートの首根っこを掴み、私は後ろへと引き戻す。
なんだかこうやってると、まるで猫みたい。
よくにゃーにゃー言ってるし。
「セツナはん、セツナはん。嫉妬は良くないですぞ?」
「誰がどう嫉妬してるのよ。私は作業の邪魔はしないようにって言ってるだけでしょ?」
「ええー、嫉妬してくれないのー!?」
「どうして欲しいのよ、あんたは!」
“そ、そんなー!”と言わんばかりの顔で言ってきたケートの頬を引っ張って、むにむにする。
なんなんだお前はいったい!
やわらかいな!
「ふふ、ケートさんとセツナさんって、本当に仲が良いんですね」
「ん」
「見てると、ちょっと羨ましいです」
「ん」
ケートとぎゃーすか言ってると、ミトの笑い声が聞こえ、二人へ顔を向けるとそんな話をしていた。
んー……二人も十分仲が良いと思うけど。
なんかほんわかしてる気がする。
ほら、縁側でお茶飲んでる感じの。
「にっしっし、リンも隅におけませんなぁ?」
「……?」
「あれ? なんでそんな『なに言ってんだお前』みたいな顔!?」
「正解」
カリンはどうやら、そう思ってたらしい。
ちなみに、私もそう思ってた。
「ひどいやい、ひどいやい! ケートちゃん、きずついた! 深く傷付いた!」
「うわ……めんどくさ」
「いや、めんどくさいて……」
突然、床に寝転んでジタバタしはじめたケートが、私の言葉で真顔になってそのままペタンと息絶えた。
もちろん生きてはいるんだけども……汚れるよー?
「ミト、これ」
「え? あ、はい! まだまだ下手ですけど、失礼します」
カリンも、息絶えたケートがめんどくさかったのか、ミトに瓜型の楽器らしきものを手渡し、弾くように勧めた。
受け取ったミトは、すぐさまその意図を理解して……指で弦を弾く。
瞬間、ポロンと優しい音が部屋のなかに響いた。
「ほえ?」
「ほらケート。ミトが弾いてくれるって」
「なぬ!」
ガバッと起き上がり、ササッと私の隣に座る。
そうしてケートは、ミトの弾き出すメロディーに耳を傾けるのだった。
分かりやすい子だなぁ……。
□□□
ミトの演奏会から数時間が経ち、私とケートは共有作業場を後にした。
あのまま私達が部屋の中にいると、ミトが気になって落ち着かない感じだったので。
でも、ミトの演奏……いい感じだったなー。
「アコースティック楽器らしい、いい音だったねー。ゲームの中でアコースティックっていうのも、変な感じだけど」
「アコースティック?」
「あ、えーっと、生音楽器……って感じかな。本来の意味は音響って意味なんだけど、楽器に対して使うときは、生音って意味になるかなー。ほら、エレキギターとかは電気じゃん?」
「よくわかんないけど、なんとなくはわかった、かも?」
ケートの説明に首を傾げつつも、そういうものなんだろうと納得する。
正直、楽器は学校の音楽の時間くらいでしか触ったこともない。
でも……やっぱりあーゆーのを見ると、一度くらいは弾いてみたいなーって思っちゃうよね。
「セツナはー……やめといた方がいいかな」
「ええ!? なんで!?」
「だってセツナ、音楽の時間で先生を泣かせたじゃん。しかも最終的に『もういいです……楽器が悲痛の声をあげているのを、私はこれ以上見てられません!』って」
「そ、そこまで酷くないもん! リコーダー吹いたらちょっと不協和音が出るだけだもん!」
「いや、あれは悪魔召喚だった」
そんなことない!
たしかに、ピーって鳴らずにピョホーって感じだったけど!
悪魔召喚はしてない!
「あ、でも、プレイヤースキル重視のゲームで、現実で壊滅的スキルな人がスキル取ってやったらどうなるのかは気になるかも」
「現実で壊滅的!?」
「そんなわけで、セツナ。【演奏】のスキル取ってみる?」
「今の流れで取るって言えるほど、私図太くない……」
「あれ? そう?」
不思議そうな顔を見せるケートに、私はなんとも言えぬ敗北感を……否、見返してやるのだ!
ケートがいない間に上手くなってやるのだ!
取るって言えるほど図太くないけれど、取らないとは言ってないもんね!
よーし、そうと決まればカリンにメッセージ送っとこう!
「……ふっふっふ」
「あ、これ面倒なことになるやつだにゃー。セツナー、セツナちゃーん?」
「ふふふ、今に見ていろケート……」
「とりあえず、リンに釘さしとこ……『セツナに楽器は渡さないように。地獄が生まれる』と」
そんなこんなで、私とケートはイーリアスの街から出たのだった。
とりあえず決闘ばっかりじゃなくて、スキルレベルもあげないと、だしね。
-----
名前:セツナ
所持金:7,280リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.13】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.5】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.8】
「ん」
「あ、はろはろーです? ケートさん」
「んんぅ、ミトちゃんだけが癒しだぁ……ふべっ!?」
「ケート! 作業中に抱きつかないの! ミトさんごめんね、邪魔しちゃって」
あの、ケートが緊急会議と称した日から、ゲーム内で数日が経過し、私とケートは“そろそろ一度、二人の進捗を確認してみよう”ということで共有作業場に来ていた。
その結果、ミトに抱きついたケートの脳天に手刀を落とすことになったんだけどねー。
まったく、邪魔しちゃダメでしょ。
でも、恥ずかしそうしてるミトは、ちょっと可愛かったかも。
「で、どうなのかにゃー? 進んでるー?」
「はい。私も方向性は決まりましたし、カリンさんも試作をどんどん作ってますよ」
「ミト、弾ける」
「えっ!? ミトちゃん楽器が弾けるの!? わわわ、ぜひにぜひゃぶっ」
「だから邪魔をしないの!」
滑り込むように、ミトに近づいていったケートの首根っこを掴み、私は後ろへと引き戻す。
なんだかこうやってると、まるで猫みたい。
よくにゃーにゃー言ってるし。
「セツナはん、セツナはん。嫉妬は良くないですぞ?」
「誰がどう嫉妬してるのよ。私は作業の邪魔はしないようにって言ってるだけでしょ?」
「ええー、嫉妬してくれないのー!?」
「どうして欲しいのよ、あんたは!」
“そ、そんなー!”と言わんばかりの顔で言ってきたケートの頬を引っ張って、むにむにする。
なんなんだお前はいったい!
やわらかいな!
「ふふ、ケートさんとセツナさんって、本当に仲が良いんですね」
「ん」
「見てると、ちょっと羨ましいです」
「ん」
ケートとぎゃーすか言ってると、ミトの笑い声が聞こえ、二人へ顔を向けるとそんな話をしていた。
んー……二人も十分仲が良いと思うけど。
なんかほんわかしてる気がする。
ほら、縁側でお茶飲んでる感じの。
「にっしっし、リンも隅におけませんなぁ?」
「……?」
「あれ? なんでそんな『なに言ってんだお前』みたいな顔!?」
「正解」
カリンはどうやら、そう思ってたらしい。
ちなみに、私もそう思ってた。
「ひどいやい、ひどいやい! ケートちゃん、きずついた! 深く傷付いた!」
「うわ……めんどくさ」
「いや、めんどくさいて……」
突然、床に寝転んでジタバタしはじめたケートが、私の言葉で真顔になってそのままペタンと息絶えた。
もちろん生きてはいるんだけども……汚れるよー?
「ミト、これ」
「え? あ、はい! まだまだ下手ですけど、失礼します」
カリンも、息絶えたケートがめんどくさかったのか、ミトに瓜型の楽器らしきものを手渡し、弾くように勧めた。
受け取ったミトは、すぐさまその意図を理解して……指で弦を弾く。
瞬間、ポロンと優しい音が部屋のなかに響いた。
「ほえ?」
「ほらケート。ミトが弾いてくれるって」
「なぬ!」
ガバッと起き上がり、ササッと私の隣に座る。
そうしてケートは、ミトの弾き出すメロディーに耳を傾けるのだった。
分かりやすい子だなぁ……。
□□□
ミトの演奏会から数時間が経ち、私とケートは共有作業場を後にした。
あのまま私達が部屋の中にいると、ミトが気になって落ち着かない感じだったので。
でも、ミトの演奏……いい感じだったなー。
「アコースティック楽器らしい、いい音だったねー。ゲームの中でアコースティックっていうのも、変な感じだけど」
「アコースティック?」
「あ、えーっと、生音楽器……って感じかな。本来の意味は音響って意味なんだけど、楽器に対して使うときは、生音って意味になるかなー。ほら、エレキギターとかは電気じゃん?」
「よくわかんないけど、なんとなくはわかった、かも?」
ケートの説明に首を傾げつつも、そういうものなんだろうと納得する。
正直、楽器は学校の音楽の時間くらいでしか触ったこともない。
でも……やっぱりあーゆーのを見ると、一度くらいは弾いてみたいなーって思っちゃうよね。
「セツナはー……やめといた方がいいかな」
「ええ!? なんで!?」
「だってセツナ、音楽の時間で先生を泣かせたじゃん。しかも最終的に『もういいです……楽器が悲痛の声をあげているのを、私はこれ以上見てられません!』って」
「そ、そこまで酷くないもん! リコーダー吹いたらちょっと不協和音が出るだけだもん!」
「いや、あれは悪魔召喚だった」
そんなことない!
たしかに、ピーって鳴らずにピョホーって感じだったけど!
悪魔召喚はしてない!
「あ、でも、プレイヤースキル重視のゲームで、現実で壊滅的スキルな人がスキル取ってやったらどうなるのかは気になるかも」
「現実で壊滅的!?」
「そんなわけで、セツナ。【演奏】のスキル取ってみる?」
「今の流れで取るって言えるほど、私図太くない……」
「あれ? そう?」
不思議そうな顔を見せるケートに、私はなんとも言えぬ敗北感を……否、見返してやるのだ!
ケートがいない間に上手くなってやるのだ!
取るって言えるほど図太くないけれど、取らないとは言ってないもんね!
よーし、そうと決まればカリンにメッセージ送っとこう!
「……ふっふっふ」
「あ、これ面倒なことになるやつだにゃー。セツナー、セツナちゃーん?」
「ふふふ、今に見ていろケート……」
「とりあえず、リンに釘さしとこ……『セツナに楽器は渡さないように。地獄が生まれる』と」
そんなこんなで、私とケートはイーリアスの街から出たのだった。
とりあえず決闘ばっかりじゃなくて、スキルレベルもあげないと、だしね。
-----
名前:セツナ
所持金:7,280リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.13】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.5】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.8】
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