吸血鬼の約束

一色 遥

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吸血鬼の約束

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 太陽が昇ると、朝になるらしい。
 それは、昔から決まっている、自然の理、というものだそうだ。
 誰に教えて貰ったのかは覚えていないけれど、それでも僕らの心の奥底には、そういった知識が常識として染みついていた。

「けれど、朝が希望の象徴みたいに言われるのは、やっぱり納得がいかないんだよな」
「仕方ないじゃない。それは君やボクが少し特殊なだけで、普通はそういうものなんだから」
「僕やお前がって言うけれど、そうしたのはお前が原因だろうが」
「そこはほら、水に流してさ」
「流れてる水には近づけなくなったってのに、流せるかよ」

 他にも、太陽の光に当たれば身体が崩れるし、十字架なんかは見るだけで目が焼ける。
 ニンニクは臭いがきついし、銀製品なんか触った日には火傷してしまう。

 そう、ただの吸血鬼ってやつだ。
 ただし、僕は元々吸血鬼じゃない。
 ただの人だったはずなのに、ある日を境に人では無くなってしまったんだ。

「いい加減、自分がもう人じゃないって認めてくれれば良いのに」
「認めてるのは認めてるよ。ただ、それが納得いくかどうかっていわれたら、納得はできないだろ」
「そういうものかな? 人間って面倒くさいんだね」
「人間じゃないんだけどな、すでに」
「君っていちいち細かいよね。こんな暗いところでジメジメ生活してるからそうなっちゃうのかな? もっと太陽の光浴びてくれば?」
「死ぬわ」

 そんなに気軽に殺そうとするな。
 一度死んだ身としては、もう一度死ぬのは御免被りたい。

「死ぬとしても、ボクとの約束を果たしてからにしてね」
「分かってる。そのためにお前に吸血鬼にされたんだから」
「うん。それならよし。それじゃ、ボクは買い物に行ってくるよー」

 フワッと踊るように陽の元に躍り出る。
 しかし、その姿は灰にすらならず、むしろ銀の髪が光を反射し、神々しさすら感じさせた。

「ああ、行ってこい」

 見送りの声を出して、その姿が視界から消えるのを待った僕は、そっと息を吐く。
 約束、それは覚えている。
 しかし――

「果たす時が、来るんだろうか」

 世界最強にして、不死身の吸血鬼でありながら、死にたがりの吸血鬼を殺す、そんな時が。
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