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第3章

第337話 精霊

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「……どうしよっか」
『……どうしましょうか』

 半ば追い出される様に店の外に出た僕らは、大通りを行き交う人を眺めながら、ほぼ同時に呟いた。
 手紙を出すための紙を買いに来たところで、文字が書けないことに気付くとか、間抜け以外の何者でもないんだけど、"そのあたりの常識"が抜けていたことには違いないし……間抜けで間違いはないんだろうな。

 とはいえど、じゃあ調薬でもと思ったところで、イルビンの街には作業場がないし。
 それなら街の外に冒険に……というのは僕一人では少々無謀が過ぎる。

「結局は適当に街をぶらぶらするしかないんだよねぇ」
『……はい』

 こう、最初から"散策するぞ!"という気持ちで街に出てきた場合ならワクワクする街歩きも、"やることがないからとりあえずぶらぶらしよう"という気持ちで歩き出すと、無性に悪いことをしてるような、何かにせき立てられているような……そんな妙な気持ちが湧いてくるのはなんでだろうか。
 やったことはないけど、学校をサボって街を歩いたりしてる時ってこんな感じなんだろうな……やったことはないけど。

『そういえばアキ様。ずっと気になっていたことがありまして……時折、アキ様が話されている学校とは、どういったところなのですか?』
「えっと、学校? あー、こっちの世界にはないんだっけ?」
『そうですね。多分ないと思います。少なくとも私は見たこともないと思いますので』

 なるほど……そうなると、前から僕の言ってた言葉の意味がちゃんと理解出来てなかったてことか。
 でも学校、学校か。

「簡単に言うと、同じくらいの年齢の子供をひとつの場所にまとめて、大人が勉強を教える場所って感じかな? 教える子供の年齢ごとに、小学校、中学校、高校って分けられてて、僕とラミナさん、ハスタさんは高校に通ってて、同い年だからみんな一年生だよ」
『では、先日はそちらでお祭りがあった、ということですか?』
「そうそう。生徒……あー勉強を教わってる子供が主体になってお店とか展示とかをして、家族とか他の学校に行っちゃった昔の友達なんかを呼んでもてなすって感じかな。僕はハスタさんとお客さんを呼び込んだりとか、ラミナさん達とお客さんに料理を運んだりしてたかな」

 言いながら僕の脳裏に浮かんだのは、あの日の実奈さん。
 矢柄模様の大正ロマンメイド服(ロングスカート版)は、物静かな雰囲気の実奈さんに似合ってて、すごく可愛かった。
 あまりそういうことを思わない僕でも、あの日の実奈さんを見られて良かったって思っちゃうくらいだ。

 ……ただし、同じ服を僕が着たのは思い出したくもない記憶ではあるけど。

『アキ様、楽しかったみたいですね』
「ん? 分かる?」
『はい。その顔を見てれば、誰でも分かりますから』
「そ、そっか……」

 知らず知らずのうちに緩んでいたらしい表情を、ペシッと軽く頬を叩いて元に戻す。
 ……そういえばあの日、どうしてトーマ君はアルさんを呼んだんだろうか?
 それに確かお義父さんからの呼び出しも、ちゃんとした理由を教えてもらっていない。
 軽くぼかしたような内容では教えて貰ったけど、よくよく考えれば不思議な内容だった。

「……ねえシルフ。僕らがあまりこっちの世界にこなくなってた辺りで、なにか変なことって起きてなかった?」
『変なこと、ですか? いえ、特に思い当たることは』
「そう? それなら良いんだけど……」
『いえ、その、実はその辺りのことはあまりよく覚えていないんです』

 ん?
 それって、どういうこと?

『憶測ではありますが、普段はアキ様からパスを経由して供給されている魔力が、供給されず、減少し続けていたことが原因ではないかと。実際、アキ様がこちらの世界にこられた日のことは覚えていますので……』
「ふむ……。そういえば精霊って、存在自体が魔力で構成されてるんだっけ? 確か世界のマナがどうこうって」
『そうですね。ですから、アキ様が長期間こられないとなると、私の存在自体は希薄になっていくのではないかと思います』

 ……それってかなり危険なんじゃ。
 僕がログインしないと、シルフの存在が消えていくってことでしょ?
 僕のログインってかなり責任重大なのでは。

『あ、いえ。世界のマナもありますから、完全消滅まで減少することはそうそう無いと思います。ですから、アキ様があちらの世界で何かご用事があれば、そちらを優先していただいて結構ですので』
「そうは言っても、ちょっと躊躇っちゃうよね。さっきの話を聞いちゃうと」
『その……すみません』

 シュンと落ち込んでしまったシルフを尻目に、僕の頭に小さく不安がよぎる。
 もし、僕が長期間ログイン出来なくなってしまったら、その時に運悪く世界のマナが減少してしまったら。
 シルフは……この世界から消えてしまうのか、と。
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