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第3章

第316話 蝶の羽ばたきが世界を一変させる。

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「あの、オリオンさん……ここって?」

 僕は今、オリオンさんと共に、イルビンの街にあるカフェのようなところに来ていた。
 カフェとしての完成度で言えば、オリオンさんのお店“Aurora”の方が、とてもカフェ! って感じなんだけど、今いるお店も、酒場やレストランというよりは、カフェって感じのお店。

「ええ、こちらに向かっている最中でお会いした方に教えていただきまして」
「そういえば、イルビンに来るのがすごい早かったですよね? それも関係あるんですか?」
「もちろんです。といっても、常にこの移動が出来るわけではないのですが……」

 苦笑しながらそう言いつつ、オリオンさんは提供されたドリンクを口に含み、「ほう、なかなか……」とひとり呟く。
 そんな彼に倣って、僕もドリンクを口に含んでみれば……紅茶、というには少し雑味が強いけれど、しっかりとした味が口の中に広がっていた。

「話に聞いていた通りですね。なかなか面白いお店のようです」
「そうなんですか?」
「ええ。こちらのお店は、NPCの方が昔から営業しているお店らしく、他の街ではあまり見たことのないものも取り扱っていると聞いておりましたので」
「なるほど……オリオンさんとしては一度体験しておきたかった感じですか?」
「ふふ、私もまだまだ若輩者ですから。新しい知識や経験は、積極的に積んでいくべきだと思っていますよ」

 そう言って楽しそうに笑うオリオンさんは、なんだかとても生き生きしていて……不思議とこちらも楽しくなってくる。
 しかし、オリオンさんも知らない飲み物ってことは、やっぱりこの街には今までとは違う素材が溢れているってことなんだろう。
 [ネオタウロス牛乳]もまたそのひとつだとすれば……いろいろと調べることが増えそうだなぁ……。

「さて、忘れないうちにまずはこちらをお渡しさせて頂きます」
「あ、ジェルビンさんからの手紙ですね。ありがとうございます」
「そちらを持って、ガザという方を訪ねて頂ければ、力になって頂けるだろうとのことです。ただ、そのガザさんという方については詳しく教えて頂けなかったもので……」
「いえ、そちらに関しては僕の方で探してみます。この街にも、もう知り合いがひとり出来ましたので」

 「それは良かった」とオリオンさんは微笑んでくれる。
 そんなオリオンさんに頭を下げつつ、僕は渡された手紙をインベントリへとしまい、「それで、どうしてこんなに早くイルビンに来れたんですか?」と、気になっていたことを聞いて見た。

「そちらに関しては、巡り合わせが良かったのが、一番の理由でしょう」
「巡り合わせ、ですか?」
「ええ。ジェルビンさんの方から、ちょうど今日の明け方に出る商隊の方をご紹介頂けまして、そちらに同伴させて頂くことが出来ましたので」
「商隊?」
「ええ、馬車を使った行商の方ですね。アキさん達が茶毛狼ブラウンウォルフを討伐したという話が、イルビンの先まで伝わっているようで、ちょうど前回のイベントのタイミングで、行商を再開し始めたようです。それもあり、魔物に襲われた時の用心棒も兼ねて同伴させて頂き、とても早く移動が出来たというわけです」

 なるほど……。
 そういえば、茶毛狼がいるから行商が来てないって話を、以前トーマ君がしてたっけ?
 なら逆に、茶毛狼が居なくなれば行商も再開されるってことだもんね。

「あれ? というか、この世界に馬っているんですか?」
「ええ、どうやらいるみたいです。行商の方が言うには、イルビンよりも王都方面らしいですが、そちらの方では特に珍しい動物ではないということでしたね」
「……それも驚きですけど、むしろ魔物じゃない動物っているんですね」
「言われてみればそうですね。そもそも魔物とは何なのでしょうか……。玉兎ボーリングラビットのように、肉を焼いて食べることも可能ですが……」

 僕とオリオンさんは二人して“うーん”と、眉間に皺を寄せて考えてはみるものの、その明確な線引きが全く分からない。
 魔物って言うくらいだから、魔力とかそういったものが関係してるんだろうけど、魔力ってそもそもなんなのかって考えると……それもよく分からないし。

「まあ、これについては今は保留ということにしておきましょう」
「そ、そうですね! えーっと……そういえばオリオンさんって、よくインベントリからお菓子とか取り出しますけど、腐ったりとかはしないんですか?」
「腐るですか? そうですね……極力、当日に作ったものは出してしまうようにしていたり、日持ちの良い物を選んでいるので、腐ったりというのはありませんね」
「なるほど……。ちなみに、食料に入れる事が出来る防腐剤って、この世界にあったりします?」

 僕の問いかけにオリオンさんは少し首を傾げつつ、「防腐剤はまだ見た覚えがないですね」と、教えてくれる。
 その返答は予想していたことだけれど、やっぱりそういったものはまだ無いかー……。

「しかし、防腐剤ではないですが、“腐るのを遅らせるもの”であれば、あるかと思います。現実世界であれば、ワサビのようなものが腐るのを遅らせたりしますから」
「そうなんですか?」
「ええ。ワサビの他にはビタミンCやしょっぱいものが分かりやすいですね。梅や塩などが代表的でしょうか」
「なるほど……」

 確かに梅干しや塩麹は賞味期限も長いって聞くね。
 んー……だとすれば、その辺りの考え方を応用して、即効性の腐る速度を遅くするってことは可能なんだろうか……?
 例えば、梅ジュースみたいな味にした即効性とか作れないかな?

「いや、まず味付きの即効性って作れるんだろうか……」
「ふふ。どうやらなにか思い付いたご様子ですね。ですがアキさん。実験よりも先に、まず工房を作ることが優先ではないでしょうか?」
「あっ! そうでした! あはは……すいません。わざわざ手紙を持ってきて貰ったのに」
「いえいえ、構いませんよ。……さて、私はそろそろお暇させて頂きます。アキさんは土地探しの方、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」

 「では」と会釈して、オリオンさんはお店から出て行く。
 そんな彼を見送り、僕はとある人に念話を飛ばしてから、席を立つのだった。
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