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第3章

第315話 メリットがあるほどに、デメリットも大きくなる

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「あの、アキ様」
「ん? どうかした?」
「その<選定者の魔眼>ですが、どういったスキルなのでしょうか? 使われているところを見たのも、一度だけで……」
「あー、なんて言えばいいのかな。目を使うスキルを合体させたスキルって感じかな?」
「目を使うスキルを合体、ですか?」
「うん。例えば<採取>は、採取する際に成功しやすいよう、サポートが入るスキルなんだけど、言い換えれば“素材のどこを取ればいいか教えてくれる”ってスキルなんだよね。茎を手折ったり、葉をむしったり、そういう行動がしやすいように、その素材の“弱点みたいなところ”を教えてくれるってこと」

 素材を傷めないよう、簡単に採るためのサポートって言うのかな?
 世界樹との戦いで、斧を置くだけで切れたのはこの力のおかげだと思う。
 伸びてくる枝の“最も弱い部分”を教えてくれていたってこと。

「なるほど……でも、それだと<鑑定>スキルはどんな効果が出るのでしょう?」
「んー……<鑑定>は“どういったものか見極める”スキルなんじゃないかな? 例えば、石の中にも宝石って呼ばれる石や、鉱石って呼ばれる石があるでしょ? そういった“定められているものかどうかを見極める”みたいな感じじゃないのかな?」
「見極める、ですか?」
「例えば、今回調べてる[ネオタウロス牛乳]もさ、大きなくくりでは牛乳だし、もっと言えば飲み物とかそういった分類になっていくでしょ? それを、“これは[ネオタウロス牛乳]です”って見極めるっていうこと。ただ、スキルレベルが低くてもその辺りは分かっちゃうから、レベルが上がるとどうなるのかは分からないんだけどね」

 昔からあるようなゲームのレベルアップと同じように考えるなら、スキルレベルがあがれば、分からなかったものも分かるようになるとか、そういった感じになる気はするんだけど……。
 しかしVRってことになると、本人の知識とかそういったものも関係してくるから、<鑑定>スキルのレベルだけで鑑定可能かどうかが決まるっていうのは、また違ってくるんじゃないだろうか?
 そうなってくると……<鑑定>ってなんなんだろう……。

「っと、思考が逸れてる気がする。その辺は一旦置いておいて……。今は[ネオタウロス牛乳]を調べてみないと」
「はい。もうすぐオリオン様も来られますので」
「そうだね。ちょっと急ごっか」

 実体化したシルフに[ネオタウロス牛乳]を渡して、僕の目の前に、持ち上げてもらう。
 それをしっかりと目にいれながら、僕は思考を止めて、右目を手で押さえ、左目へ力を入れた。
 キンッと脳内で音が響き、視界から急速に色と動きが失われていく。
 まるで彫刻の世界……そんな風に思いつつも、僕は灰色になったシルフが持つ[ネオタウロス牛乳]へと視線を固定し、さらに集中を重ねた。

 直後――

「ッグぁ――!?」
「アキ様!?」

 眼球が抉られたかと思うほどに、左目に熱が生まれた。
 その痛みに呻き声をあげ天を仰いだ僕は、すぐさま<選定者の魔眼>を切り、その場に膝を付く。
 ……そうだ、忘れてた。
 世界樹戦あのときも、左目だけが燃えるように熱かったんだった……。

「だ、大丈夫ですか?」
「あー、うん……。スキルは切ったから、もう大丈夫」
「発動失敗、でしょうか?」
「いや、発動はしてたんだけどね。スキルの反動っていうのかな。忘れてたんだけど、以前使ったときも熱かったんだよね。たぶんあの時は無我夢中だったから、無視できたんだと思う」

 座ったまま笑う僕に、シルフは少し辛そうな顔を見せながらも、風を起こし優しく撫でててくれる。
 そんな彼女に「ごめんね、心配かけて」と謝ってから、僕は<選定者の魔眼>について考えることにした。

 一番の問題は、この反動がどうして起きるのか、ということだろう。
 たしかにスキルの効果としては凄まじいものがあるし、それに見合う副作用として考えれば、あれだけの痛みと熱が起きてもおかしくはないのかもしれない。
 現実のお薬に置き換えて言えば、効果が高いものほど、副作用は強く出るってことと同じこと。
 しかし、それと上手く付き合っていく方法として、普段の体調管理やお薬の飲み合わせ、食べ物による副作用の低減なんかを取り入れている。

 風邪なんかの軽い病気にかかった時、初期状態では漢方薬なんかを使って、免疫を向上させる方法をとることも多い。
 これは、漢方薬と西洋薬新薬の作られ方や治し方の違いから、そういう風になってるらしいんだけど、すごく簡単に言えば、漢方薬は肉体に対して効果があって、新薬はウィルスや病気に対して効果がでるって感じ。
 だからこそ、病気やウィルスの種類が明確じゃない初期段階の場合は、漢方薬で抗体をサポートするんだ。

 考えが逸れたけど、<選定者の魔眼>の効果が高いから、反動が強く出るっていうのは納得ができるってこと。
 けど、お薬の飲み方や使い方みたいな感じで、それに対しての対処方法はあるはず。

「んー、となると……やっぱり問題は一点に集中しちゃってることかもしれないなぁ……」
「なにか思い付かれましたか?」
「うん。効果があるかはわからないけど、僕の持ってる<選定者の魔眼>を完全状態にするっていうのが一番かも」
「完全状態、ですか?」

 つまり、今の<選定者の魔眼>が新薬だとするなら、ウィルス左目に集中して効果を出すから、その部分への副作用が強く出る。
 ならそれを漢方薬にすれば、肉体全体目全体に対して効果を出すから、副作用も弱くなる。
 効果が強いものだから副作用は避けられないだろうし、軽くする方法を考えるべきだもんね。

「というわけで、<選定者の魔眼>で足りないスキルを習得するかな! たしかあと、<千里眼>と<魔力制御>の2つが足りなかったはず。ただ、<魔力制御>はシルフとの称号<風の加護>から<魔眼>スキルを制限解除で代替してたから……」
「え、えっと……ひとまず<千里眼>ですか?」
「……うん、そうだね。それに<千里眼>なら持ってる人を知ってるからね!」
「はい!」

 よーし、念話で話を聞くぞー! と思ったところで、脳内にノイズが走る。
 そのノイズにシステムの時計を見れば、前回の念話からゲーム内ではすでに20分が経過していた。
 ……つまり、オリオンさんが到着したってことだ。

『もしもし、アキさん。今西門の方へと到着しましたが……』
「あ、はい。降ります!」
『では、西門前でお待ちしております』
「了解です!」

 サッと念話を終わらせると、僕は立ち上がりシルフに頷いてみせる。
 それで何を伝えたかったのか分かってくれたらしいシルフが、しっかりと頷いたのを確認してから、僕は櫓とは違う方向……門の前の方へと向かって走り、おもむろに門から飛び降りた。

 着地の直前にシルフが風を起こし、僕は特に苦もなく門の前……そこにいたオリオンさんの前へと着地する。
 突然空から降ってきた僕に、オリオンさんはおろか、周囲にいた人たちも驚き、僕の方を見て固まっていた。

「――あ、あはは……」
「門の上にいらっしゃるとは聞いておりましたが……まさか降ってくるとは。少々驚いてしまいました」
「すみません。待たせちゃうのは悪いかなと思いまして」
「ふふ。無意識に突飛な行動をするのもアキさんらしいところでしょう。――ではひとまず、話ができる場所まで移動しましょうか」
「話ができる場所……ですか? 僕も街のことはあまり知らないんですが」

 少し困りつつ返事をした僕に、オリオンさんは優しく微笑みつつ「その辺りはお任せください」と言い切り、ゆっくりと道を進んでいく。
 そんな彼に僕は驚きつつも、任せてみようと後を追うのだった。
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