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第3章

第307話 光あれば闇もまた

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「オススメ? おすすめは……」
「オススメはお団子とおしることかだよー!」

 周囲のざわめきも気にしないトーマ君に、半ばのまれつつ、おすすめを教えようとした僕をはねのけて、花奈さんが割り込んできた。
 呆気に取られた僕やトーマ君に笑いつつ、花奈さんは「実奈の方をお願い」と、神妙な顔で頷く。
 その言葉に実奈さんを見れば、彼女は少し疲れたような顔で受付に立っていた。

「実奈さん、大丈夫?」
「ん。大丈夫」
「でも、少し顔色が悪い気がするよ? ちょっとだけでも裏で休んできたら?」

 心配する僕に実奈さんは「大丈夫。それに、受付も必要」と首を振った。
 僕はそんな彼女に少し呆れて、深くため息を吐くと、少し大きな声で「田渕君、受付をお願い!」と田渕君を呼び、実奈さんの手を掴んで調理場に連れ込んだ。

「アキ」
「いいから休んで。さっきの騒ぎでお客さんもまばらだし、受付は田渕君でもできる」
「……でも」
「いいから休んで」

 頑なに表へ出ようとする実奈さんを、僕は肩を押すようにして椅子に座らせる。
 それでも、表が気になっているのか落ち着かない彼女に、僕は「仕方ないな」と、隣に腰を下ろした。

「実奈さん、腕を見せてもらえるかな?」
「……大丈夫」
「いいから、見せて」
「……」

 渋々といった感じに彼女は僕の前に腕を出してくる。
 僕は「ちょっとごめんね」と、断りを入れてから袖をめくり、少しだけ赤くなっている肌を見つけた。

「赤くなってる……」
「痛くはないから」
「いやいや、今痛くないだけかもしれないし。ちょっと冷やそうか」
「むぅ……」

 僕は腕を優しく掴んだまま園崎さんへと声をかけ、袋にいれた氷水を用意してもらう。
 そしてそれを実奈さんの腕へと乗せて、患部を冷やした。
 しかし、チラチラとこっちを見てくる視線が気になる……。

「アキ、その、少し恥ずかしい」
「仕方ないじゃん。冷やさないといけないんだし」
「そうだよ、槍剣さん! 女の子なんだから、もっと体を大事にしないと」
「真意はどうか知らないけど、園崎さんもああ言ってるし」

 僕らの方をチラチラ見ていた園崎さんが、ちゃんと援護射撃してくれる。
 しかし、僕を見る視線も、なんだかイヤな雰囲気がある……。
 うーん……?

「みんな、大丈夫だった!?」

 園崎さんの視線に首を捻っていたとき、そんな声を上げながら、委員長が裏へとやってきた。
 そして、僕らの方を見て「天使……」と、呟いて固まった。
 ……そういうことか!?

「とりあえず園崎さん。委員長を起こしてもらえる?」
「ああ」
「……はっ! あまりの尊さに昇天するところでした」
「言いたいことはわかるけど、頭大丈夫?」

 委員長の奇行に僕が心のなかで思ったことを、園崎さんが口から吐き出す。
 その言葉に、「浄化されたので大丈夫です」と答えた委員長は、絶対大丈夫じゃないと思う。

「アキ。もう大丈夫」
「んー……一応後で保健室行って見てもらおうね」
「ん」

 実奈さんから手を離し、僕は氷水の入った袋を園崎さんへと返す。
 その後、委員長に状況の説明をしてから、実奈さんと一緒に表でのんびりと駄弁っていたトーマ君達の元へと向かった。

 トーマ君達のところには、いつのまにか凛さんと翼さんが合流していて、全員で5人と大所帯になっていた。
 しかし、トーマ君とアルさんのイケメンコンビに、黙っていれば日本人形のような可愛らしさのある凛さんや、中性的な雰囲気をもった翼さん……さらにそこに、ミニスカートの和風メイド服を着た花奈さんと、ロングスカートの和風メイド服の実奈さんが加わって、なんていうか視界の中がレベル高い。
 でもそんな中、ウォンさんを見るととても癒される気がする……彼からの視線は痛いけど。

「何を考えてるのかは訊かないが、俺からすればお前も含めて俺のそばに立つな! って気分だからな?」
「なんや~、王里。つれへんなぁ~」
「トーマ、そうあまり意地の悪いことは……」
「カカッ、お主はリアルでもつまらんやつじゃな」

 僕に向かって心境を言い放ったウォンさんが、トーマ君にいじられ、そんなトーマ君をアルさんがたしなめ、アルさんを凛さんが笑う。
 うーん、この……いつも通りだなぁって感じ。
 違うと言えば、これがゲームじゃなく現実ってことくらいだろう。

「そういえば、どうしてアルさんとトーマ君が、うちの学園祭に? 聞いてる限りだと、ウォンさんとトーマ君は知り合いっぽい感じだけど……」
「せやで。王里が俺を誘って、俺がアルを呼んだんや。その方が面白いやろってな」
「冬馬が急にアルを呼びやがったからな。俺も驚いた」

 そう言う2人にアルさんの方を見れば、アルさんは苦笑しつつ頷く。
 そして「トーマからはゲーム内で誘いを受けたんだ」とアルさんは教えてくれた。
 なんでもアルさんみたいに昔からネットゲームをやっていた人は、ネットの友人と会うのもそんなに警戒してないとかなんとか……。
 まぁ、なにか起きてもアルさんなら大丈夫そうだけど。

「ま、お前らが働いてるとこも見れたし、俺らはそろそろ動くか」
「せやな。なんや面白そうな出しもんもあるみたいやし、見に行くか」
「ん、了解。みんな来てくれて、ありがとう」
「いや、こちらこそ。料理美味しかったと伝えておいてくれ」

 アルさんの言葉を締めに、トーマ君達が椅子から立ち上がり外へと出ていく。
 美男美女の集団なだけに、すれ違う人たちがみんな足を止めてるのは少し面白かった。

「なんだか慌ただしかったね」
「ん。たぶん、様子を見に来てくれただけ」
「冬馬さんの考えることは、私達じゃわかんないよー……」

 憔悴したみたいに、一気に脱力した花奈さんを、実奈さんは「姉さん、ありがとう」と言いながら頭を撫でる。
 そんな2人に微笑みつつも、僕もトーマ君の真意が理解できていなかった。
 トーマ君はどうしてアルさんを誘って来たんだろう……?

「まぁ、わかんないものを考えても仕方ないし、仕事に戻ろうか」
「ん。分かった」
「はーい! 頑張っちゃうぞー!」

 がばっと起き上がった花奈さんに驚きつつ、僕らはそれぞれの仕事に戻る。
 そんなこんなで、午前中は慌ただしく過ぎていったのだった。

◇◇◇

 そして僕は今、実奈さんと並んでのんびりと校内を見て回っていた。
 お願いして着替えさせて貰ったこともあり、僕はホッと胸をなで下ろしつつ、心なしかワクワクしてるように見える実奈さんをしっかりとエスコートしていた。
 ……たぶん、出来てるはず。

「アキ、ん」
「ああ、ありがとう」
「違う」

 「え?」と首を傾げた僕に、実奈さんは「はい」と、爪楊枝にたこ焼きを突き刺して出してくる。
 ……これはいわゆるアレなのだろうか。
 恥ずかしい以前に、絶対熱いと思うんだけど……じーっと見てくる実奈さんには逆らえず、僕は意を決して、差し出されたたこ焼きを口に含んだ。

「……ッ、あっつ、でも美味しいね」
「ん。良かった」

 そう言って、自分の口にもたこ焼きを運んだ実奈さんも熱さに驚きつつ「あ……、美味しい」と声を漏らしていた。

「でも腕がなんともなくてよかったね」
「ん」
「ゲームだと僕が守られてるのに、現実じゃやっぱり実奈さんは女の子なんだなって、不思議な感じではあるけど」

 僕の言葉に、実奈さんは首を傾げたあと、ハッキリとした声で「アキはいつも助けてくれる」と、僕の方を見る。
 そんな彼女に驚きつつ、「助けてたっけ?」と、今度は僕が首を傾げた。

「ん。PKも世界樹も、最後はアキが終わらせてくれた」
「あー、あれは助けたっていうか、成り行きで僕がやらざるを得なくなったってだけで……」
「それでも」

 目を逸らすことなく言い切る彼女に、僕はちょっと困りつつ指で頬を掻く。
 そして、話を逸らすために「たこ焼き、冷えちゃうから食べよっか?」と、笑いかけるのだった。

◆◆◆

 一方その頃……全然ログインをしてこなくなったアキを想い、シルフは一人中空で彷徨っていた。
 その表情はどこか暗く、何かに悩んでいるような、苦しんでいるような……なんにせよ、あまり良い状況ではない。
 そして彼女は一言、「……お父、様?」と呟いてうっすらと消えていった。
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