上 下
305 / 345
第3章

第306話 まるで夢みたいな現実

しおりを挟む
「あ、アルさん!?」

 トーマ君の後ろから、まるで人垣が割れるように歩いてきた男性。
 それは、肌の色が焼けていないだけで、それ以外はどこからどうみても、僕の初めてのフレンド――アルさんだった。

「や、やぁアキさん。……その、よく似合っていて、可愛いと思うぞ」
「……それ、言われて嬉しいと思います?」
「あ、いや、すまない」
「まぁ、しゃーないわなぁ、アキ。お前どっからどうみてもなぁ……?」

 困ったような顔を見せるアルさんとは逆に、トーマ君はニヤニヤと意地悪げな顔をした。
 そんな彼に「どこからどうみても男なんで!」と怒りつつ、帰ってきた花奈さんから看板を返してもらう。
 すると、トーマ君の隣にいたウォンさんが、すこし困ったような顔で「アキ」と、声をかけてきた。

「ちょっと聞きたいんだが、凛と翼を見なかったか?」
「ん? あの2人なら、さっき校門の前で会ったよ? 待ち合わせしてるからーって」
「覚えてんなら、待ち合わせ場所にいろよ……」
「あ、あはは……」

 どうやらあの後、あの2人は待ち合わせ場所には行かず、自由に動き回ってるみたいだ。
 まだ翼さんが一緒だし、凛さんだけじゃないから安心……かなぁ?

「ま、とりあえず探してみる。合流したら店を覗かせてもらうな」
「あ、はーい。僕ももう少ししたら戻ろうと思うし、タイミングがあえばまた後で」

 僕の言葉を皮切りに、それぞれ背中を向けて歩き去る。
 しかし遠目から見ても目立つなぁ……。
 アルさんは身長の高いイケメンだし、トーマ君は金髪が似合ってるし、ウォンさんは……普通かな?
 どちらかといえば、ウォンさんの存在が2人のオーラにかき消されてるような……いやいや、そんなことを思っちゃダメだ!
 がんばって、ウォンさん!

「アキちゃん? 急に頭振ってどうしたの?」
「いや、ちょっと酷いことを考えてしまって、頭から削除してただけだよ」
「……? まぁ、いいやー! 次いこー次ー!」

 そう言って今度は校舎の中へと入っていく。
 文化祭が始まって結構経つからか、廊下にもかなりの人が行き来しており、いつもの学校風景とは全然違う、なんだか不思議な感じがした。

 校舎の中では、模擬店の他にも展示をしていたり、クラス劇なんかをやってるところもあるみたいで、宣伝しながら廊下を歩いているだけでも、気になるお店がちらほらと。
 でもそっちに気を取られてると、花奈さんを見失うので……。

「アキちゃーん! こっちこっちー!」
「はいはい。あんまり先々行かないでよー?」
「気を付ける!」

 って、言ったそばから何かを見つけたのか、バビュンと走り去ってしまう。
 まぁ、いいや……彼女のことはとりあえず置いておこう……。

 ――ひとまず、校舎内を一周したら教室に戻るとしよう。
 そう考えて、また僕は機械のように宣伝文句を言いながら歩き出したのだった。

◇◇◇

 そんなこんなと、特に問題もなく宣伝を終えた僕は今、教室の中で接客に大忙しだった。
 というか、一緒にフロアを担当してくれているメンバーが……花奈さんと実奈さんなわけで……。
 色んな意味で、僕が走り回ってる状況だったりする。

「およ? この料理どこだっけー!?」
「それは、あっちの4番テーブル! って、実奈さんお客さん呼んでるよ!?」
「……ん」
「こらこら、そう言いながら裏に逃げようとしないでね?」

 どうも僕が外で呼び込みをやってる間に、色々と失敗したみたいで、接客に苦手意識が出てしまったらしい。
 ……まぁ、仕方ないか。

「じゃあ、僕が行ってくるから、実奈さんは受付とお会計の方お願いしてもいいかな?」
「ん。大丈夫」
「じゃあ、よろしくね」

 僕は彼女が受付の子と入れ替わるのを見つつ、呼ばれていたテーブルへと走る。
 注文を聞いたあと、それを調理の方に伝えるため、カーテンで仕切られてる一角へと向かい……調理チームの長、園崎さんに捕まった。

「宮古くーん! 助けてえぇ!」
「うぇ!? 何があったんですか?」
「材料が、足りない……!」
「家庭科室の冷蔵庫の分が無くなったんですか!?」

 あまりに深刻そうな顔をしてそう言った園崎さんに、僕も驚きつつ最悪のパターンで聞いてみる。
 しかし、さすがにそこまでではなかったみたいで、園崎さんいわく「いや、家庭科室にはあるんだけど、こっちにない」ということらしい。

「それなら、誰かに取りに行ってもらえば良いじゃないですか」
「いやー、そうなんだけど、今ほら大盛況じゃん? 誰も抜けられないんだ」
「なるほど。それで助けて、と……」

 しかし、助けてと言われても、フロアはフロアで大変なんだよね……。
 でも、調理チーム以外の人じゃ材料自体が分かんないかも知れないし、行くなら調理チーム……。
 戦力的には――

「実奈さんに行ってもらおうか」
「ああ、そうだね。槍剣さんなら材料も分かるだろうし」
「うん。僕もそう思って」
「じゃあ、頼んでおいて!」

 その言葉に頷いて、“よし、話は終わった!”と思っていた僕の耳元に、園崎さんは口を近づけて、「――でも、いいの?」と囁く。
 その言葉の意味が分からず、首を傾げた僕に、彼女は大きく溜息を吐いてから、「いやー、今日の双子は可愛いよねぇ」と少し大きな声で言った。
 すると、すぐ傍で調理していた子が「わかりますー!」と反応し、その子以外の子もみんな同意するような言葉を……。
 そんな中、列整理なんかの仕事をしていた田淵君が現れ、口を開いた。

「俺、実奈さんに、自由時間一緒に見て回らないかって誘ったんだけどさ……。断られたんだよな……」
「そ、そっか。どんまい……」
「だからよ、宮古……! どうせ相手がお前なのは分かってるから、頼む、俺たちには見えないところで、いちゃついてくれ!」
「え、えぇぇ……」

 ガシッと肩を掴まれ、血走ったような目で僕を貫く田淵君。
 そんな彼の姿が怖くて、僕は困惑しつつも「わ、分かったよ」と答えることしか出来なかった。

「って、感じなんだけど、宮古君。ホントに槍剣さんに行ってもらう?」
「……僕が行きます」
「うんうん。行ってらっしゃい」

 ようやく静かになった調理場を後にした僕は、取り急ぎフロアの全員に事情を説明して教室を飛び出る。
 そして、人混みを縫うように駆け抜け、材料を取ってきたのだった。

◇◇◇

 そうして走って帰ってきた僕を待っていたのは、受付にいる実奈さんに詰め寄る男性のグループだった。

「ねえ、俺らと遊びに行こうよ。こんな仕事なんて抜け出してさ」
「……」
「あっれ、なんで反応ないのかな? 無視? 無視なん?」
「……」

 周りのお客さんは遠巻きに見るだけで、誰かが割って入るような気配もない。
 とりあえず僕は反対の入口から教室に入り、持ってきた材料を園崎さんに手渡す。
 チラッと横目で確認すれば、花奈さんが調理場の奥で羽交い締めにされていた。

 ――絶対、飛びだそうとして止められたパターンだ、これ。

 他のクラスメイトも困ったみたいにザワついてるし、田淵君は勇気が出ないみたいな感じだ。
 僕がそんなことを確認したりしている間に、どうやら実奈さんの方はエスカレートしてたみたいで、男性が実奈さんの腕を取っているのが見えて……無性に腹が立った。

 ――だから、気付いた時には彼の顔に水をぶちまけていた。

「……は?」
「……あれ?」

 男性の驚いたような声で、僕も自分が何をしたのかを理解して、声を漏らした。

「このアマ、なにしやがんだ!?」
「あ、その……とりあえず彼女から手を離してもらっていいですか?」
「ハァ!? なに調子に乗ってくれてんの?」
「いや、別に調子には乗ってないですけど……。実奈さん、嫌がってますし」

 僕の言葉に苛立ちが募ったのか、男性は実奈さんの腕を掴んでいた手を離し、握ったそれを振り上げる。
 “……あー、殴られるんだろうなぁ”と、なぜか他人事のように思っていた僕に向けて、拳が振り下ろされ――

「ってのは、折角の祭りやのに、ちょいアホくさいやん?」

 そんな声が聞こえて、僕の目の前で拳が止められた。
 この間の世界樹戦といい、この人達はなんでこうタイミング良く来るんだろう……。

「そう思うなら抑えるのを手伝ってくれないか?」
「面倒やわ。それに、お前ひとりで十分やろ」
「まあ、そうだが……。っと、アキさん、大丈夫だったか?」
「ええ、ありがとうございます。アルさん、それにトーマ君も」
「気にすんなや。面白おもろいもんも見れたしな」

 そう言いながら、騒ぎを聞きつけた先生に男性達を引き渡し、トーマ君達は僕らの教室に入ってくる。
 そして、ざわつきもあって空いていた椅子に座ると、「とりあえず、オススメはなんなんや?」と笑いかけてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。 *旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...