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第3章

第300話 不思議はいつだって過去にある。

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 文化祭の準備も少しずつ進み、担当決めの集会から早くも3日が経過していた。
 今日も放課後を使ってメニューの試作をしていた僕は、実奈さんを近くの駅まで送ってから帰路についた。
 ちなみに味見という名目で、ほぼ毎日デザートを食べにくる花奈さんも一緒に送っていたりはするが。

 そんなこんなで、このところ僕が家に帰り着くのは夜の8時前が当たり前になっていた。
 肉体的にも精神的にもある程度の疲労があって、ゲームをせずにゴロゴロしてしまうのは……仕方ない、よね?
 だって、VRって現実では寝てるけど、精神的には……。

「あ、そうだ。そういえば……」

 今日もゴロゴロしていた僕は、おもむろに携帯端末で<Life Game>の公式ページを開いた。
 思い出したのだ……確認しないといけないことを。

「たしか、公式からアップされてるはず……っと、あったあった」

 開いてすぐのページに、最新動画として大きく取り上げられているものがあった。
 僕は迷うことなくソレを開き……直後に閉じた。

 だって、いきなり自分が登場したんだから。

「出てるとは聞いてたけど、聞いてたけど……!」

 まさか一番最初からとは想像していなかった。
 しかもシーンはアレ。
 そう……大猪の突進を避けようとしたところだった。

「ぜ、全世界に僕のドジが……」

 もはや嘆く以外のことができない……それでもなんとか僕は気を取り直し、もう一度動画を再生した。
 なお、今回は最初、目を閉じておいた。
 これで見ることはない。

 そんなこんなで動画を見始めた僕だったが、色々なところに自分が登場し、何度も悶えることとなった。
 それでもやめることなく見ていたのは、面白かったのだ……動画が。
 もっと言えば、僕のいない時のみんなの映像が。

「あ、このときって僕が捕まってたときかな?」

 動画の中では、数人のプレイヤーと共に拠点を出ていく僕の背中を、2人の男性が見ていた。
 トーマ君とウォンさんだ。
 というか、あのときって2人とも屋根の上にいたんだね……気づかなかった。

 そして、拠点の準備が急ピッチ高速再生で行われ、PKが拠点を襲った日。
 つまり、僕が拠点に帰ってきた日になった。

「うわ、リュンさん怖っ……」

 ウォンさんと僕の交渉シーンが終わったあと、画面にはリュンさんvsPKのみなさんが映されていた。
 ただし、PKの人達はみんな微妙にモザイクが掛かってたけど。
 しかし戦い、というよりも、もはや一方的な虐殺では……?
 強くて格好いいというよりも、PKの人達が大丈夫かどうが心配になってくるほどに、リュンさんは圧倒的だった。
 だって、飛んでくる矢を掴んで投げ返すし、身の丈ほどある大剣を斧で吹き飛ばしちゃうし……ホント、コメディ映画みたいに人が飛んでいくのはちょっともう笑うしかない。

 絶対にリュンさんは怒らせない方が良い、なんてそんなことを強く強く思った。

「お、これは知らない場所だ」

 次に映されたのは僕の知らない場所での探索だった。
 映ってる人の数は大体30人前後。
 アルさん達と行った土の神殿攻略よりも少し少ない数だ。

「というか、土の神殿に行ったメンバーばっかり?」

 画面に映る人の顔は大体が見知った顔。
 強いて言えば、魔法使いの人は知らない人ばっかりって感じだ。

 あっ、たぶんこれ火か風の神殿攻略の映像だ。
 順番的には火の神殿かな?
 ちょうど僕が拠点に向かって走ってる時だったはずだ。

「つまり、この人達が火の神殿を攻略したってことなんだろうなぁ……」

 と思ってボス戦を見ていたら、見覚えのある人が突然戦闘に乱入してきた。
 あまりにも普通に、まるで最初からそこにいたように感じるほどに自然に……ウォンさんはボスの頭に鉄の棒を振り下ろしていた。

 というか、ウォンさんが火の神殿っておかしくない?
 だって、少し前に僕と交渉してたわけで……。
 火の神殿とPKの拠点はそれなりに離れてたはずだし、途中妨害があったとは言え、本来の拠点に向かう僕の方が距離は短かったはず。

「何か特殊な移動方法を持ってたのかも? それが何かは分からないけど……」

 それこそ忍者さんの凧みたいな。

 そんなこんな考えていた僕を置いて、画面の中では火の神殿のボスだった、火を纏った鶏が倒されていた。
 そういえば注意して見てなかったけど、水の神殿ではアルさん達が水蛇を倒してたし、火の神殿では火鶏……。
 あと、風の神殿では風の獅子だったらしいから、やっぱり四神になぞらえてるっぽい感じだ。

 蛇は竜と似てるし、鶏は鳥だし、獅子は虎に似てる。
 まぁ、土の神殿のヤドカリはちょっと違う気がするけど。

「お、そんなこと考えてたら風の神殿攻略だ。アルさん達が行ったのか」

 画面に映ってる人数は、さっきと比べて格段に少ない。
 というか、アルさんのパーティーにスミスさんを加えた5人しかいなかった。

「このメンバーで神殿を攻略したって考えると……確かにアルさんたちのパーティーが戦闘トップ辺りにいてもおかしくないかも……」

 水の神殿もアルさんのパーティーだし。
 というか、アルさんがパーティーの中でもポイント高かったのって、敵を倒した数がずば抜けて多いからかも?
 今も画面の中で突っ込んで行ってるし。

「……でも、さっきより人数少ないのに、攻略速度が変わらないっていうのはちょっとおかしい気がする」

 まあ見てると、意思決定が早いっていうのもあるのかもしれない。
 人数が多いと、確認や通達に時間が掛かってる感じだったし、パーティーひとつって言うのと、スミスさん以外は普段から組んでるメンバーっていうのもあって、意思疎通がスムーズなんだろう。
 だから止まらずに進んでいける感じだ。

「で、ボスは獅子、か」

 僕と一緒に倒した茶毛狼の時にも思ったけど、アルさんのパーティーは超攻撃型って感じのパーティーだ。
 アルさんとジンさんっていう前衛に、魔法使いのリアさん。
 サポートをティキさんに任せて、タンクであるアルさんすら攻撃に加わるっていう戦闘スタイル。
 この時はスミスさんも加わってるけど、やっぱりスミスさんは中々攻めに回れてない感じだった。

 そもそも4人のチームワークが凄いんだ。
 アルさんが突っ込んで、敵の視線を奪う。
 そして、敵の攻撃を誘ってからジンさんが隙を突いて攻撃。
 ジンさんが引くと同時にアルさんが間に入り、また視線を奪う。

 そうすると敵はジンさんの動きも気にしてしまうから、隙が出来てアルさんに攻撃されるし、2人が危なくなったタイミングでリアさんが魔法を発動したり、ティキさんの防御が肩代わりしたり……。

「これは割り込めないなぁ……」

 正直、どう動いてもチームプレイの邪魔になりかねないのだ。
 ジンさんと同時に動いても、アルさんが守る対象が2人になっちゃうし、アルさんの代わりに攻撃も難しい。
 リアさんの魔法のタイミングに合わせて仕掛けようにも、リアさんの攻撃は基本的に死角から入る。

 つまり、敵どころか、味方も手を出せない完成度なのだ。
 動画っていう離れた所からみる形式だから……僕でもそれがわかった。

「ん? 動きが変わった?」

 攻めてはいたけれど、ダメージを与えられていないと感じたのか……アルさんが指示を出して隊列を変更した。
 そして、一瞬の刹那――アルさん目がけて振り下ろされた前片脚。
 それを受け止めるように塔がアルさんの真横から生える。
 しかし脚の勢いは止まらず、アルさんが大剣を盾にしてそれを受け止めた……直後!

「お、おおっ!」

 ジンさんとスミスさんの一撃がアルさんを潰さんとする脚へ下からカチ上げられる。
 その一瞬を待っていたのか、アルさんは瞬時に腕を引き、大剣の切っ先を肉球へと突き入れた!

「す、すごい……」

 時間にして数秒の攻防で敵は認識を改めたのか、大きく距離を取り、身体の周りに嵐を巻き起こした。
 その姿に再度気を引き締めたように、アルさんは大剣を構え直し、ジンさんやスミスさんを退がらせる。

 それから少しの間は正直よくわからなかった。
 風が強すぎて、嵐の中に飛び込んでいったアルさんやジンさんが見えなくなってしまったのだ。

 そこから数分間……きっと本来の戦闘時間的には数十分ほど動きに変化が見られなかった。
 しかし、変化は急に訪れた。
 ――スミスさんの腕がいきなり燃えたのだ。

「うぇ!?」

 ボーッと見ていた僕は思わず吹き出し、変な声を出してしまう。
 それほどに唐突だったのだ。
 そんな僕をよそに動画は進み、スミスさんが突然中へと打ち上げられた。
 もはや想像不可能な突然の展開が続き、何度か見返したけどやはり突然の展開なのは変わりが無かった。

 連続で小爆発を起こし、天井まで高度を上げていくスミスさん。
 そして、それに気付き牙を向ける獅子。
 スミスさんは文字通り天井で爆発を起こし、獅子の口目がけて大槌を振りかぶり――画面を真っ白に染めあげた。

「えええええ……!?」

 正直そのシーンの衝撃が強すぎて、そこから少しの間動画の内容が頭に入ってこず、僕が気を取り直して動画を見た時には、すでに世界樹との戦いが始まっていた。

 どうやらあの時、拠点の方は逃げてきた魔物を相手に奮闘していたみたいだ。
 連続で場面を切り替えながら、戦ってるシーンを映していく。
 合間合間にはレニーさん達調薬チームの調合シーンが入ったりなど、拠点全体での戦いを数分ほど見せてくれた。

 そしてその次に世界樹を足止めしていたチームの映像に切り替わる。
 このチームは遠方から全体を見る感じの動画だった。
 もはやスケールがすごすぎて……なんか人がすごく小さく感じてしまう。
 でも、沢山の人が世界樹を足止めしようと攻撃に防御にと全力を出していて、見ているだけで手に力が入っていた。

 ついに本命と言わんばかりに、ブラックアウトしてから、僕たち世界樹の中へ入るチームが映し出される。
 最初はジンさん達vs大猪、そして次がトーマ君とスミスさんvs大量トレント。
 アルさんvsトレントのオッタさんに、ガロン達vs枝の上のトレント達。
 そして、リュンさん、ハスタさんvsトレントを映してから……僕がメインの映像へと切り替わった。

「正直、足を引っ張ってばっかりだ」

 世界樹の一番奥まで行けたのだって、みんなの協力のおかげで……僕じゃなく、アルさんだったらもっと簡単に辿り着いていたんだろうって思う。
 だからこそ、僕は最後まで諦めなかった……いや、諦められなかったんだ。
 僕よりもすごいみんなが支えてくれたからこそ。

「そういえばこの時ゲットしたスキルって、まだ残ってるんだよね」

 <選定者の魔眼>。
 <喚起>スキルが生み出したスキルだけど……前回使用した<そら魔法>は消えてる。
 何か違いがあるのかも知れないけど、正直よく分かってないんだよね。

「説明も“未来を選び、道を定める、強き心の眼。その道は茨であろうとも、足を止めることは許されない。”っていう、謎の説明だし」

 一度気にすると、どんどん気になってくる。
 <喚起>もちょっとよくわからないスキルだし、この辺も合わせて確認してみた方がいいのかなぁ……。
 
 ――うん、そう思ったら善は急げだ。

 僕はすぐさま携帯端末を操作して、新しく入れた連絡先へと連絡を入れる。
 そして、今週末に早速話を聞きにいく予定をつけたのだった。
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