採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

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第3章

第288話 動く日本人形(なお、性格は……)

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「ああそうだアキさん。ひとつお願いをしてもいいかな?」

 差し出された封筒を鞄にしまった僕に向けて、目の前に座っているお義父さん(仮)がそんなことを訊いてきた。
 なんだろう、このタイミングで聞いてくるって……面倒なことのような気がするんだけど。

「ああ、大丈夫大丈夫。そんな面倒なことじゃないから」
「本当ですか?」
「これ以上嘘を言ったら、君から信用されなくなってしまうだろう? 娘の彼氏から嫌われているなんて、お父さんとしては悲しいことだからね……」
「あ、あの……彼氏ではないんですけど」
「そんな、隠さなくても大丈夫だよ。でも、せめて成人するまでは清い交際をだね……」
「隠してない。隠してないですよ!? ほら、実奈さんもなんとか言って!」
「ん。……なんとか」
「そうじゃない。間違ってないけど、そうじゃない」

 “やりきった”みたいな雰囲気を出されても、まったくやりきってないからね!?
 ……でも普段の実奈さんならこんなボケはしないはずだし。
 つまり、それは、そういうことなんですか?

「って、違う。そこの件はまた今度、そのうち、そのうちハッキリさせるとして……今のところはもういいんで、お願いとやらを聞かせてください」

 話が変な方向に逸れそうな気がした僕は、一端話を本筋に戻す。
 お義父さん(仮)もそれには同意見だったのか「そうですね」と、案外呆気なく話題の転換に乗ってくれた。

「アキさんにお願いしたいことというのは“個人ギルドの設立”です。メンバーは特に問いませんが、できれば精霊を知っている方。もしくは、信頼の置ける方にしていただきたいところです」
「個人ギルドの設立ですか? そういえば、次の大型アップデートで作れるようになるんでしたっけ」
「そう。実奈も姉さんもどこかのギルドには入る予定。できればアキと一緒がいい」
「んー、ならとりあえず2人は確定って感じで考えてればいいかな?」
「誘ってくれるなら」
「それは、まぁ」
「そう」

 相変わらずの無表情だけど、僕の言葉に心なしか嬉しそうに見える。
 ……雰囲気が、だけど。

「設立には何人必要なのかな?」
「最低5人ですね。パーティーよりも大きな人数でチームを組むというイメージのものだから、パーティーの最大人数が最少人数になりますよ」
「となると、あと2人か……。実奈さんは誰か誘いたい人いる?」
「……」
「実奈さん?」

 無反応な彼女の方へ、違和感を感じて顔を向けると、彼女は顔を逸らすように逃げる。
 おや?
 これは、なにか隠してる?
 いや、違うな……もしかして、照れているの……か?
 はは、そんなまさか。

「実奈さん? こっち向いてくれないかな?」
「……」
「おーい。実奈さんやー」
「……」

 これは聞こえないフリをしているな?
 こうなったら、顔を両手で挟み込んで顔を向かせるしか……。
 そう思った矢先、バァン! と轟音が鳴り響き、僕はその音の方へと反射的に首を動かした。
 
 ――扉が吹っ飛んでる。
 まさにそうとしか形容できない現状が、そこでは起きていた。

「あらやだぁ、もう。ドアは蹴るものじゃないって言ってるでしょう?」
「はんっ。儂の前を塞ぎおるのが悪い」
「ほんっとに自己中ねぇ」

 吹き飛んだ扉の向こう側――部屋の外から2人の声が耳に届く。
 あー……なんとなく誰か分かった気がするけど、いやでもこんなところにいるわけがない。
 ゲーム内ならまだしも、ねぇ?

「邪魔するぞ」
「もう、りん。……仕方ないわねぇ」

 ペタペタと、スリッパとは違う少し不思議な音を鳴らしながら、2人の女性……じゃない、女の子と男性が入ってきた。
 黒の短髪に細身ながら170はありそうな身長。
 そんな見た目は確実に男性だって分かるのに、仕草が完全に女性のそれで、なんだか違和感を通り越して中性的に見えてしまう人と、まるで日本人形のように綺麗な黒髪をまっすぐ腰まで下ろしている少女。
 こんなところにいるわけがない……って思いたかった2人が、目の前にいた。

「おや2人とも。先にアキさんにほのめかしてから呼ぼうと思ってたのですが……」
「はっ。よう言いおるわ。のらりくらりと話を変えて、儂らを会わさぬつもりだったくせにのう」
「おや。なんとも信用がないですねぇ……。一応、君たちの保護者ではあるんですが」

 日本人形のような少女の、姿に似合わない言葉に対し、お義父さん(仮)は苦笑しつつ「いやはや、仕方ないですね」と呟いた。

「アキさん、紹介します。ゲームでは既に顔見知りだとは思いますが、現実こちらでは初対面だと思いますので。この口の悪い女の子が凜。そして、こちらの男性がつばさといいます。2人ともこの研究所内で生活している方ですよ」
「ふん、お主がアキか。儂は凜。名字は持っておらぬゆえ、凜で良いぞ」
「アキちゃん。こっちでは初めまして。ミーが翼よぉ。凜と同じく、名字はないわ」

 不機嫌そうに言い放つ少女と、妙に慣れた動きでウィンクしてくる男性に半ば呆れつつも、僕は「リュンさんと、フェンさん……ですよね?」と問いかける。
 すると、彼らはなんら隠すこともなく、「そうじゃ」と頷いてくれた。

「リュンさん……えぇと、こっちでは凜さん? と、翼さんの名字がないっていうのは」
「そのままの意味よ。少し込み入った事情があってねぇ」
「そ、そっか。それで、ここに住んでるっていうのは?」
「まぁ、研究の手伝い、じゃな。ほれ、こやつの研究は脳や精神じゃからな。いわば、研究材料というやつじゃ」

 身も蓋もない例えに、僕は乾いた笑いしか出てこない。
 そんな僕の目の前で、お義父さん(仮)は「人聞きの悪い言い方をしないでくださいよ」と、凜さんに小言をぶつけていた。

「そんなことはどうでもよい。アキよ、ギルドのメンバーじゃが……儂らはどうかのう?」
「え? 凜さんと翼さん?」
「うむ。儂らであれば精霊のことも知っておるしの」

 「そんなこと!?」とショックを受けているお義父さん(仮)を無視した凜さんの発言に、僕の心臓が大きく跳ねる。
 どこでそれを知ったんだろう……?
 僕は話してなかったはずだけど、他に誰かから聞いた?
 研究材料って言ってたし、お義父さん(仮)とかからだろうか?

「前にも別の話で言ったけど、アキちゃんの秘密を知ったのは大蜘蛛の時よ」
「大蜘蛛の時?」
「正確には、その前の蛇と戦ってるところだけどねぇ。あの時、アキちゃんひとりになったじゃない。だから、それまでよりも近くで観察できたってわけ」

 翼さんの言葉に、あの時の状況を思い出してみれば……確かにひとりになってたし、シルフに対して風を起こすお願いをしてた気がする。
 あそこでシルフとまでは聞こえなかったとしても、何かをしたことで風が起きたってことくらいはわかるだろうし……そうなれば、大蜘蛛との戦いでほぼ確信が持てる、か。

「お主はひとたび何かに集中すると、途端に周囲への警戒が疎かになる。集中することが悪ではない。じゃが、過ぎた注視は想定外の行為に対してはただの隙じゃ。まだまだ、ひとりにはできんのう」
「あらやだ、凜ったら。素直に、“心配だから一緒にいたいの”って言えばいいのに」

 僕へ厳しい意見を突きつけてくる凜さんの横で、翼さんがとっても簡単に意訳してくれた。
 でもそれはちょっと簡単すぎるような……ほら、凜さんの顔が真っ赤になってるし、これ絶対怒ってるんじゃ……。

「凜、翼。ギルド作る?」

 2人の勢いに飲まれてか、存在感すら表情と同じく無になっていた実奈さんが、唐突に口を開いた。
 凜さんへの助け船のつもりだったのかもしれないけど……あまりにも唐突過ぎて、一瞬みんな固まってしまったのはご愛敬というやつなのかもしれない。

「えぇ、もちろん。あなたが良いなら、是非参加させて欲しいわぁ」
「そう」

 翼さんの返答に、実奈さんは短く反応を返しつつ、僕の方へと視線を寄こす。
 んー、これはきっと僕が決めろってことなんだろうなぁ。

 僕自身としては、この2人と一緒っていうのに何か嫌なことがあるってわけじゃないんだけど、逆に、なんで2人は僕達のギルドの入ろうとするのか分からない。
 凜さんの言葉を疑ってるんじゃなくて、純粋に“プレイスタイルが違う”から。
 そりゃあ心配してくれるのは嬉しいけどさ。

「僕は良いけど、2人は良いの? 僕はあんまり探索にも行かないし、基本的に調薬ばっかりしてるし……2人の思う“ギルド活動”っていうのからは結構外れてそうなんだけど」
「別によい。お主の言うところの“ギルド活動”とやらが“皆一緒に冒険”のようなものならば、儂とて面倒じゃ。個人が成すべきことを為すため、互いに関係しあうのも、ひとつの形じゃと思うがの」
「え、えーっとつまり……」
「凜はねぇ、“好きに動くから気にしないで。手助けできるところは手助けしよう!”って言ってるの」
「ああ、なるほど」

 分からないわけじゃないけど、微妙に面倒くさい言い回しをする凜さんの言葉を、翼さんが柔らかく訳してくれる。
 そのことに感謝しつつ僕は頷いた。

 以前の約束もあるし、特に拒否する必要もなさそうだし、メンバーも揃う。
 少しばかり(性格が)特殊な人達だけど、悪い人ではないし。
 まぁ、突然斧を投げてきたりとか、味方だと思ってたら敵だったりとか、仲間のはずの人にバカっていわれたりとかするけど、悪い人ではない……はず……。

 そういえば、ここに2人がいるなら、もう1人。
 交渉役って言ってた人――ウォンさんもいたりするんだろうか?
 調査役のフェンさんに、荒事対応役のリュンさん。
 それにウォンさんを含めての3人組――友達ではなく“ビジネスパートナー”という繋がりの3人組だから。

 それにしても、ビジネスパートナーか……。
 確かに、そういった関係なんだろうなって、今なら分かる。
 同じ“研究材料”――もとい、“被検体”として、役割を与えられているという意味で。

「アキさんのギルドは無事設立できそうですね。まずそこが心配でしたが、ただの杞憂でよかった」

 凜さんたちのことを考えたいた僕の耳に、お義父さん(仮)の声が入ってくる。

「そうですね。お願いされた内容については、上手いこといきそうです」
「まあまだ時間はありましたから、今日決まらなくても大丈夫ではあったのですが」
「そうなんですか? というか、そもそもギルド設立が可能になるのって、いつなんですが?」
「来月の下旬ですね。えーっとたしか……」

 お義父さん(仮)は何かを探すように、ポケットに入れていたらしい電子端末を操作する。
 そして、数秒ほどで目的のものを見つけたのか、「ああ、あった」と口を開いた。

「来月の第3土曜ですね」
「第3土曜、ですか」
「文化祭」
「え?」
「その日、学校の文化祭」

 お義父さん(仮)の言葉を反芻していた僕の横で、実奈さんがそう呟いた。
 文化祭……いつのまにそんな話が……。

「昨日、一昨日。SHRショートホームルームで」
「してたっけ?」
「ん。飲食店する」
「そこまで決まってるの!?」

 「ん」と頷く実奈さんに、僕は頭を抱える。
 そんな話……聞いてない、聞いてないよ……。

「それで、何のお店を?」
「そこはまだ。でも、姉さんも一緒」
「……なんで?」
「部活で出す人多い。だから」
「部活で出す……ああ、そういうことか」

 つまり、部活でお店を出す人が多くて、人が少なくなってしまってるから、2クラス合同にして、人数を稼いだってことか。
 まぁ、その方がひとりひとりの負担は減るし、良いと思うけどね。

 そんなこんなで話をしていると、時計の針はすでに七時を超えていた。
 ……ふむ、そろそろ帰らなくては。

「アキ」
「ん?」
「送っていく」
「え? ああ、いいよ。大丈夫」
「そう」
「うん、ありがとうね」

 僕は一言も帰るって言ってなかったのに、僕の行動を予測したのか。
 よく見てるなぁ……。

 そんなことを思いつつ、実奈さんに笑顔を向ければ、ふいっとそっぽを向かれてしまう。
 む、ちょっと拗ねちゃった?

「……やっぱり送ってくれる?」
「ん」

 そうやって一瞬で機嫌を直した実奈さんに駅まで送ってもらい、僕はようやく帰路についたのだった。
 表情がなくてもわかりやすいというか、なんというか……。
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