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第2章 現実と仮想現実

第279話 精霊の秘薬

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 ガロン達に道を開けてもらったことで、僕らはさらに奥へと進むことができた。
 あの4人が大丈夫かどうかは気になるけれど、きっと大丈夫だろう。
 だって、ああいった特殊な場所での戦いは慣れてそうだし。

「アキ、ここが最後じゃ」

 人というよりもビッグトレントが通り抜けるための扉の前で、リュンさんが立ち止まり、そう言った。
 この扉にたどり着くまでに、合計10人いた僕らも気づけば残り4人。
 しかも途中でガロン達4人も参戦してるのに、結果的には僕らだけしか残っていない。
 でも、たどり着けたんだ。

「この扉の向こうにドライアドがいるってことか……」
「今のところ気配はドライアドと思わしき気配ひとつだけじゃが、油断はするでないぞ」

 その言葉にみんなが頷いたことを確認してから、リュンさんは扉を開く。
 ギギギと重たそうな音を立てながら、ゆっくりと扉が開かれ……その正面にある椅子へ、1人の少女が座っていた。

 木と葉の冠……月桂冠げっけいかんっていうんだっけ?
 それを頭につけ、シルフと同じような少しとがった耳を持つ幼い少女。
 きっとあの子がドライアドなんだろう。

「アキ、周りいない」
「アキちゃん、今のうちに薬作っちゃって!」
「儂らは辺りを見ておく。お主はやることをやるが良い」
「うん。よろしくお願いするよ」

 4人ひとかたまりで部屋の中央を陣取り、僕を囲む形で陣形を取る。
 3人に囲まれる形なため、少し緊張はするんだけど……今回作るものは、緊張してたら失敗するかもしれない。
 いつも通り、いつも通りにまずは気を落ち着けて……。

「――やろう」

 まずは乾燥させた黄色の花びらを2枚、それから乾燥してない花も2枚取り出して、1枚ずつ縦切りと横切りにしたものを準備する。
 それから、さらに1つ黄色い花を取り出して、潰して押し出すように花の汁を取り出す。
 取り出した花の汁と樹液を混ぜ、ほどよく混ざってきたところで、同量の水を入れて薄めるっと。
 この薄めた液体を、黄色の溶液と僕は呼んでる。
 アイテム的には、[謎の溶液]なんだけどね。

 正直、こんな面倒な手順が必要って気づくまでに、かなりの花を無駄にしたんだよね……。
 ラミナさんが、インベントリに入れれるかぎりと言わんばかりの量を採ってきてくれてたから助かった。
 まぁ、根絶やしにしてないかどうかは心配ではあるんだけど。

 っと、今度は精霊の水を小さい鍋に取り出して、乾燥させた花びらを1枚戻す。
 続けざまに携帯コンロも取り出して、黄色の溶液をセットし、中に乾燥させた花びらの残り1枚を投入。
 そして、それを火にかける!

 ある程度熱してると、乾燥させていた花が元に戻りつつ、色を変化させ始めるので、完全に変化したところで火を止めた。
 こうすることで、黄色の溶液の中に沈殿物ができるんだ。
 ちなみに、この沈殿物は水のままだとすぐ溶けてしまうし、樹液だけだと戻らず樹液がどろどろになるだけっていう……。
 たぶん花の汁が何かしらの効果を及ぼしてるんだろう。

 熱した方の鍋から花びらを取り出した後、沈殿物を取り出し、沈殿物はお皿に乗せて乾燥させる。
 そうこうしてると、精霊の水にいれた花が元の大きさに戻るので取り出して、今度はその水に縦切りにした花を投入。
 そして、ゆっくりと温める。

 湯気が出始めたタイミングで花を取り出して、横切りにした花と入れ換える。
 そして、一気に火力を強める!
 ここの火加減を間違えると、一瞬で変な色になって失敗作になるんだよね……。
 何回失敗したか……しかも、乾燥した花を入れて成分を出した水じゃないと失敗作になるし、ほんと面倒。

 そんなことを考えているうちに沸騰してくるので、沸騰したら火を消して、花びらを取り出すっと。
 コンロから鍋をどけて、冷ましてる間に別のことをしなければ……。

 次はコンロの上に網を置いて、網を少し温める。
 この網はオリオンさんに貸してもらった。
 なんでも、料理の中には包んで焼くみたいな料理があるとかで……まぁ今回、まさにその通りだったんだけど。

 というわけで、水に浸して元に戻した花びらで乾燥させた沈殿物を包み、網に乗せて焼く。
 どういうわけか、熱すると花の色が黄色から赤色に変化してくるので、全体がほどよく赤色になった時点で火を消して……。

「よかった、上手くいった……」

 熱した花を開くと、中からは虹色に光る結晶体が現れた。
 なんでこう変化するかはわからないけど、これをすりばちで砕いて……くだ、くだいて……腕が……。
 ぜぇはぁ言いながら粉末にしたものを、冷ましておいた精霊の水に入れれば……。

 [精霊の秘薬:使用者の魔力を安定化させる秘薬。
 精霊の中でも高位の精霊にしか生成法が伝わっておらず、その価値は非常に高い]

「で、できたー……。まだ途中だけど」
「綺麗」
「だねー! でもアキちゃんすごいね! 手順複雑すぎだよー!」
「確かに。儂は覚える気すら起きんほどにの」
「あ、あはは……。これしか僕が力になれることはないからね」
「でも、すごい。アキ、さすが」
「うんうん! すごいよアキちゃん!」
「卑屈も度が過ぎれば悪じゃ。素直に受け取っておけ」

 ダンジョンの最奥という、ある意味もっとも緊張する場所にいるはずなのに、なんだか3人ともいつも通りだなぁ……。
 でも、これで終わりじゃない。
 さらにここから、これを毒性化させなきゃいけないんだから!
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