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第2章 現実と仮想現実

第277話 気合いで避けろ

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 今回の話は、トーマ視点となります。

――――――――――――――――

 払われる枝をしゃがむようにして避け、飛びながら蹴り飛ばす。
 そして、反動を利用しながら横にいたトレントをまた蹴り……縦横無尽に移動する。
 途中、糸を使い曲芸のように曲がりつつ、さらにまた一発。

 捕まることはない。
 捕まることはないんだが……。

「やっぱ勝てんな」

 壁を蹴り、トレントを蹴り、時折枝をダガーで払い……とにかく止まることなく対応し続けながら、俺はひとりごちる。
 俺の戦い方とトレントとでは相性は最悪だ。
 蹴ったり、ダガーで斬りつけたりする程度じゃ、攻撃として軽すぎて効果はほとんどない。
 アルの大剣や、リュンの大斧みたいな大型武器までは望まんが、せめてラミナの剣くらいの大きさは必要やなぁ。

「ま、俺としては後を追わせないように妨害しときゃ十分なんやけどな」

 行動阻害自体はまったく難しくない。
 素早い相手ならともかく、木や切り株みたいな重たい相手やったら、多少力を入れるだけで止めることくらいは出来るからだ。
 
「しっかしどうすっかな。このままやったら、俺も動けへんし」

 正直な事を言えば、先に行ったアキ達が心配なのは心配だ。
 リュンが俺に次いで索敵能力には優れとるけど……あいつ、激情家やしなぁ……。
 アルと変な対立とかしとったら目も当てられんで。

 そんなことを考えながら戦っていれば、アキ達と別れてから既に20分が経過していた。
 考えられるペース通りなら、次の小部屋に入ったくらいか?
 特に何も感じんかったし、素通り出来そうなんだが……そうはいかんやろうなぁ……。

「まったく、難儀なイベントやで」

 生産職の意見決裂やら、PKやらでゴタゴタしてたんが治まった直後に、今度は世界樹が暴走て。
 運営はどんだけハードなイベントをやらせるんや。
 第2生産でゲームを始めた初心者にはキツすぎやろ。

「……あん? なんか近づいてきとるな……?」

 もはや戦闘とまったく関係のないことばかり考えながら戦っていた俺の感覚が、近づいてくる何かの気配を察知した。
 この部屋の先……道からか?

「一体、なん……」
「トーマアアァァ! 気合いで避けろ!」
「は?」
「――――〔クリムゾンインフェルノオォォ〕!」
「ハァ!?」

 ダンジョンの奥へと繋がる部屋の出口に、スミスの姿が現れたと思ったら……アイツ、いきなり魔法ぶっ放しやがったァ!?
 しかも、ほぼ全力って、バカかよ!?

 〔蹂躙せし破壊の号砲クリムゾン・インフェルノ〕――それは、術者が込めた魔力をそのまま爆発力に変換し、大爆発を起こすことで辺り一面を破壊する火魔法。
 使い方を間違えると、仲間もろとも自分まで巻き込む魔法なだけに、使用者は非常に少ない……ある意味最も使われていない魔法だ。
 ただ、上手く魔力を調整すると、任意の位置で上手く爆発させられるらしく、花火代わりに使ってるプレイヤーもいたりはする。

 だが、戦闘では使われない。
 危険過ぎるからだ!

 魔力の塊から最も遠い反対側の壁まで急ぎ、水袋の水をぶちまけた布で防御したことで、なんとか逃れられたが……もうこんなギリギリな回避はしたくねぇ……。
 なんや、あの轟音……魔力込めすぎやろ。
 そんな思いから、焦土と化した部屋を尻目に俺はスミスへと詰め寄った。

「スミス! アホか!? 俺ごと殺す気か!?」
「いや、トーマならなんとか避けるだろうって信じてた」
「……今度お前を投合スキルの練習台にしたるわ」
「断固拒否する!」

 両手でバツを作り、全身で拒否を示すスミスの首に腕を回し、もう片腕でダガーの腹を頬に叩きつける。
 スミスもさすがに悪いと思っているのか、俺の腕を積極的に外そうとはせず、されるがままになっていた。

「ま、これで終わってくれりゃ最高やったけどな」
「それは高望みってやつだな」
「せやなぁ……」

 ほとんどが焼き焦げ、炭と化した中で、唯一動くトレントがいた。
 大きさ自体は他のとほとんど変わらない……しかしアレを防ぐってことは、厄介そうな相手やな。

「エルダーか。いつの間に混ざっとったんやろうな」
「エルダーつったら、魔法を使うトレントだったか? 魔法で防いだのか」
「やり方はわからんけどな」

 スミスと2人、横並びになってエルダートレントと対峙する。
 魔法も厄介やけど、一番の問題はどうやって倒すか、やな。

 ――叩き割るか。

「スミス、案がある」
「おう」
「俺の攻撃でも、お前の攻撃でも……ダメージは通りにくいってのは分かるな?」
「ああ」

 ダガーよりもハンマーの方が有効だろうが……表面を殴る程度じゃ倒すのは時間がかかるだろう。
 だが、その点――

「ひとりじゃ面倒だが、俺とお前でやれば……」
「ダガーが楔ってわけか」
「せや。アキの武器にノミと木槌がある。あれを俺らの武器で代用すりゃいい」
「了解。そんじゃ気合い入れて狙うとするか!」

 俺らの相談が終わるのを待っていたのか、それともちょうど魔力を集め終わったのかは分からないが、スミスの返事と同時に、エルダートレントは俺たちに無数の葉を飛ばしてきた。

「サラ、広げろ! 〔渇望せし情熱の弾丸パッション・ヒート〕」
「――行くで!」

 本来、炎の弾丸を飛ばすだけの魔法を、精霊であるサラマンダーを介すことで、壁のように爆発を波及させ、葉を燃やしてしまう。
 そして、その一瞬を利用し、俺は一気に距離を詰めると、エルダートレントへダガーを3本……まっすぐ並ぶように突き刺した。

「一気に決めろ!」
「おう!」

 サラの援護を足に集中させ、文字通り足下を爆発させ、スミスが一気にトレントへ迫る。
 そして、反応が遅れたトレント目がけ、そのハンマーを叩き込んだ。
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