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第2章 現実と仮想現実

第266話 夜闇は味方

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 ――材料ならわかる。
 ハンナさんは確かにそう言った。
 それならば、と顔を上げた僕に対し、ハンナさんは言葉をもって機先を制した。

『ただ、素材が揃っていないとなると、時間的余裕はほとんどありません。もしかすると、アキ様が調薬をする時間すら、取れないかもしれません』
「……ふむ」
「なぁに、大丈夫でござるよ。採取にはアキ殿だけではなく、他の者も手伝えば良いでござる。それならば、多少なりとの余裕は作れるでござろう」
『わかりました。では、まず[精霊の秘薬]の素材ですが――』

 そうしてハンナさんが説明してくれた素材は、とてもじゃないけれど……とても面倒な素材だった。
 まず1つ目が、この島の北側――拠点からだと北西にある泉の水。
 歩いて行くならば、状況が読めない世界樹の森を迂回する必要があるため、片道4時間ほど掛かる場所みたいだ。
 しかもどうやら、この島にある唯一の精霊の泉みたいで、そこからとれる水は、水の魔力を込めることが出来るらしい。
 つまり、代えの利かない素材だ。
 ちなみに、魔力の込め方に関しては、ハンナさんが『その時にまたお伝え致します』と言ってくれた。

 そして2つ目、これはすでに持っていた。
 風の神殿付近にある木から取れる樹液。
 それは今日のお昼に、ラミナさん達と探索に行った際、僕が採取していたあの木の樹液だった。

 最後に3つ目……これもまた面倒な場所にある。
 アルさん達と行った拠点東側の水の神殿、それを超えて島の海岸線まで進んだところに咲く、黄色い花。
 歩いて行くと1時間半から2時間ちょっとの距離らしい。

 この3つが難しいようなら、秘薬を魔薬に変化させる素材は教えてくれないらしい。
 まぁ、危険だしね。

 さて、どうするか……。
 特に問題なのは北西にある精霊の泉だろう。
 歩いて行くと片道4時間となると、トーマ君などの足が速い人にお願いしないといけないかな?
 でも、歩いて片道4時間でしょ?
 走っても……2時間以上は掛かるし、それが往復となると……。

「アキ。今は夜」
「あー、そうか……魔物の活性化もあるのか」

 独り言のように呟きながら考えていた僕の横から、ラミナさんが口を挟む。
 それによって忘れていたことを思い出して……余計に難しくなった。

「ふむ。ではアキ殿、提案でござる。拙者がその精霊の泉とやらに、向かうでござるよ」
「え? 忍者さんが?」
「そ、そんな怪訝な顔をされるのは心外でござる! 忍者にとって夜闇は味方でござる! それに、遠方への移動手段もあるでござるよ!」
「……なるほど、確かに」

 忍者らしからぬ憤慨を見せながらまくし立てる忍者さんに、そう言われればそうだな、と僕も思い直す。
 というか、忍者さん……手伝ってくれるんだ。
 「力を信用してないというよりも、忍者さんが手伝ってくれるってことに驚いたんですよ」と続ければ、忍者さんも納得がいったのか「なるほどでござる」と、深く頷いた。

「拙者としては、アキ殿に受けたご恩を返す良いチャンスなのでござるよ」
「恩? 僕何かしたっけ?」
「そうでござるなぁ……色々でござるよ。強いていうならば、アキ殿と出会ってから、リーダーがとても楽しそうでござる。拙者、リーダーには多大な恩義を感じているでござる。そのリーダーが、アキ殿のおかげで毎日楽しそうな姿を見せてくれるのでござる。これを恩と言わずして、なんといえばいいのでござるか」

 優しく微笑むように目を細めて、忍者さんは訥々と語る。
 前から不思議だったけれど、あの4人の関係って……いったいなんなんだろう?
 それにさっき忍者さんが言ってた「リーダーに助けられた」っていうのはいったい……?
 まぁ、今はそんなことを気にしてる場合じゃないんだけどね。
 でも一応――

「恩を返すなら、僕を狙わないようにしてくれる方が、僕個人としては嬉しいんだけど」
「いやぁ、それに関しては無理でござるなぁ。パーティーでの方針はリーダーが中心でござるから」

 カラカラと笑いながら、さも当たり前のように断る忍者さんに、僕はラミナさんと2人でジトッとした目を送った。
 まぁ、そう言うだろうなって気がしてたことだから別にいいんだけど。

「それで、拙者に行かせてもらってもよいでござるか?」
「うん。お願いするよ。案があるならその方がいいだろうし……無理だけはしないでね」
「心得た」
「それじゃ、あとは……」

 膝を地面に付け、まるで拝命するかのように顔を伏せた忍者さんに頷いて、僕は次の問題を考える。
 しかし、その続きは言えなかった。
 いや、むしろ……言わせてもらえなかった。

「ラミナが行く。場所も分かる、<採取>も取ってるから間違えない」
「あ、いや……そうだけど」
「時間がないから」
「んー……わかった。でも、これだけはお願い。絶対1人では行かないで。せめてハスタさんと一緒に行って」

 僕の言葉に何かを感じたのか、ラミナさんは何も言わず首を縦に振る。
 そうして話がまとまったところを見計らったかのように、ハンナさんは次の話を始めた

『では次に、[精霊の秘薬]を毒性化させる素材ですが……アキ様はすでにお持ちなのです』
「え?」
『[黒の溶液]――カンネリの葉を使った漆黒の水。それが毒性化のための素材となります』
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