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第2章 現実と仮想現実

第261話 人垣を割って

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「お、アキちゃーん!」
「アキ」
「ふたりとも、こんばんは」

 訓練所の中、決闘システムが使える場所のすぐ近く――ベンチにいたハスタさん達に見つかり手招きされた僕は、ラミナさんの横に腰を下ろす。
 すると、ラミナさんが無表情で、首をかしげ「アキ、疲れてる?」と聞いてきた。

「ちょっとね……ここに来るまでに少し」
「さっきのアキちゃん凄かったよね! 人垣を割って、真ん中を歩いてくるとか」
「ん、すごかった」
「ぼ、僕がやりたいって言ったわけじゃないんだからね!? なんか、あれよあれよとあの状態に」

 思い出すだけでも疲れてしまいそうだ……。

 僕が訓練所に到着した時点で、この決闘場付近は人垣が何層にもわたって形成されていた。
 何が起きてるのかと思いつつ、ジャンプしたりしていたんだけど……まったく見えなくて、諦めようとした僕に、周りの人が気付き――

 「アキさん!」「アキさんだって!?」「おい、道を空けろ!」「通せ通せ!」みたいになぜか僕の存在が伝播していき、いつのまにか人垣が左右に割れ、道が完成していた。
 なんだっけ、これ……モーセ?

「ってことがあったんだよ。……で、ふたりは休憩?」
「そう」
「今はちょっと入れる状態じゃないからねー」
「ああ、確かに……」

 話を聞きながら笑ってたハスタさんに、じとりと視線を向けて、僕は話を変える。
 けれど、それは聞く意味があんまりなかったこともあり、僕も含めみんなして苦笑を顔に張り付けた。

 腰を下ろしたベンチのすぐ目の前。
 円形に柵で仕切られた簡易決闘場の中では、僕の知っている人達が、途轍もない戦いを繰り広げていたんだから。



 降り注ぐ水の玉、それをくぐり抜けトーマ君がカナエさんへ一気に距離を詰める。
 そして、目にも止まらない速さで短剣が煌めき、カナエさんへと一閃。

「チィッ! フェイクや!」

 決まったと思った直後、カナエさんの影はどろりと姿を崩し、地面へ水たまりを作った。
 直後――

「トーマ! 貰った!」
「アル!? おい、リュン!?」

 トーマ君の背後に迫るアルさん……その黒い大剣。
 その後ろではリュンさんに向け、大量の水の玉が四方八方から放たれていた。

 どうやら、アルさんとカナエさん、トーマ君とリュンさんに分かれてタッグマッチをしているらしい。
 で、さっきまではトーマ君とカナエさん、アルさんとリュンさんで戦ってたんだけど、トーマ君がカナエさんの罠に引っかかって、状況が変わったって感じかな?

「ちまちまとやかましい! おんし、これでどうにかせい!」
「今更何をしようとも、間に合わないぞ!」

 水の玉を体に受けつつも、全て無視するかのようにリュンさんは身の丈ほどもありそうな斧をアルさんに向けてぶん投げる。
 しかし、アルさんがトーマ君を刺すまでには間に合わない……!

「はっ――アル。すまんが、止まって見えるで?」

 接触まで数秒もないというのに、トーマ君の口が楽しそうに歪む。
 そして回転するように左手のダガーを投げ――

「どこを狙っている!」

 トーマ君にしては珍しく、ダガーはアルさんの体にギリギリで当たらない軌道で、アルさんが身をよじる必要もなく、彼の後方へと飛んでいく。
 しかし、

最初はなから狙いはこっちや」

 投げたダガーが、リュンさんの投げた斧に当たらず……なぜかその周囲を回るように軌道を変える。
 そしてトーマ君が、超低空――地面スレスレを滑るように飛んだ。

「はっ!?」
「アル、後方注意やで」

 突っ込んできていたアルさんの大剣の左斜め下を、超高速でトーマ君は通り過ぎる。
 左手を前に伸ばしてるけど……もしかして、糸?
 まさか、あの戦い方って、シンシさんの……?

 そんなことを考えていた僕の前では、くるりと反転したアルさんが、飛んできた斧を大剣で受けきっていた。
 しかし、トーマ君もカナエさんにダガーを投げることで、水の玉を止め、リュンさんと合流しており……状況は最初に戻っていた。

「ふん。お主がさっさとあの水使いをやれば楽なものを」
「いやいや、あんな回避あるやなんて知らんで? 姉さんのオリジナルかもしれん」
「ふむ。なら真っ向から両方やるとするかのぅ……」

 そう言って身の丈以上の大斧を片手に1本ずつ取り出すリュンさん。
 なんかもう、見た目に違和感しかない……。

 対してアルさんは普段と同じように構え、カナエさんは詠唱に入っていた。
 そういえばふたりの会話が聞こえないけど……念話で話してるとかなのかな?
 確かにその方が作戦を知られる心配もないけど。
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