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第2章 現実と仮想現実

第260話 まるでお祭りみたい

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「――ということをしてました」
「なるほど、わかりました」

 僕が説明を終えるとほぼ同時に、レニーさんが各部隊への連絡を終えて作業場に帰ってきた。
 そして、僕らが今までやっていたことを説明すると、彼女は納得するようにひとつ頷き「では」と口火を切る。

「キリが良いところだと思いますので、ここからは私がみなさんをまとめてもよろしいでしょうか? 先ほど各部隊から必要な薬の数を聞いてきましたので、それを作ろうかと思いますが、さすがに数が多いので」
「私も手伝おうか? 数が多いならその方がいいよね?」
「いえ、アキさんはドライアドのための薬をお願いします。この作戦で一番大事なところですから」
「うぐっ……」

 レニーさんの言葉に思わず口ごもってしまう。
 そんな僕の反応で分かってしまったのか、レニーさんは僕を見る目を細め「もしかして、全然進展がないんですか?」と聞いてきた。

「それが、うん……。どこから手を付ければいいかすら分からなくて」
「それは困りましたね……」
「ただ、ちょっと気になったことがあったから、この後はそれを試してみるつもり。それでも分からなかったらお手上げかな」
「その時はー、そうですね。気分転換に外にでも出てみれば良いと思いますよ。もう夜遅い時間ですが、明日が作戦決行日ともあって、まるでお祭りみたいですから」
「お、そうなんだ」
「はい。アキさんと一緒に大樹の中に行く方は、みんな訓練所で訓練されてるかと思いますので、顔を見せにいくのも良いですね」

 なるほど。
 なら煮詰まったら訓練所に向かうのも良いかな。
 体動かしたら頭も動くようになるし!

「では、アキさん。こちらはこちらでやりますので」
「うん、お願いします」

 僕の気が持ち直したのを感じたのか、レニーさんは満足そうな顔を浮かべ、僕に背を向ける。
 そしてテキパキと割り振りを決め、みんなに作業を始めさせた。

「じゃ、僕もやりますか」

 レニーさん自身も作業を始めたみたいだし、僕だけここでボーッとしてるわけにもいかないし。
 さて、まずは……薬草から試してみますか!



 結論から言えば、切り方や茹で方、冷まし方などを変えても特に変化はしなかった。
 強いて言えば、茹でてから切ったカザリ草からは、粘液が出なかったくらいだろうか?
 [回復錠]の素材になるカザリ草は、茹でる前に葉を切ると、中から匂いの強い粘液が出てくるんだけど……。

「でも、鍋の中身が変化してたわけでもなかったしなぁ……」

 中の水がお湯に変わった程度で、何か特殊な内容に変わっていたわけでもない。
 本当に、ただ粘液が出なかったという状態だった。

「あー、もうわかんない!」

 ぺしん! と作業台を叩いて、椅子から立ち上がる。
 そして片付けもそこそこに、僕は気分転換に向かうことにした。



 拠点の中は至る所にぼんぼりが灯され、本当にお祭りみたいな雰囲気になっていた。
 ……電気とか無いからね、松明とかぼんぼりとかそういった灯りになるよね。

「お嬢!」「姫!」

 ぼーっと訓練所に向けて歩いていた僕の耳に、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
 僕としてはこの呼び方に慣れたくはないんだけどな……。

「ヤカタさん、シンシさん。こんばんは」
「ああ、こんばんはですね。姫は散歩ですか?」
「あーちょっとね。煮詰まっちゃったから、気分転換も兼ねて訓練所に向かってるところ。おふたりは?」
「俺とシンシはひとまずひと段落付いた所だ。担当部分は終わらせたからな、あとの作業は他の奴に任せておいても問題ないだろう」
「ええ、そうですね」

 首にかけた布で汗を拭うヤカタさんと、汗も見せず爽やかに笑うシンシさん。
 どうも裁縫と鍛冶のプレイヤーが担当していたのは、拠点の防備強化だったらしく、今の今まで柵のための支柱を立てたり、厚手の布を織ったりと忙しくしていたらしい。
 その中でも最も重要な大樹方向を2人が担当していたらしく、会議の後からほぼずっと作業をしていたとか……。

「姫が担当しているのは、ドライアドの薬でしょうか?」
「うん。アプローチの方法が思いつかないし、素材も検討つかないしで、現状手詰まりだけどね」
「なるほど……。マナ、つまり魔力のことでしたら魔法を使われる方に聞いて見てはいかがでしょうか? 我々は魔法を使わないので参考にはなれませんが、彼女――カナエ嬢でしたら、あるいは……」
「カナエさん? でも、確かに……」
「今でしたら彼女も訓練所にいるかと思います。我々はひと段落付いたといえど、離れるわけにはいきませんが」
「いえ、大丈夫です。シンシさん、ありがとうございます!」

 申し訳なさそうな顔を見せるシンシさんに頭を下げて、僕はその場から駆け出す。
 妙に逸る心とは対照に、さっきまで煮詰まっていた頭は嘘みたいにスッキリして、不思議と全てのピースが上手くハマったような、そんな気がした。
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