247 / 345
第2章 現実と仮想現実
第248話 球体関節人形
しおりを挟む
「どう見ても樹だけど……大きすぎない?」
光のシャワーが止まり、見えにくかった樹の全体が見えるようになった。
しかし、その大きさがあまりにも大きすぎて……それ以外の感想が出てこない。
「場所、真ん中?」
「たぶんそうだねー! あの判明してなかった島の中心部分じゃないかなー?」
「そう」
ラミナさんは一応、といった具合に地図を取り出し、太陽の場所などで樹の方角を確認する。
そして、何も言わず地図をしまった。
どうやらハスタさんの予想通りの場所だったみたいだ。
「アキちゃん、この後どうするー?」
「ん? んー、樹液の採取はもう大丈夫そうだし、一度拠点に戻ろうか。たぶん僕らが行くよりも、拠点にいた方が情報も集まりそうだし」
「ん」
「そうだね。片付けて出ようか」
手早くお弁当の中身を片付けて、武器を取り出し周囲と陣形を確認している2人を横目に、僕は樹液を入れた瓶に蓋をしてインベントリへと放り込んだ。
樹液の詳細は確認出来てないけど、それはまた拠点に帰って落ち着いてからで大丈夫だろう。
「お待たせ。行こうか」
「ん。姉さん」
「はーい! 真っ直ぐ行くよー!」
「了解。お願いします」
その言葉を最後に、ハスタさんを先頭にして僕らは草も道も関係なく、本当に真っ直ぐ拠点の方向へと歩き出した。
◇
「ん? 念話?」
拠点へと戻っていると、ザザッ……としたノイズが頭に響く。
このノイズは念話特有の――相手はレニーさんか。
「んー? 念話来たなら速度落とそうかー?」
「ごめん、お願い。このタイミングだと拠点の方の情報だろうし、聞いておきたい」
「りょーかーい!」
そう言ってハスタさんは少し速度を落としてくれる。
急いで帰っていたこともあって、今までは歩くというよりも競歩みたいな速度だったし……。
そんな速度で歩いてたら、念話なんてマトモに出来ないし。
「もしもし? レニーさん、何かありました?」
『あ、アキさん! 大変です!』
「ああ、島の中心の大樹ですか? 僕も探索先から見えたので、今拠点に帰ってる最中なんですが」
『それもそうなんですけど、そうじゃなくて!』
「ん? それ以外になにかあったんですか?」
『そのために念話を飛ばさせていただいたので――』
それからレニーさんが話してくれた内容を要約すると、こういうことらしい。
突然各神殿の方から、島の中心に向かって山なりに光が飛び、気付いたらそこに光のシャワーを受ける大樹が存在していた。
そして、探索に出るから薬をーといって拠点が大混乱になっていた所に、珍客が現れたらしい。
――木で出来た球体関節人形の素体が、1体で。
「球体関節人形?」
『はい。最初は敵かと思い、複数人で囲んで様子を見ていたのですが、その場のほぼ全員に当てて同じ念話が届きまして』
「念話って……直接脳に語りかけられたって感じですか?」
『そうですね。多人数同時には初めてのことだったので、数人取り乱していましたが……』
「ふむ。それで?」
『その人形が言うには――複数ある世界樹の精霊、ドライアド様の眷属、トレント族のハンナ。緊急のお願いがあり、こちらの拠点の代表者の方とお話をさせていただきたい、ということでして……』
「精霊!? あ、いや、うん。なるほど。それでなんで僕に?」
『アキさんが適任かなと。他にログインしてる方もいませんでしたし』
「えー……」
そんな馬鹿な、と思いながらログインを確認するためにフレンドリストを起動して――。
アルさんいない、トーマ君いない、木山さんもいない、シンシさんとヤカタさんもいない……。
「あ、オリオンさんがいるじゃないですか」
『それがオリオンさんにお願いしたところ――私は代表ではなく補佐ですよ、と』
「ええぇ……」
オリオンさんでも良いと思うんだけど。
というか、補佐なら補佐で、拠点に誰もいないときは代わりに対応してくれるとか……!
『そういうことですので、アキさん! あとどれくらいで帰れそうですか!?』
「え、えーっと……。ラミナさん、拠点まであとどれくらい?」
「この速度なら30分」
「30分だそうですよ」
『わかりました! 本部にお連れしておきますので、直接向かってくださいね!』
「……はーい」
僕の返事に満足したのか、念話特有のノイズが頭から離れていく。
それを感じながら、僕は大きく溜息をついた。
「アキ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
「アキちゃん、何があったのー? 面倒ごとー?」
「そういうやつだよ。あー、今日くらいはゆっくり採取したかったのに」
「また今度だねー。その時は私もラミナも付き合うよー」
「付き合う」
「ん、ありがとう。仕方ない、急いで帰ろうか」
「りょーかーい! 一気に行くから付いてきてねー!」
言葉と一緒にハスタさんが速度を上げる。
彼女に置いて行かれるのも困るしと、シルフに速度を上げて貰いつつ僕も足に力を入れた。
光のシャワーが止まり、見えにくかった樹の全体が見えるようになった。
しかし、その大きさがあまりにも大きすぎて……それ以外の感想が出てこない。
「場所、真ん中?」
「たぶんそうだねー! あの判明してなかった島の中心部分じゃないかなー?」
「そう」
ラミナさんは一応、といった具合に地図を取り出し、太陽の場所などで樹の方角を確認する。
そして、何も言わず地図をしまった。
どうやらハスタさんの予想通りの場所だったみたいだ。
「アキちゃん、この後どうするー?」
「ん? んー、樹液の採取はもう大丈夫そうだし、一度拠点に戻ろうか。たぶん僕らが行くよりも、拠点にいた方が情報も集まりそうだし」
「ん」
「そうだね。片付けて出ようか」
手早くお弁当の中身を片付けて、武器を取り出し周囲と陣形を確認している2人を横目に、僕は樹液を入れた瓶に蓋をしてインベントリへと放り込んだ。
樹液の詳細は確認出来てないけど、それはまた拠点に帰って落ち着いてからで大丈夫だろう。
「お待たせ。行こうか」
「ん。姉さん」
「はーい! 真っ直ぐ行くよー!」
「了解。お願いします」
その言葉を最後に、ハスタさんを先頭にして僕らは草も道も関係なく、本当に真っ直ぐ拠点の方向へと歩き出した。
◇
「ん? 念話?」
拠点へと戻っていると、ザザッ……としたノイズが頭に響く。
このノイズは念話特有の――相手はレニーさんか。
「んー? 念話来たなら速度落とそうかー?」
「ごめん、お願い。このタイミングだと拠点の方の情報だろうし、聞いておきたい」
「りょーかーい!」
そう言ってハスタさんは少し速度を落としてくれる。
急いで帰っていたこともあって、今までは歩くというよりも競歩みたいな速度だったし……。
そんな速度で歩いてたら、念話なんてマトモに出来ないし。
「もしもし? レニーさん、何かありました?」
『あ、アキさん! 大変です!』
「ああ、島の中心の大樹ですか? 僕も探索先から見えたので、今拠点に帰ってる最中なんですが」
『それもそうなんですけど、そうじゃなくて!』
「ん? それ以外になにかあったんですか?」
『そのために念話を飛ばさせていただいたので――』
それからレニーさんが話してくれた内容を要約すると、こういうことらしい。
突然各神殿の方から、島の中心に向かって山なりに光が飛び、気付いたらそこに光のシャワーを受ける大樹が存在していた。
そして、探索に出るから薬をーといって拠点が大混乱になっていた所に、珍客が現れたらしい。
――木で出来た球体関節人形の素体が、1体で。
「球体関節人形?」
『はい。最初は敵かと思い、複数人で囲んで様子を見ていたのですが、その場のほぼ全員に当てて同じ念話が届きまして』
「念話って……直接脳に語りかけられたって感じですか?」
『そうですね。多人数同時には初めてのことだったので、数人取り乱していましたが……』
「ふむ。それで?」
『その人形が言うには――複数ある世界樹の精霊、ドライアド様の眷属、トレント族のハンナ。緊急のお願いがあり、こちらの拠点の代表者の方とお話をさせていただきたい、ということでして……』
「精霊!? あ、いや、うん。なるほど。それでなんで僕に?」
『アキさんが適任かなと。他にログインしてる方もいませんでしたし』
「えー……」
そんな馬鹿な、と思いながらログインを確認するためにフレンドリストを起動して――。
アルさんいない、トーマ君いない、木山さんもいない、シンシさんとヤカタさんもいない……。
「あ、オリオンさんがいるじゃないですか」
『それがオリオンさんにお願いしたところ――私は代表ではなく補佐ですよ、と』
「ええぇ……」
オリオンさんでも良いと思うんだけど。
というか、補佐なら補佐で、拠点に誰もいないときは代わりに対応してくれるとか……!
『そういうことですので、アキさん! あとどれくらいで帰れそうですか!?』
「え、えーっと……。ラミナさん、拠点まであとどれくらい?」
「この速度なら30分」
「30分だそうですよ」
『わかりました! 本部にお連れしておきますので、直接向かってくださいね!』
「……はーい」
僕の返事に満足したのか、念話特有のノイズが頭から離れていく。
それを感じながら、僕は大きく溜息をついた。
「アキ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
「アキちゃん、何があったのー? 面倒ごとー?」
「そういうやつだよ。あー、今日くらいはゆっくり採取したかったのに」
「また今度だねー。その時は私もラミナも付き合うよー」
「付き合う」
「ん、ありがとう。仕方ない、急いで帰ろうか」
「りょーかーい! 一気に行くから付いてきてねー!」
言葉と一緒にハスタさんが速度を上げる。
彼女に置いて行かれるのも困るしと、シルフに速度を上げて貰いつつ僕も足に力を入れた。
0
お気に入りに追加
1,627
あなたにおすすめの小説
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!
しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。
βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。
そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。
そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する!
※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。
※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください!
※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)
後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜
黄舞
SF
「お前もういらないから」
大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。
彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。
「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」
「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」
個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。
「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」
現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。
私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。
その力、思う存分見せつけてあげるわ!!
VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。
つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。
嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる