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第2章 現実と仮想現実

第248話 球体関節人形

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「どう見ても樹だけど……大きすぎない?」

 光のシャワーが止まり、見えにくかった樹の全体が見えるようになった。
 しかし、その大きさがあまりにも大きすぎて……それ以外の感想が出てこない。

「場所、真ん中?」
「たぶんそうだねー! あの判明してなかった島の中心部分じゃないかなー?」
「そう」

 ラミナさんは一応、といった具合に地図を取り出し、太陽の場所などで樹の方角を確認する。
 そして、何も言わず地図をしまった。
 どうやらハスタさんの予想通りの場所だったみたいだ。

「アキちゃん、この後どうするー?」
「ん? んー、樹液の採取はもう大丈夫そうだし、一度拠点に戻ろうか。たぶん僕らが行くよりも、拠点にいた方が情報も集まりそうだし」
「ん」
「そうだね。片付けて出ようか」

 手早くお弁当の中身を片付けて、武器を取り出し周囲と陣形を確認している2人を横目に、僕は樹液を入れた瓶に蓋をしてインベントリへと放り込んだ。
 樹液の詳細は確認出来てないけど、それはまた拠点に帰って落ち着いてからで大丈夫だろう。

「お待たせ。行こうか」
「ん。姉さん」
「はーい! 真っ直ぐ行くよー!」
「了解。お願いします」

 その言葉を最後に、ハスタさんを先頭にして僕らは草も道も関係なく、本当に真っ直ぐ拠点の方向へと歩き出した。



「ん? 念話?」

 拠点へと戻っていると、ザザッ……としたノイズが頭に響く。
 このノイズは念話特有の――相手はレニーさんか。

「んー? 念話来たなら速度落とそうかー?」
「ごめん、お願い。このタイミングだと拠点の方の情報だろうし、聞いておきたい」
「りょーかーい!」

 そう言ってハスタさんは少し速度を落としてくれる。
 急いで帰っていたこともあって、今までは歩くというよりも競歩みたいな速度だったし……。
 そんな速度で歩いてたら、念話なんてマトモに出来ないし。

「もしもし? レニーさん、何かありました?」
『あ、アキさん! 大変です!』
「ああ、島の中心の大樹ですか? 僕も探索先から見えたので、今拠点に帰ってる最中なんですが」
『それもそうなんですけど、そうじゃなくて!』
「ん? それ以外になにかあったんですか?」
『そのために念話を飛ばさせていただいたので――』

 それからレニーさんが話してくれた内容を要約すると、こういうことらしい。

 突然各神殿の方から、島の中心に向かって山なりに光が飛び、気付いたらそこに光のシャワーを受ける大樹が存在していた。
 そして、探索に出るから薬をーといって拠点が大混乱になっていた所に、珍客が現れたらしい。

 ――木で出来た球体関節人形の素体が、1体で。

「球体関節人形?」
『はい。最初は敵かと思い、複数人で囲んで様子を見ていたのですが、その場のほぼ全員に当てて同じ念話が届きまして』
「念話って……直接脳に語りかけられたって感じですか?」
『そうですね。多人数同時には初めてのことだったので、数人取り乱していましたが……』
「ふむ。それで?」
『その人形が言うには――複数ある世界樹の精霊、ドライアド様の眷属、トレント族のハンナ。緊急のお願いがあり、こちらの拠点の代表者の方とお話をさせていただきたい、ということでして……』
「精霊!? あ、いや、うん。なるほど。それでなんで僕に?」
『アキさんが適任かなと。他にログインしてる方もいませんでしたし』
「えー……」

 そんな馬鹿な、と思いながらログインを確認するためにフレンドリストを起動して――。
 アルさんいない、トーマ君いない、木山さんもいない、シンシさんとヤカタさんもいない……。

「あ、オリオンさんがいるじゃないですか」
『それがオリオンさんにお願いしたところ――私は代表ではなく補佐ですよ、と』
「ええぇ……」

 オリオンさんでも良いと思うんだけど。
 というか、補佐なら補佐で、拠点に誰もいないときは代わりに対応してくれるとか……!

『そういうことですので、アキさん! あとどれくらいで帰れそうですか!?』
「え、えーっと……。ラミナさん、拠点まであとどれくらい?」
「この速度なら30分」
「30分だそうですよ」
『わかりました! 本部にお連れしておきますので、直接向かってくださいね!』
「……はーい」

 僕の返事に満足したのか、念話特有のノイズが頭から離れていく。
 それを感じながら、僕は大きく溜息をついた。

「アキ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
「アキちゃん、何があったのー? 面倒ごとー?」
「そういうやつだよ。あー、今日くらいはゆっくり採取したかったのに」
「また今度だねー。その時は私もラミナも付き合うよー」
「付き合う」
「ん、ありがとう。仕方ない、急いで帰ろうか」
「りょーかーい! 一気に行くから付いてきてねー!」

 言葉と一緒にハスタさんが速度を上げる。
 彼女に置いて行かれるのも困るしと、シルフに速度を上げて貰いつつ僕も足に力を入れた。
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