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第2章 現実と仮想現実

第237話 寝てる

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「これヤドカリ、か?」
「ヤドカリやな」

 遠くから見て山だと思っていた影は、背中に背負われた貝殻で……。
 いや、これ貝殻でいいのかな?
 あまりに大きすぎて、山って言ってくれた方が信用できる大きさなんだけど。

「しかし動かないな……。生きてるのか? これ」
「生きとるのは生きとるみたいやけど」
「寝てるってことですかい!? なら寝起きに一発でかいのかましましょうや!」

 音を立てないようにゆっくりと周囲を確認したけれど、ヤドカリの動きは全くなし。
 本当に寝てるみたいだけど、魔物も寝たりするんだ……。

「一撃を当てるにしても、どこを狙うか、だな。貝や鋏に当てたところで効果は薄いだろう?」
「せやなぁ。つーて、どこが弱いとか知らんで?」

 さすがにトーマ君でもヤドカリの弱い所は知らないかぁ……。
 なんとなく知ってそうなイメージもあるんだけど。

「とりあえず悩んでも仕方あらへんし、出とる鋏でもやるか? 壊せたらもうけもんやし」
「そうだな。ひとまずその案で行こうか」

 そうと決まれば――というスピードで、アルさんが各パーティーへと指示を飛ばす。
 その間もヤドカリは全く動きが無くて……これ本当に生きてるのかな?

 僕がそんなことを考えている間にも着々と攻撃準備は整っていって……。
 どうやら真ん中は鉄屑テツさんのパーティーが担当するみたいだ。
 まぁ、予想通りって言って良いのかわからないけど、硬い敵との戦いだしね。
 重量級武器のテツさんたちの方が向いてる……かな?

「3カウントで、同時に叩き込むぞ! 3、2、1……ッ!」

 カウント直後――地面どころか、この空間の空気全てが揺れたような、そんな轟音が鳴り響く。
 誰かが火魔法も使ったのか、もくもくと煙が上がり……それが晴れた先には、傷一つついていない鋏があった。

「おいおい、マジか……」

 攻撃に参加していなかったトーマ君が、僕の横で驚いたように呟く。
 でもそうなるのも分かる気がする。
 さっきの攻撃、僕らの戦った大蜘蛛ぐらいなら、一撃で倒せそうだったし。

 それに――

「ヤドカリが起きたぞー!」
「総員、一旦引け! 相手の出方を見る!」

 最悪なことに、相手にダメージを与える事もできないまま……戦闘が開始されてしまったみたいだ。



「くっ……思ったよりも鋏の動きが速い!」
「しかもかなり重たいぜ。旦那、どうします?」
「……何度か攻撃を仕掛けて分かったことだが、どうやら弱点は貝の中にあるみたいだな。現時点で出ている部分に関しては、巨大な鋏部分と強度は変わらないようだ」
「てこたぁ、あの貝から追い出せってことですかい?」
「そうなるな」

 最前線、よりも少し後ろで補給や補助のために走り回っていた僕の耳に、そんなアルさん達の会話が入ってきた。
 結構派手な音を立てながら戦ってるから、ある程度のダメージは入ってるのかと思ってたけど……全然ダメージが入ってないのか……。
 弱点、弱点か。

「そもそもヤドカリって、何になるんだろう? 鋏があるし、エビとかカニとか?」
「海岸沿いによくいるので、カニに近いのではないでしょうか?」
「でも、形的にはエビっすよ。貝の中身は細長いはずっすから」

 僕の独り言が聞こえたのか、オリオンさんやスミスさんがそれぞれの視点から予想を返してくれる。
 でも結局、どっちなんだろう?

「ヤドカリはエビでもカニでも無いですよ。ただ、大まかに分ければ全て一緒だったとは思いますが」
「そうなんですか?」
「ええ、確か……ですけど」

 作業がひと段落付いたのか、僕らの方に戻ってきたレニーさんが、答えを教えてくれる。
 そうか、エビでもカニでも無いんだ。

「レニーさん、さすがに貝からヤドカリを出す方法は知らないですよね?」
「そう、ですね。専門家ではないので、そこまでは。ただ……」

 そこまで言って、レニーさんは何かを考えるように、目を伏せる。
 もしかしたら何か思いついたのかもしれない……と、僕らは考えが纏まるのを待つことにした。

「確証はないのですが、危機感を煽る、というのはいかがでしょう?」
「危機感を煽る?」

 10秒ほど考えて、彼女が口にした言葉は、なんともざっくりとした答えで、僕は同じ言葉を繰り返すことしか出来なかった。

「ええ、危機感を煽るのです。例えば貝を叩くとか、熱するとか……そうやって、この貝だと危険だ、と思わせることができれば」
「なるほど。ヤドカリにとって貝は家のようなものですから。確かに効果があるかもしれませんね」

 レニーさんの提案に、オリオンさんがそれとなく補足を入れてくれる。
 家か……確かにそうやって考えるなら、それが良いのかもしれない。

 だとすれば、後の問題は――

「そのダメージをどうやって出すか、だね」
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