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第2章 現実と仮想現実

第231話 火の精霊

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「アキさん、ちょっといいっすか?」

 アルさんと僕らのパーティーを除く、他のパーティーが、部屋にできた穴を調べに移動した後、準備も終えて暇を持て余していた僕へと、スミスさんが声をかけてきた。

「いいですけど、どうしました?」
「ここだと話しにくいことなので……」

 スミスさんの方へと体ごと向けた僕の耳元で、彼が小さくそう告げる。
 なにやら、他の人には内緒にしておきたいことのようだ。
 ふむ……一応アルさんには、了承をとっておいたほうがいいかな。

「アルさん、ちょっと離れます」
「ああ、わかった」
「俺らだけだと危険かもなんで、トーマ借りてもいいっすか?」
「俺は別にええで?」

 トーマ君の言外の確認に「問題ない」と頷いて、アルさんは武器の手入れに戻った。
 でも、トーマ君を名指しってことは……トーマ君は知ってる話ってことかな?

「この辺でいいっすかね」
「あいよ、俺は適当に警戒しとく。さっさと済ませーや?」
「ああ、サンキュ」

 みんなで固まっていた場所から少しだけ離れて、大きな岩の陰で姿は見えず、声も聞こえないって距離の場所に、スミスさんは腰を下ろした。
 一応武器は横に置いてるから、完全に気を抜いてるってわけじゃなさそうだ。

「それで、スミスさん。お話って何ですか?」
「あー、えっと……本当はイベントが始まる前には言うつもりだったんすけど、タイミングが掴めなくてっすね……」
「うん?」
「だから、こんなタイミングになったんすけど、隠してたとかそう言うわけじゃないんで、驚かないで欲しいっす」
「それはまぁ……内容によるかな?」

 例えば……僕みたいに、実は中の人が女の子なんです!って言われたら、さすがに驚くと思う。
 驚いた上で、妙な共感をしてしまいそうだけど……。

「……たぶん想像してるのとは違うと思うっすけど。見せた方が早いっすね」
「見せるって――」

 スミスさんの言葉に僕が反応した直後、スミスさんの横に赤い人が現れた。
 って、なんか燃えてる!?

「す、すすす……スミスさん!? このひと、人むがっ!?」
「落ち着いてくださいっす。俺もアキさんと同じく、精霊との契約者なんすよ。こいつはサラマンダー、火の精霊っす」

 彼の落とした爆弾に、驚きのあまり大きな声をだした僕は……瞬間、スミスさんの手で口を塞がれた。

「ぶはっ……ごめん、精霊で僕にってことは僕の事も知ってるんだね?」

 精霊との契約者がもう1人いるのは知ってたし、それが火の精霊っていうのもトーマ君から聞いていた。
 けどそれがスミスさんだとは……全く考えてなかった。

 そんな思いを隠しつつ告げた僕の言葉に、スミスさんは頭を掻きながら「ええ、まぁ」と笑った。

「実はこいつと出会った場所が、師匠の作業場で……結構な人に知られてるんすよ。トーマもその際に知り合ってるんす」
「そういえばトーマ君。あの時、1人で別行動取ってたっけ……?」

 確かその話を聞いたのは、トーマ君にまだシルフの事とかを伝えるよりも前で、森に着いた直後だった気がする。
 でも、その時点でトーマ君は、僕が精霊シルフと契約してるって気付いてたんだけど。

「その後、トーマからアキさんの話を聞いて、アキさんと会うちょっと前にこいつ――サラって呼んでるんすけど、サラと契約したんすよ。サラ、この人が精霊、シルフの契約者でアキさんっす」
「うん、知ってるよ! ボクも何度か見てたから。ボクは火の精霊サラマンダー、よろしくね、アキ」

 そう言ってサラマンダーさんは火で出来たような手を差し出す。
 これは……握手って事なんだろうか?
 チラりとサラマンダーさんの姿を確認すれば、少し黒混じりの赤を基調とした身体で、所々火が吹き出た、ちょっと活発そうな可愛らしい女の子だ。

「うん、こちらこそ。シルフ、出ておいで」

 意を決して、差し出された手を握り返す。
 火をそのまま掴むような、そんな見た目とは違い、しっかりとした手触りがそこにはあった。
 ……あと燃えたりはしないみたいだ、よかった。

 そんなことを考えていた僕の横で風が舞い、シルフが現れる。
 スミスさんはシルフを見るのが初めてだったからか、少し驚いたみたいだけど……。

「スミス様、サラマンダー、こうして姿を見せるのは初めてですね。風の精霊シルフと申します」

 言葉と一緒に頭を下げて、シルフはスミスさんへと手を差し出す。
 スミスさんはズボンで手を何度も拭き、恐る恐るといった感じで手を取った。
 これには、シルフもちょっとだけ苦笑気味だったのは、スミスさんには秘密にしておこう。

「それにしてもサラマンダーさんも女の子なんですね。火の精霊って男性ってイメージがあったから少し驚きました」

 お互いに手を離し、そんな感想を僕が漏らすと、スミスさんの表情が固まった。

「あー、アキさん……その……こいつは」
「ボク、男だけど」
「はい?」

 言いにくそうに口を開いたスミスさんに代わり、サラマンダーさんから発せられた言葉は、僕の耳に入って、頭には入ってこなかった。

「だから、ボクは男だって。なんだったら証拠を見せようか?」

 多分頭が理解を拒んだんだろう、と結論付けた僕へ、サラマンダーさんはさらに大きな爆弾を落としてきた。

 えっと、男の、子?
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