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第2章 現実と仮想現実

第226話 一緒に

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「そんなわけで、補給パーティーならどうでしょうか?」

 僕とトーマ君の話が一段落着くのを見計らって、再びカナエさんがそう、僕を誘ってくる。
 んー、確かに補給パーティーなら戦うのがメインじゃないだろうし……。

「……でも、レニーさんがいるなら大丈夫じゃない?」

 そうなのだ。
 レニーさんは、僕と同じ調薬をメインにやっている女性で、僕がPKに捕まっている間は、僕の代わりに調薬メンバーのまとめ役をやってくれていた人だ。
 
 つまり、調薬メンバーの中でも、かなりデキる人なはず……。

「たぶんレニーさんなら、僕が作れるものは大体作れると思うし」
「そうですが……」
「作れないのは、味付きポーションくらいじゃないかな? でもアレに関しては、僕も今は材料が揃ってないから作れないし」

 考えれば考えるほどに、僕が行く必要はなさそうに感じてくる。
 だって、役割も被っちゃうし……そんな数人いるほどに切羽詰まる状態にはならないと思うし。

「グダグダと元気だな」
「なっ」

 カナエさんに行かない理由を説明していると、横から険のある声が割り込んでくる。
 僕が顔を向けると同時に、声の主――ウォンさんが、手に持っていたカップを、勢いよくテーブルへと叩きつけた。

「いいじゃねぇか、行けばよ」
「いやいや、聞いてたでしょ? 僕が行ったって、同じ調薬メインの人もいるし、他で役に立つわけじゃないんだから、僕以外で良い人を見つけた方がいいって」
「はっ、そんなこと言ってよー。実際はアレだろ? どんどん強くなっていくこいつらと、今一緒に居たくないだけだろ?」
「それは、違っ」
「それはどうだかな。ま、好きにすればいいさ」

 そう言って、またカップを傾けお酒をあおる。
 酔っているってわけじゃないんだろうけど……なんだかなぁ……。

「あ、あの。アキさん、無理にとは言いませんので、その……」
「……少しだけ考えさせてください」
「え? ええ、それは、はい」

 なんていうか、ちょっとだけイラッとしてしまった。
 いや、僕を焚きつけるとかって意味でやったのは分かってるんだけど……それでもちょっとイラッとしたんだ。

「アルさん、何時までに決めたら良いですか?」
「あ、ああ19時には出るからな。10分ほど前には決めておいてほしい」
「わかりました。すいません、先にお店出ます」

 「ああ」と、頷いたアルさんを尻目に、僕はカナエさんに支払いを済ませて席を立った。
 別に行く宛とか、他に相談する相手とかがいるわけじゃないんだけど、今この場所にいるのは、ちょっと嫌だったから。



「はぁ……どうしよっか」
「どうしましょうか」

 拠点に立ち並んだ建物の裏手側、それも人目に付きにくいけど、暗すぎない場所で、僕はシルフと並んで座っていた。
 なんとなく、今は誰とも会おうと思わなかったんだ。

「正直、ウォンさんに言われたこと、否定は出来ないんだよね。僕はみんなと違って戦える訳でもないし……出来る事はお薬を作ったりなんかのサポートだけ。でも、それもやれる人が別に居るってなったら……」
「アキ様……」
「なんだか、僕は必要無いんじゃないかって。……いや、違うな。僕より先に行くみんなが、うらやましくて、それなのに進んでない自分自身が恥ずかしくて、嫌で」

 ――一緒に居たら、それをもっと感じてしまうって思った。

「だから、」
「アキ様。……一人で思い詰めないでください」

 俯いた僕の頭を抱きしめるように、そっと優しくシルフの手が触れる。

「アキ様は私に言ってくれましたよね? 私と一緒に成長していきたいって」
「……」
「大丈夫です。一人じゃ無いです。私がいますから。……それに、他の皆様だって、きっとアキ様のことを大事に思っているはずです」

 柔らかく、温かい風が頬を撫でる。
 たったそれだけのことで、ささくれ立っていた僕の心は、なぜか急に落ち着きを取り戻していた。

「……ごめん」

 そう、一言だけ口にして、目を閉じる。
 分かってはいるんだ……ウォンさんも、みんなも、僕のことを思って誘ってくれたり、焚きつけたりしてくれてることは。
 
「けど、僕に何が……」
「アキ様に何が出来るかどうかはわからないですけど、何もしないよりは何かをしてみることで、何が出来るのか見えてくるのかもしれません」
「え?」

 頭の上から振ってきた言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
 そうして見えたシルフの顔は、ひどく優しい笑顔だった。
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