上 下
218 / 345
第2章 現実と仮想現実

第219話 町みたい

しおりを挟む
 あれから、また消えていったトーマ君を除く3人で、お昼ご飯を挟んだりなんかもしながら数時間ほど探索続けた。
 そして、「そろそろ学校の準備とかする」という2人と別れ、僕は拠点に戻ってきていた。



「んー、どうしよっかな。探索に行くにしても、1人じゃアレだし」
「でしたら、拠点で調薬とかですか?」
「それでもいいんだけど、下手に作るといざって時に材料が足りなくなりそうでね。色々新しい素材は見つかってるし、解毒薬もそろそろ手を付けてみたいんだけどね……」

 シルフと話しながら、特に目的も無く拠点内を歩く。
 建物が沢山建ったからか、こうして歩いてみると町みたいに感じるようになってきたかも。
 木山さん達、すごいなぁ……。

「休憩所とかだけじゃなくて、工房とかも増えてるんだね」
「そういえば、作業場もひとまとめでは無くなったみたいですね」
「そうなの?」
「はい。今日、アキ様が来られる前には」
「そっか、今日見に行ってないもんね。何がどう変わったの?」
「えっと、確か……」

 シルフはそう言って、建物を指さしながら振り分けられた作業を説明してくれる。
 どうやら、調薬と会議場所は元々の場所から動いてないみたいだ。

「ふむふむ。でも、会議場所って言っても、もう使うことも無いと思うけどね」
「そうですね。普段は調薬指導の場所なんかに使う予定みたいですし」

 まぁ、そうなるかな?
 調薬指導するような事もそんなに無いと思うけど。

「結局、これからどうしようか」
「どうしましょうか……。アキ様、何かしたい事とかは?」
「したいこと、か」

 材料とかがいっぱいあって気にしなくて良いなら色々手を付けたいお薬もあるんだけど、供給源が探索プレイヤーしかないような状況だから、今は自分だけで出来る事を伸ばした方が良いかな。
 となると、特訓?
 でも、今から外に出るのも。

「どこか訓練所みたいなところがないかな? 初心者向けの施設とか」
「どうでしょう……。私が見て回ったのも人が少ない時間でしたので」

 人が動く前の朝早くとかに見て回ったなら、わからないのも仕方ないか。
 誰か知り合いでもいれば聞けるんだけど……。

「っと、思った所に!」
「おや? アキさん、こんにちは。探索帰りですか?」
「はい、こんにちはです。そうですけど、オリオンさんもですか?」
「いえいえ、私は拠点の中で食事処を運営しておりますので。今は、配達に行った帰りですよ」
「食事処?」
「えぇ、私の他にも調理をメインでやっている方と一緒にですが。アルさんやトーマさんも本日来られましたね」
「知らなかった……」

 いつの間にか町みたいというよりも、町になっていたらしい。
 でも、調理や調薬のスキルはとにかく数をこなす事も大事だから、そういった場所の方が訓練としては良いのかもしれない。

「私はこれからまたお店に戻りますが、アキさんのご予定は?」
「あ、そうそう、オリオンさん。その予定の事なんだけど、この拠点の中で戦闘訓練とかが出来る場所って無いかな?」
「訓練、ですか。ええ、確かあったかと。ただ……」

 僕の問いに対して、オリオンさんには思いつく場所があったみたい
 けど、なんでそこで言い淀んだんだろう。

「ただ……?」
「今はまだ案山子の数が少なく、大半が模擬戦場になっていたかと」
「も、模擬戦、ですか」
「と言っても、お互いに全力でと言うわけではなく、打ち込み稽古や掛かり稽古のような形ですよ」

 打ち込み稽古?
 掛かり稽古……?
 なんだろう、それ。

「えっと?」
「あぁ、そうですね……。打ち込み稽古というのは、教える側がわざと隙を作り、そこに教わる側が適切な技を入れるという稽古です。対して、掛かり稽古というのは隙を作らないという稽古です」
「つまり、打ち込み稽古は技の練習で、掛かり稽古は攻める練習ってこと?」
「大雑把に言ってしまえば、その考えで良いと思います」
「ふむふむ……」

 それだったら僕でも出来るかな。
 草刈鎌と木槌、ノミだけじゃなくて、つるはしを加えたコンビネーションも練習したいし。
 でも、あれって大きな欠点があるんだよね……。

「丁度向かう方向も同じですので、ご案内いたしましょうか。こちらですよ」
「あ、お願いします」

 先導するように僕の横をすり抜け、彼は軽く微笑む。
 オリオンさんの笑顔は、格好いいとか綺麗とかそういったものじゃなくて、どことなく安心させる優しさがある。
 大人の余裕、というものなのかも?

 オリオンさんのお店、Aurora《オーロラ》の雰囲気もオリオンさんの力が大きいのかもしれない。
 ゲームの中なのに、まるで温かく包まれてるみたいに優しい空間。
 不思議とゆっくり休んでしまいたくなるお店。
 悩んだり、慌ててばっかりの僕とは違う、オリオンさんの落ち着いた人柄。

 ――いつか、そうなることが出来たら。

「アキさん?」
「あ、はい。行きます!」

 彼の後ろを付いていきながら、僕は不思議とそんなことを思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。 *旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

処理中です...