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第2章 現実と仮想現実
第209話 想像とか、希望とか
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「だって、シンシさん……まだ一度も、人を殺してないじゃないですかっ!」
「――ッ! な、なにを……」
僕の言葉に動揺してか、シンシさんの表情が少し強ばる。
それに連動するかのように、出た声も細く、弱いものだった。
「もしそうだったら良いなって……ずっと、ずっと思ってたんです……。逃げるときも、さっきも、あなたの前では念話が通じたから」
「た、たしかにそうですが……スキルを持っていないだけ、かもしれないですよ?」
「そう言われたら、そうかもしれないです……」
本当にシンシさんの答えの通りかもしれない。
実際、スキルを取るときは結構回数をこなす必要もあったりするから……。
でも、そうじゃないって、僕は信じたい。
だから――
「ぐ、ぎ……ぎ……!」
上から押さえるシンシさんの力が弱まってる内に、この杭を引き抜く……!
めちゃくちゃ左手が痛いけど、そんなもの知ったことか!
抜けろ……抜けろ!
「……ぎっ!」
「ひ、姫……?」
「ハァハァ……。仮に、シンシさんが本当に人を殺したことがあるとしたら……」
立ち上がりながら、インベントリから味付きポーションを取り出して一気にあおる。
即効性じゃないから一気には治らないけど、大丈夫……かな?
それにしても、左手……血も出てないのに、穴だけ真ん中に空いてるのって、なんだかすごい変な感じ……。
「シンシさんは、きっとそんなに……驚かないです。いつもみたいに、少し困った顔で笑って、自信にあふれた声で応えてくれるはずです」
「っ、い、いえ、姫が突拍子も無い事を言い出すから、ですよ? 仮にも、PKプレイヤーと組んでる身ですから、そんな殺すことなんて何度も……」
「……その言葉が、本当かどうかは分からないです。でも、さっきも言いましたよね。シンシさんは誰も殺してないって、そうだったら良いなって、僕は思ってるって」
「それは、」
まっすぐ、彼女の目を見て想いを口にする。
僕は弱いよ、きっとほとんどの人には負けるくらい弱い。
でも、だからって、心まで負けてるわけにはいかないから。
人を殺す――それ自体を、ただ口にすることは簡単。
誰にだって出来るし、もちろん……したくはないけど僕にだって出来る。
でも、実際に人の命を奪う……それはすごく難しいことだと思うんだ。
いや、それ自体はきっと簡単なんだと思う。
難しいのは……自分の心と折り合いをつけること、かな?
以前、お爺ちゃんに風化薬の話を聞いた際、ジェルビンさんが僕に聞いてきた。
――これは人を傷つけることもできる薬じゃ。魔物と戦うこととは違う。アキちゃんに、その覚悟はあるのじゃな? と。
あの時、僕は「覚悟なんて無いし、そんな思いを持ってお薬を作りたくない。僕はお薬を作る事で傷つく人を減らせれれば」って、そんな感じのことを言った。
実際、今でも人を傷つける覚悟なんて無い。
でも……守りたいって思う人達を、守るために傷つくぐらいの、そんな覚悟なら――
「僕は……シンシさんは優しい人だって思ってます。きちんと話したのは、あの捕まってる時でしたけど、その時に話してくれたことや、表情は優しさに溢れてたから」
そういえば、なんであの場所にシンシさんはいてくれたんだろうか。
シンシさんがPKと組んでいたならば、僕と一緒に2日間も閉じ込められる必要なんて無かったはず……。
あの時、シンシさんがしてくれたことって――
「シンシさんがあの時、傍にいてくれたのって……もしかして、僕を守るためだったりしないですか? これは本当に想像とか、希望とかですけど……」
「そ、れは……」
「だって、そう考えればあそこにシンシさんがいてくれた意味もわかりますし……実際、シンシさんは僕を守ってくれたから」
そう、あの時……シンシさんは僕を守ってくれた。
自分が刺されてもおかしくない状況で、身を挺して。
「もしそうじゃなかったとしても、あの時……僕を守ってくれてありがとうございました。とても、嬉しかったです」
「姫……」
ポーションの影響かな……なんだか、身体がすごく熱い……。
正直、立ってるのもやっとなくらいだ。
なんでだろう……手に穴が空くほどの怪我をしてるからかな……。
「……それでも、シンシさんが人を殺せるって言うのなら」
無理矢理引き抜いたまま、地面に捨てていたシンシさんの武器を拾い上げ、僕は彼女へと差し出す。
もちろん、柄を彼女の方へ向けて。
「僕を、殺してみてください」
「――ッ! な、なにを……」
僕の言葉に動揺してか、シンシさんの表情が少し強ばる。
それに連動するかのように、出た声も細く、弱いものだった。
「もしそうだったら良いなって……ずっと、ずっと思ってたんです……。逃げるときも、さっきも、あなたの前では念話が通じたから」
「た、たしかにそうですが……スキルを持っていないだけ、かもしれないですよ?」
「そう言われたら、そうかもしれないです……」
本当にシンシさんの答えの通りかもしれない。
実際、スキルを取るときは結構回数をこなす必要もあったりするから……。
でも、そうじゃないって、僕は信じたい。
だから――
「ぐ、ぎ……ぎ……!」
上から押さえるシンシさんの力が弱まってる内に、この杭を引き抜く……!
めちゃくちゃ左手が痛いけど、そんなもの知ったことか!
抜けろ……抜けろ!
「……ぎっ!」
「ひ、姫……?」
「ハァハァ……。仮に、シンシさんが本当に人を殺したことがあるとしたら……」
立ち上がりながら、インベントリから味付きポーションを取り出して一気にあおる。
即効性じゃないから一気には治らないけど、大丈夫……かな?
それにしても、左手……血も出てないのに、穴だけ真ん中に空いてるのって、なんだかすごい変な感じ……。
「シンシさんは、きっとそんなに……驚かないです。いつもみたいに、少し困った顔で笑って、自信にあふれた声で応えてくれるはずです」
「っ、い、いえ、姫が突拍子も無い事を言い出すから、ですよ? 仮にも、PKプレイヤーと組んでる身ですから、そんな殺すことなんて何度も……」
「……その言葉が、本当かどうかは分からないです。でも、さっきも言いましたよね。シンシさんは誰も殺してないって、そうだったら良いなって、僕は思ってるって」
「それは、」
まっすぐ、彼女の目を見て想いを口にする。
僕は弱いよ、きっとほとんどの人には負けるくらい弱い。
でも、だからって、心まで負けてるわけにはいかないから。
人を殺す――それ自体を、ただ口にすることは簡単。
誰にだって出来るし、もちろん……したくはないけど僕にだって出来る。
でも、実際に人の命を奪う……それはすごく難しいことだと思うんだ。
いや、それ自体はきっと簡単なんだと思う。
難しいのは……自分の心と折り合いをつけること、かな?
以前、お爺ちゃんに風化薬の話を聞いた際、ジェルビンさんが僕に聞いてきた。
――これは人を傷つけることもできる薬じゃ。魔物と戦うこととは違う。アキちゃんに、その覚悟はあるのじゃな? と。
あの時、僕は「覚悟なんて無いし、そんな思いを持ってお薬を作りたくない。僕はお薬を作る事で傷つく人を減らせれれば」って、そんな感じのことを言った。
実際、今でも人を傷つける覚悟なんて無い。
でも……守りたいって思う人達を、守るために傷つくぐらいの、そんな覚悟なら――
「僕は……シンシさんは優しい人だって思ってます。きちんと話したのは、あの捕まってる時でしたけど、その時に話してくれたことや、表情は優しさに溢れてたから」
そういえば、なんであの場所にシンシさんはいてくれたんだろうか。
シンシさんがPKと組んでいたならば、僕と一緒に2日間も閉じ込められる必要なんて無かったはず……。
あの時、シンシさんがしてくれたことって――
「シンシさんがあの時、傍にいてくれたのって……もしかして、僕を守るためだったりしないですか? これは本当に想像とか、希望とかですけど……」
「そ、れは……」
「だって、そう考えればあそこにシンシさんがいてくれた意味もわかりますし……実際、シンシさんは僕を守ってくれたから」
そう、あの時……シンシさんは僕を守ってくれた。
自分が刺されてもおかしくない状況で、身を挺して。
「もしそうじゃなかったとしても、あの時……僕を守ってくれてありがとうございました。とても、嬉しかったです」
「姫……」
ポーションの影響かな……なんだか、身体がすごく熱い……。
正直、立ってるのもやっとなくらいだ。
なんでだろう……手に穴が空くほどの怪我をしてるからかな……。
「……それでも、シンシさんが人を殺せるって言うのなら」
無理矢理引き抜いたまま、地面に捨てていたシンシさんの武器を拾い上げ、僕は彼女へと差し出す。
もちろん、柄を彼女の方へ向けて。
「僕を、殺してみてください」
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