採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

文字の大きさ
上 下
208 / 345
第2章 現実と仮想現実

第209話 想像とか、希望とか

しおりを挟む
「だって、シンシさん……まだ一度も、人を殺してないじゃないですかっ!」
「――ッ! な、なにを……」

 僕の言葉に動揺してか、シンシさんの表情が少し強ばる。
 それに連動するかのように、出た声も細く、弱いものだった。

「もしそうだったら良いなって……ずっと、ずっと思ってたんです……。逃げるときも、さっきも、あなたの前では念話が通じたから」
「た、たしかにそうですが……スキルを持っていないだけ、かもしれないですよ?」
「そう言われたら、そうかもしれないです……」

 本当にシンシさんの答えの通りかもしれない。
 実際、スキルを取るときは結構回数をこなす必要もあったりするから……。

 でも、そうじゃないって、僕は信じたい。
 だから――

「ぐ、ぎ……ぎ……!」

 上から押さえるシンシさんの力が弱まってる内に、この杭を引き抜く……!
 めちゃくちゃ左手が痛いけど、そんなもの知ったことか!
 抜けろ……抜けろ!

「……ぎっ!」
「ひ、姫……?」
「ハァハァ……。仮に、シンシさんが本当に人を殺したことがあるとしたら……」

 立ち上がりながら、インベントリから味付きポーションを取り出して一気にあおる。
 即効性じゃないから一気には治らないけど、大丈夫……かな?
 それにしても、左手……血も出てないのに、穴だけ真ん中に空いてるのって、なんだかすごい変な感じ……。

「シンシさんは、きっとそんなに……驚かないです。いつもみたいに、少し困った顔で笑って、自信にあふれた声で応えてくれるはずです」
「っ、い、いえ、姫が突拍子も無い事を言い出すから、ですよ? 仮にも、PKプレイヤーと組んでる身ですから、そんな殺すことなんて何度も……」
「……その言葉が、本当かどうかは分からないです。でも、さっきも言いましたよね。シンシさんは誰も殺してないって、そうだったら良いなって、僕は思ってるって」
「それは、」

 まっすぐ、彼女の目を見て想いを口にする。
 僕は弱いよ、きっとほとんどの人には負けるくらい弱い。
 でも、だからって、心まで負けてるわけにはいかないから。

 人を殺す――それ自体を、ただ口にすることは簡単。
 誰にだって出来るし、もちろん……したくはないけど僕にだって出来る。
 でも、実際に人の命を奪う……それはすごく難しいことだと思うんだ。
 いや、それ自体はきっと簡単なんだと思う。
 難しいのは……自分の心と折り合いをつけること、かな?

 以前、お爺ちゃんジェルビンさん風化薬爆薬の話を聞いた際、ジェルビンさんが僕に聞いてきた。
 ――これは人を傷つけることもできる薬じゃ。魔物と戦うこととは違う。アキちゃんに、その覚悟はあるのじゃな? と。
 あの時、僕は「覚悟なんて無いし、そんな思いを持ってお薬を作りたくない。僕はお薬を作る事で傷つく人を減らせれれば」って、そんな感じのことを言った。

 実際、今でも人を傷つける覚悟なんて無い。
 でも……守りたいって思う人達を、守るために傷つくぐらいの、そんな覚悟なら――

「僕は……シンシさんは優しい人だって思ってます。きちんと話したのは、あの捕まってる時でしたけど、その時に話してくれたことや、表情は優しさに溢れてたから」

 そういえば、なんであの場所にシンシさんはいてくれたんだろうか。
 シンシさんがPKと組んでいたならば、僕と一緒に2日間も閉じ込められる必要なんて無かったはず……。
 あの時、シンシさんがしてくれたことって――

「シンシさんがあの時、傍にいてくれたのって……もしかして、僕を守るためだったりしないですか? これは本当に想像とか、希望とかですけど……」
「そ、れは……」
「だって、そう考えればあそこにシンシさんがいてくれた意味もわかりますし……実際、シンシさんは僕を守ってくれたから」

 そう、あの時……シンシさんは僕を守ってくれた。
 自分が刺されてもおかしくない状況で、身を挺して。

「もしそうじゃなかったとしても、あの時……僕を守ってくれてありがとうございました。とても、嬉しかったです」
「姫……」

 ポーションの影響かな……なんだか、身体がすごく熱い……。
 正直、立ってるのもやっとなくらいだ。
 なんでだろう……手に穴が空くほどの怪我をしてるからかな……。

「……それでも、シンシさんが人を殺せるって言うのなら」

 無理矢理引き抜いたまま、地面に捨てていたシンシさんの武器を拾い上げ、僕は彼女へと差し出す。
 もちろん、柄を彼女の方へ向けて。

「僕を、殺してみてください」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...