206 / 345
第2章 現実と仮想現実
第207話 複合スキル
しおりを挟む
「私を止めるとは……大きく出ましたね。姫」
風に揺られる腕を、身体に寄せ、安定させるように保持しながら、シンシさんはそう応える。
つまり……棄権する意思は、お互いに無いってことだろう。
「ですが、先ほども申し上げました通り、多少風に動きが妨害されようとも、あなたの攻撃で止まる私ではないのです。……ですが、ここからは少し本気を出させていただきましょう、あなたが棄権すると言うまで!」
「だから、それはしません! 絶対に!」
僕の言葉を締めに、互いの間に響く応酬が、風と剣戟の音に変わる。
鋭く突かれた剣を弾き、即座に返す鎌はまた剣で弾かれ、時折風に巻かれる腕を無理矢理戻しながら、またお互いの立ち位置も入れ替えながら。
「――ハァッ!」
「まだまだー!」
突き、払い、薙ぎ、払い、また突き……互いに決定的な隙を見せることも、また突くことも出来ず、数度目のインターバルを迎える。
正直、ここまで僕が耐えられるとは、僕自身はおろか、相手のシンシさんだって……ましてや、この決闘を見ている他のプレイヤーだって、誰も想像してなかったと思う。
もちろん、僕だけの力で耐えられてるわけじゃない。
シルフの風があればこそ、なんとか耐えられてるんだ。
「――、はぁ……」
「息が、上がり……始めましたね……」
「それは、姫も、同じ……でしょう……」
肩で息をするように、僕らは武器を下ろすこと無く、そんなことを言い合う。
戦い慣れているシンシさんと、慣れていない僕では、戦闘に使える体力に差があるものだけど、その差も、この不規則に吹く風のおかげか、そこまで意識せずに済みそうだ。
でもなんで……僕にはあんまり影響がないんだろう……?
(シルフ、ホントになにもしてない?)
(ええ、もちろんです。アキ様も、そういったことは望んでないみたいでしたので……)
(うーん……。だったらなんでこんなに動けるんだろう……)
考えてもわからないことは、ひとまず置いておこう。
また、そう結論を先延ばしにしつつ、僕は目の前のシンシさんに集中した。
――スキル<集中>、この効果は非常にわかりやすい。
色々と見えるようになるんだ。
今に関して言えば、シンシさんの動きの細部や、息づかいの音なんかが。
だから、タイミングも取りやすくなるし、動きに対して対処がしやすくなる。
きっと調合の時に使えば、細かな変化なんかも分かったりするんじゃないかな?
だから――
「ハァッ!」
「ふ……ッ!」
こうして相手に集中さえしていれば……対処はできる!
……対処は、ね。
「どうしたのですか、姫。私を止めるのでしょう?」
「も、もちろんそうですよ」
「では、そちらから攻めてきてはいかがですか? 先ほどから、反撃の形でしか攻撃されていないようですが。あぁ、もしかすると……攻めることはできないのでしょうか?」
「……うぐ」
まさしく図星だ。
言いよどんだ僕を見て、それを確信したのか、シンシさんは剣を向けたまま口元を歪める。
「もし図星のようでしたら、どうやって止めるおつもりなのでしょうか? 姫?」
「それは、その……」
「勝って止める。そう言いたいのでしょう? ですが、それは無茶な夢というものでしょう。同じ生産メインとは言え、私と違い……複合スキルに目覚めていないあなたに、私を止める術はない。やはり能力の違いが、大人と子供の差。それと等しいのです」
「複合スキル……?」
なにそれ。
いや、詳しく聞かなくても、なんとなくは分かる。
何種類かのスキルを……合体させる的な……そんな感じの事だと、思う。
でも、そんなことって出来るの?
確かにそれが可能なら……シンシさんの戦い方にも納得がいく。
森で見た、針と糸を使った戦い方……あれが複合スキルによるものなら……。
「……姫。そろそろ終わらせましょう」
「そう簡単に、終わると……思わないでくださいね!」
瞬きの後、飛び込んで来る……!
僕の目が、彼女の姿をそう捉えたことに反応して、足を動かそうとした僕は、一瞬だけ何かに足を取られた。
――まるで、糸に足を取られたみたいに。
風に揺られる腕を、身体に寄せ、安定させるように保持しながら、シンシさんはそう応える。
つまり……棄権する意思は、お互いに無いってことだろう。
「ですが、先ほども申し上げました通り、多少風に動きが妨害されようとも、あなたの攻撃で止まる私ではないのです。……ですが、ここからは少し本気を出させていただきましょう、あなたが棄権すると言うまで!」
「だから、それはしません! 絶対に!」
僕の言葉を締めに、互いの間に響く応酬が、風と剣戟の音に変わる。
鋭く突かれた剣を弾き、即座に返す鎌はまた剣で弾かれ、時折風に巻かれる腕を無理矢理戻しながら、またお互いの立ち位置も入れ替えながら。
「――ハァッ!」
「まだまだー!」
突き、払い、薙ぎ、払い、また突き……互いに決定的な隙を見せることも、また突くことも出来ず、数度目のインターバルを迎える。
正直、ここまで僕が耐えられるとは、僕自身はおろか、相手のシンシさんだって……ましてや、この決闘を見ている他のプレイヤーだって、誰も想像してなかったと思う。
もちろん、僕だけの力で耐えられてるわけじゃない。
シルフの風があればこそ、なんとか耐えられてるんだ。
「――、はぁ……」
「息が、上がり……始めましたね……」
「それは、姫も、同じ……でしょう……」
肩で息をするように、僕らは武器を下ろすこと無く、そんなことを言い合う。
戦い慣れているシンシさんと、慣れていない僕では、戦闘に使える体力に差があるものだけど、その差も、この不規則に吹く風のおかげか、そこまで意識せずに済みそうだ。
でもなんで……僕にはあんまり影響がないんだろう……?
(シルフ、ホントになにもしてない?)
(ええ、もちろんです。アキ様も、そういったことは望んでないみたいでしたので……)
(うーん……。だったらなんでこんなに動けるんだろう……)
考えてもわからないことは、ひとまず置いておこう。
また、そう結論を先延ばしにしつつ、僕は目の前のシンシさんに集中した。
――スキル<集中>、この効果は非常にわかりやすい。
色々と見えるようになるんだ。
今に関して言えば、シンシさんの動きの細部や、息づかいの音なんかが。
だから、タイミングも取りやすくなるし、動きに対して対処がしやすくなる。
きっと調合の時に使えば、細かな変化なんかも分かったりするんじゃないかな?
だから――
「ハァッ!」
「ふ……ッ!」
こうして相手に集中さえしていれば……対処はできる!
……対処は、ね。
「どうしたのですか、姫。私を止めるのでしょう?」
「も、もちろんそうですよ」
「では、そちらから攻めてきてはいかがですか? 先ほどから、反撃の形でしか攻撃されていないようですが。あぁ、もしかすると……攻めることはできないのでしょうか?」
「……うぐ」
まさしく図星だ。
言いよどんだ僕を見て、それを確信したのか、シンシさんは剣を向けたまま口元を歪める。
「もし図星のようでしたら、どうやって止めるおつもりなのでしょうか? 姫?」
「それは、その……」
「勝って止める。そう言いたいのでしょう? ですが、それは無茶な夢というものでしょう。同じ生産メインとは言え、私と違い……複合スキルに目覚めていないあなたに、私を止める術はない。やはり能力の違いが、大人と子供の差。それと等しいのです」
「複合スキル……?」
なにそれ。
いや、詳しく聞かなくても、なんとなくは分かる。
何種類かのスキルを……合体させる的な……そんな感じの事だと、思う。
でも、そんなことって出来るの?
確かにそれが可能なら……シンシさんの戦い方にも納得がいく。
森で見た、針と糸を使った戦い方……あれが複合スキルによるものなら……。
「……姫。そろそろ終わらせましょう」
「そう簡単に、終わると……思わないでくださいね!」
瞬きの後、飛び込んで来る……!
僕の目が、彼女の姿をそう捉えたことに反応して、足を動かそうとした僕は、一瞬だけ何かに足を取られた。
――まるで、糸に足を取られたみたいに。
0
お気に入りに追加
1,628
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~
黄舞
SF
無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。
貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。
攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。
他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。
見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。
これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!
そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。
「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」
一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました
毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います
また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています
具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います
イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています
皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m
吉日
運営チーム
大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる