上 下
201 / 345
第2章 現実と仮想現実

第202話 ヤバいやつ

しおりを挟む
「これじゃ相談とか、ほとんどできないね……」
「せやなぁ……」
「ふん。好きに動けばよかろう? 生憎と、お互いの手は知っておるのじゃしの」
「あ、そっか……でも、トーマ君は? 戦ってない?」
「ヤカタとだけ、だな。他の2人は知らんで」
「僕はフェンさんが戦ってるところは知らない……かな」

 整理すればこういうことかな?
 僕は、シンシさん、ヤカタさんの戦い方は知ってる。
 トーマ君は、ヤカタさんの戦い方のみ知ってる。
 リュンさんは、全員知ってる。
 ……ってことだよね?

「なら、分ければ良かろう? 知っておるものなら、対処はしやすい。まぁ、相手にとっても同じではあるがの」
「なるほど……。トーマ君もそれでいい?」
「ま、それしかないやろ。俺もヤカタには借りを返しときたいしな」

 そう言って、トーマ君は右手を握り、左手の平に叩きつける。
 おお、気合い入ってる……。

「……なんじゃ、お主。ヤカタなんぞに負けておったのか。これでは勝てるか心配じゃのぅ?」
「あん?」
「いやはや、アキは生産中心ゆえ、ともかくとして……お主も戦力にならぬと言うのなら、役立たずが増えるだけじゃのぅ」
「……喧嘩売ってんのか?」
「……喧嘩にもならぬよ。一方的過ぎての」
「は?」

 リュンさんの言葉に、トーマ君が反応して……いや、確かに棘がある言い方だったけど……。
 リュンさんがこういう言い方をよくする人っていうのは……初めて会った時から変わってない。
 けど、今回は……相手が……。

「と、トーマ君、落ち着いて! ほら、リュンさんも!」
「俺は落ち着いてんぜ? それに、喧嘩売ってんのはあっちや」
「売る価値もないと言っておろう? 弱いやつほど、すぐ熱くなりおるわ」
「あぁ?」
「なんじゃ?」

 ……もしかしてリュンさん、機嫌悪い?
 けどトーマ君も、結構気が強いタイプだし……言い返しちゃうよね……。
 でも、このままじゃどうしようもないし……よし!

「……2人ともー。そろそろ止めないと、これ。開けるよ?」

 言葉と一緒に、机の上へ叩きつけるように瓶を置く。
 トーマ君はわからないかもしれないけど、リュンさんにはわかるはず。
 ……だって、身をもって体験してるはずだし。

「――ッ! あ、アキ。 落ち着くのじゃ……こんな狭いところでそんなもんをじゃな……」
「あん? なんだよそれ?」
「……腐った下級即効性ポーション」

 僕の言葉に、同じ調薬メンバーのレニーさんが大きな音を立てる。
 ……まぁ、即効性は知っててもおかしくないか。
 そうなると、もちろん腐ってる時の臭いも。

「あ、アキさん。めましょう、それはいけない」
「おやおや、アキ様はなかなかにえげつない」

 引きつった笑みを見せるレニーさんと違い、ツェンさんは面白そうに微笑む。
 ……どうやらツェンさんには、対処可能みたいだ。
 さすがGM、と言うべきかな……。

「そんなにヤバいやつなのか……それ」
「人によっては気絶するかな? 耐えれても、吐き気とかはあるかも」

 その答えに、トーマ君は長く溜息を吐いて、瓶からリュンさんの方へと顔を向け直す。
 そして、僕にしか聞こえないくらいの声で「仕方ねぇか」と呟いた。

「……おい、お前。ちょっと来い」
「お主に指図される筋合いはないのぅ。じゃが、まぁ……お主も出てくるなら、歩み寄る事はしてやらんこともない」
「はっ。まぁ、俺は器がでかいからな? ガキの文句くらい受け流してやるよ」
「ほぅ……」

 ……歩み寄ってる、んだよね?
 むしろ、取っ組み合いのために近づいてるようにしか見えないんだけど……。
 そう思って周りを見てみれば、僕以外のみんなも似たような気持ちなのか、苦笑いなんかを浮かべつつ、2人を見ていた。
 でも、特に何も言わないのは、多分2人の問題だと、そう思っているからかな?

「ふん。ガキのお守りをしとるのは、こっちの方じゃ。儂を見た目通りの女子おなごじゃと思わんことじゃ」
「はっ。そー言うんは、もっと色々と成長してから言うもんやで?」

 ……僕は無言で、再度瓶を机に叩きつける。
 僕の言いたいこと、わかるよね?

「……すまん」
「いや、儂の方こそ……大人げなかったわい」
「……まぁ、子供やしな」
「ほぅ?」
「あ?」

 トーマ君が差し出した手は、和解のつもりの握手……だったはずなんだけど……。
 結局2人は、「そろそろ」と席を立ったツェンさんが、建物を出て見えなくなるまで、睨み合ったままだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。 *旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...