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第2章 現実と仮想現実

第201話 紙切れの上

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「フェン、さん……?」

 フェンさんって、あのフェンさんだよね……?
 リュンさんとほとんど一緒にいる……ちょっと変だけど、優しい人、だよね?

「はっ、あやつ。やはりか」

 軽く笑うような声が、ツェンさんの後ろ……入口の方から聞こえた。
 やはり、ということは……彼女にはわかってたんだろうか。

「……リュンさん、知ってたんですか?」
「薄々と、じゃがな。なに、思えば少し前からあやつの動きは変ではあったしの」
「そう、です? 僕にはわからなかったですけど……」
「仕方あるまい。儂とて、違和感に気付いたのは、今日になってからじゃ。それに、その違和感も、きっとわざとじゃろうて。儂に、と伝えるための、の」

 リュンさんが、どのタイミングの話をしているのかはわからないけれど、フェンさんはわかってたんだろう。
 リュンさんなら、言わなくても何となくで察してくれるってことを。

「リュンさんは、それで……良いんですか?」
「はん? 何がじゃ?」
「リュンさんが、敵に回って……」

 2人の関係は、言ってみれば僕とシルフの関係に近い。
 家族とか、兄弟とか、友達とか……恋人とかとはまたちょっと違う。
 2人だけの特別な関係。

「僕だったら、嫌です……」
「ふん。相変わらず甘いのぅ。儂とフェンの関係なんぞ、所詮紙切れの上に、連続して名前があった。その程度の関係よ」
「紙切れ……?」
「……お主にはいずれ話す。じゃから、今は気にするでない」
「そう、ですか……」

 僕の言葉を最後に、リュンさんも……誰も何も話さない。
 しかし、そんな静寂は……手を叩くような破裂音と共に、破られた。

「はい。皆様、何にせよこれで3人目もご紹介致しましたので、私はここで……」
「ち、ちと待てや。なんでこいつが3人目なんや? なんかしたんか?」
「ああ、その説明をしていませんでしたね。申し訳ございません」

 立ち上がりかけた身体を椅子の上に戻し、ツェンさんは僕らに教えてくれた。
 なんでも、リュンさんが僕を逃がす際、倒したPKの数が一番多かったらしい。
 しかも、そのおかげでこっちに来るPKの数も減っていたってことみたいで……。

「そして、フェン様は、アキ様を目立たせ、物事を大きくする動きをしていた事。また、アキ様と共にいたシンシ様の情報をウォン様に伝えなかったこと……など、おふたりとも、間接的とはいえ、この状況を作った張本人ではあるため、ですね」
「ふん、その通りじゃ。普段のあやつなら、聞いただけ……なんぞの状態で調査を終わらせるはずがない」
「だから変……だった?」
「他にも細々と、の」

 ウォンさんっていうのは、多分あの時逃がしてくれた男性だと思う。
 だとすると……確かに、あの人が知っていれば、シンシさんに対してはあの時点で対策することも出来ただろうし、そうすれば森での妨害もなかった。
 森で妨害されなければ、拠点に帰る途中でヤカタさんに会うこともなかった可能性が高い……。

「あやつは儂らの中でも、情報を操る事に長けておる。どうすれば、どうなるか、とのぅ」
「まるで……」
「俺みたい、か? それは違うちゃうでアキ。俺はな、俺の為に動いてんのや。誰かの為なんかやない。俺はいつだって、俺の為やで」

 僕の言葉を継ぐように、トーマ君がそんなことを僕に言う。
 でも、それだと……あの雨の森で。
 なんで、トーマ君は……僕の心配を、してくれたんだろう。

「……アキ?」
「……ん、ううん。大丈夫、なんでもない」
「なんや……?」
「それより、その決闘っていつやるんですか?」

 心配そうに見てくるトーマ君に手を振って、ツェンさんに質問を投げかける。
 横目で少し確認すれば、トーマ君はなんだか少し腑に落ちないような顔をしていたけど……それは気にしないことにした。

「そういえば、それを伝えておりませんでした。いや失敬」

 ポン、と握りった手をもう片手の平に乗せ、ツェンさんは曖昧に笑う。
 ……これは絶対、忘れてたね……?

「ええと……この後20時に、少し告知もありますのでその際に。場所が離れていても大丈夫なように、プレイヤー様専用の隔離空間を使って行う予定です」
「プレイヤー専用ってことは、その……」
「ああ、大丈夫ですよ。アキ様の心配はごもっともですが、今回はその辺りも対応させていただいてますので」
「よ、よかった……」

 ツェンさんの返答に、僕はそっと胸をなで下ろす。
 いざ戦うってなった時に、シルフがいなかったら……ホントに、役に立てないだろうし……。
 でも、20時って……。

「……20時って、あと10分やんか!」
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