196 / 345
第2章 現実と仮想現実
第197話 動き出した
しおりを挟む
「多分、そろそろかな」
吹き荒れる台風の、その目の中で休んでいた僕は、自分の感覚を頼りにそう呟く。
1分程度だったけど、その間はシルフに現状を説明したり、ラミナさんの背もたれになったり……。
……僕は休めてなかった気がしてきた。
「アキ」
「ん?」
「……何があるの?」
「んー……確証は無いけど、たぶん助けが来るよ」
「助け……?」
僕の言葉が理解出来ていないみたいに、ラミナさんは同じ言葉を繰り返す。
<予見>スキルで感じる……見える? のは感覚的なものに近いから、説明が難しいんだよね。
だから僕は「もうすぐわかるよ」なんて言って、ラミナさんの手を取って立たせた。
「シルフ、拠点側の風を少し弱めて貰える?」
「はい、大丈夫だと思います」
「うん、ありがとう」
真っ暗な夜闇のなかで光る炎。
激しく響く声と、剣撃の音。
……そして、この暴風。
――きっとトーマ君なら、気付いて
「――アキ! 出てこい!」
そう言って呼んでくれるはずだ。
◇
「っはー……疲れた……」
「お疲れ様。トーマ君、ありがとう」
「俺やない。みんなに言っといてくれ」
「それはもちろん。でも、トーマ君も、だよ」
「……そか」
あの後、助けに来てくれたトーマ君やみんなと合流して、一気に拠点内部まで走り抜けた僕らは、ひとまず落ち着くために、PK対策本部と書かれた暖簾をくぐり、各々で休息を取っていた。
シルフがいるからか、拠点の防衛は風に任せて、雨を降らせていたカナエさんも、休憩に入っているらしい。
というか、あの広範囲を数時間って……大丈夫だったの……?
僕はカナエさんとはまだ会えてないから、人づてに「大丈夫」としか聞かされてないんだけど……。
「アキ。考えるんは必要やけど、今は休め」
「うぐ……」
「PK共が動き出したんは昼。やけど、お前は多分今日1日ずっと気張ってたんやろ? そないなやつの思考がマトモな訳がない。つーことで、休め」
「……はぁ」
「ま、それに心配せんでも、もう今日中はやつらの動きは無いやろ」
「そうなの?」
「……誰も好き好んで、死にやすい環境に身は置かんやろ。普通は」
そう言って、トーマ君は僕から視線を外し、外へと繋がる暖簾の方を見た。
なるほど……。
すでに、防衛のための手は打ってあるってことなんだね。
なら……まぁ……お言葉に甘えて……。
「少しだけ、休む、よ……」
言葉にした瞬間、襲ってくる眠気に抗えず、僕は意識を手放した。
あ……ログアウト、すればよかったなぁ……。
◇
「……キ、アキ……起きろ。アキ」
「ん……んぅ……?」
「休んどる最中にすまんな。お客さんや」
「お客、さん……?」
トーマ君の声に気付き、僕はゆっくり目を開ける。
体を起こしてから気付いたけど、ベッドに移されてる……椅子に座ってたはずなのに……。
「アキにだけってわけやないけどな」
「ん、わかった……。ちょっと待ってて、すぐいく……」
僕の言葉に、トーマ君も「りょーかい」と、いつもみたいに軽く返して、僕のそばから離れる。
彼が歩いていった方を見れば、なるほど……簡易的に区切って作った部屋なのか、衝立のようなものが立てられていた。
データで作られてる世界のはずなのに、寝起きの目はなかなか焦点があわず、ボヤけて見えるのが、なんだか少し面白かった。
「……シルフ」
「はい。お呼びですか、アキ様」
少しはっきりしてきた視界のなかに、緑色の少女が現れる。
同時に、ふわりと風が少し舞って、僕の髪を揺らした。
「……」
「アキ様?」
「来てくれて、ありがとう」
彼女の髪に、頭の上に手を伸ばして、優しく撫でる。
「あの時はバタバタしてて、ちゃんと言えなかったから」
本当は、お礼をする側が、こんなことをするものではないんだろうけど……。
彼女が、気持ち良さそうに微笑んでくれるなら、別にいいよね?
「だから、ありがとう」
「アキ様……」
簡易的に作られた部屋――つまり、音なんて外から聞こえててもおかしくない。
でも、誰も……この部屋には入ってこない。
それ以上に、音のひとつも……たてないようにしてくれている。
「シルフが来てくれなかったら、きっと僕らは負けていた。そして、トーマ君が来るまで耐えられなかった。むしろ、気付いてすら貰えなかったかもしれない」
「……」
「僕は弱い。シルフも知ってると思うけど……すっごく弱い」
「それは……えっと……」
僕の言葉に、微笑んでいた顔が、なんとも言えない……苦笑交じりの顔に変わる。
でも僕は、それをあえて見ないふりをしつつ、言葉を繋いだ。
「けど、強くなるよ。今日みたいな事があっても、自分だけじゃ無くて、ラミナさんも守れるくらいに、強くなる。……だから、それまではさ」
変な緊張がはしり、咄嗟に撫でていた手を止めて、深呼吸をひとつ。
そうだ……僕が彼女に伝えたいのはこれだけなんだ。
「だから、それまではさ、僕と一緒にいて欲しいんだ。僕は……シルフと一緒に成長していきたい」
「アキ様……」
「これからもよろしくね、シルフ」
返事は小さすぎてよく聞こえなかったけれど、下ろした僕の左手に彼女の手が繋がれた。
その温もりがひどく優しくて、僕は自然と、彼女を抱きしめていた。
吹き荒れる台風の、その目の中で休んでいた僕は、自分の感覚を頼りにそう呟く。
1分程度だったけど、その間はシルフに現状を説明したり、ラミナさんの背もたれになったり……。
……僕は休めてなかった気がしてきた。
「アキ」
「ん?」
「……何があるの?」
「んー……確証は無いけど、たぶん助けが来るよ」
「助け……?」
僕の言葉が理解出来ていないみたいに、ラミナさんは同じ言葉を繰り返す。
<予見>スキルで感じる……見える? のは感覚的なものに近いから、説明が難しいんだよね。
だから僕は「もうすぐわかるよ」なんて言って、ラミナさんの手を取って立たせた。
「シルフ、拠点側の風を少し弱めて貰える?」
「はい、大丈夫だと思います」
「うん、ありがとう」
真っ暗な夜闇のなかで光る炎。
激しく響く声と、剣撃の音。
……そして、この暴風。
――きっとトーマ君なら、気付いて
「――アキ! 出てこい!」
そう言って呼んでくれるはずだ。
◇
「っはー……疲れた……」
「お疲れ様。トーマ君、ありがとう」
「俺やない。みんなに言っといてくれ」
「それはもちろん。でも、トーマ君も、だよ」
「……そか」
あの後、助けに来てくれたトーマ君やみんなと合流して、一気に拠点内部まで走り抜けた僕らは、ひとまず落ち着くために、PK対策本部と書かれた暖簾をくぐり、各々で休息を取っていた。
シルフがいるからか、拠点の防衛は風に任せて、雨を降らせていたカナエさんも、休憩に入っているらしい。
というか、あの広範囲を数時間って……大丈夫だったの……?
僕はカナエさんとはまだ会えてないから、人づてに「大丈夫」としか聞かされてないんだけど……。
「アキ。考えるんは必要やけど、今は休め」
「うぐ……」
「PK共が動き出したんは昼。やけど、お前は多分今日1日ずっと気張ってたんやろ? そないなやつの思考がマトモな訳がない。つーことで、休め」
「……はぁ」
「ま、それに心配せんでも、もう今日中はやつらの動きは無いやろ」
「そうなの?」
「……誰も好き好んで、死にやすい環境に身は置かんやろ。普通は」
そう言って、トーマ君は僕から視線を外し、外へと繋がる暖簾の方を見た。
なるほど……。
すでに、防衛のための手は打ってあるってことなんだね。
なら……まぁ……お言葉に甘えて……。
「少しだけ、休む、よ……」
言葉にした瞬間、襲ってくる眠気に抗えず、僕は意識を手放した。
あ……ログアウト、すればよかったなぁ……。
◇
「……キ、アキ……起きろ。アキ」
「ん……んぅ……?」
「休んどる最中にすまんな。お客さんや」
「お客、さん……?」
トーマ君の声に気付き、僕はゆっくり目を開ける。
体を起こしてから気付いたけど、ベッドに移されてる……椅子に座ってたはずなのに……。
「アキにだけってわけやないけどな」
「ん、わかった……。ちょっと待ってて、すぐいく……」
僕の言葉に、トーマ君も「りょーかい」と、いつもみたいに軽く返して、僕のそばから離れる。
彼が歩いていった方を見れば、なるほど……簡易的に区切って作った部屋なのか、衝立のようなものが立てられていた。
データで作られてる世界のはずなのに、寝起きの目はなかなか焦点があわず、ボヤけて見えるのが、なんだか少し面白かった。
「……シルフ」
「はい。お呼びですか、アキ様」
少しはっきりしてきた視界のなかに、緑色の少女が現れる。
同時に、ふわりと風が少し舞って、僕の髪を揺らした。
「……」
「アキ様?」
「来てくれて、ありがとう」
彼女の髪に、頭の上に手を伸ばして、優しく撫でる。
「あの時はバタバタしてて、ちゃんと言えなかったから」
本当は、お礼をする側が、こんなことをするものではないんだろうけど……。
彼女が、気持ち良さそうに微笑んでくれるなら、別にいいよね?
「だから、ありがとう」
「アキ様……」
簡易的に作られた部屋――つまり、音なんて外から聞こえててもおかしくない。
でも、誰も……この部屋には入ってこない。
それ以上に、音のひとつも……たてないようにしてくれている。
「シルフが来てくれなかったら、きっと僕らは負けていた。そして、トーマ君が来るまで耐えられなかった。むしろ、気付いてすら貰えなかったかもしれない」
「……」
「僕は弱い。シルフも知ってると思うけど……すっごく弱い」
「それは……えっと……」
僕の言葉に、微笑んでいた顔が、なんとも言えない……苦笑交じりの顔に変わる。
でも僕は、それをあえて見ないふりをしつつ、言葉を繋いだ。
「けど、強くなるよ。今日みたいな事があっても、自分だけじゃ無くて、ラミナさんも守れるくらいに、強くなる。……だから、それまではさ」
変な緊張がはしり、咄嗟に撫でていた手を止めて、深呼吸をひとつ。
そうだ……僕が彼女に伝えたいのはこれだけなんだ。
「だから、それまではさ、僕と一緒にいて欲しいんだ。僕は……シルフと一緒に成長していきたい」
「アキ様……」
「これからもよろしくね、シルフ」
返事は小さすぎてよく聞こえなかったけれど、下ろした僕の左手に彼女の手が繋がれた。
その温もりがひどく優しくて、僕は自然と、彼女を抱きしめていた。
0
お気に入りに追加
1,627
あなたにおすすめの小説
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
けもみみ幼女、始めました。
暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。
*旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。
チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!
しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。
βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。
そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。
そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する!
※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。
※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください!
※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜
黄舞
SF
「お前もういらないから」
大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。
彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。
「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」
「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」
個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。
「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」
現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。
私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。
その力、思う存分見せつけてあげるわ!!
VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。
つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。
嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる