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第2章 現実と仮想現実
第190話 後ろに付け
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今回の話は、アル視点となります。
次回もアル視点になります。
――――――――――――――――
「――――!」
人が100人以上入っても余裕のありそうな空間に、低く力強い声が響き渡る。
その声だけでもわかる。
……こいつは、強い、と。
「皆、迂闊に攻めるなよ」
「あぁ、こりゃヤベェわ。前にやった狼なんかの比じゃねぇ」
「……この揺れって、まさかあいつが原因じゃないわよね?」
「そう、思いたいがな」
ズン、と音がする度に、地面が小刻みに揺れる。
遠いと思っていた敵が、ものの数秒でその距離を縮め……その巨体を眼前に晒した。
光るように輝く、薄緑色の鬣は、一本一本が宝石のようにみえ、恐怖よりも先に、不思議と美しさを感じてしまう。
――風を纏いし巨躯の獅子。
それが、今回潜っている、風の神殿のボスだ。
「しかしアルよぉ……。どうやって攻めるよ?」
「そう、だな……。俺とジンで二手に分かれよう。あの大きさだ、下手に固まって一掃されるよりも、リスクを減らした方が良い」
「了解だ。右前足、貰うぜ!」
「スミスさんは、魔術師の2人を頼む」
「わ、わかりました!」
敵の大きさに多少緊張が戻ってきたのか、少し表情が硬いが……問題はないだろう。
そう結論付けてから、ジンへと視線を送り……言葉を交わすこともなく、飛び出した。
……さすがジン、タイミングは完璧だな。
「ハァッ!」
飛び込む速度を手に持った大剣に乗せ、両断するつもりで足へと叩きつける。
しかしその刃は断ち切るどころか、肉にすら到達していない。
「くっ!」
「硬ぇ!」
横目で確認したが、ジンも同じ状況のようだ。
柔らかそうに見える薄緑色の毛……だが、実際はその毛に攻撃を全てガードされている。
……毛のあるところは難しいか……?
「だが、そうなると……!」
狙うべきは腹や、首。
しかし、その場所は……高すぎてまず手が届かない……!
リアに足場を作らせるか……?
だがそれだと、壊されるのが容易に想像出来る。
「なら狙うべきは……!」
――ただ一点のみ!
「ジン! 俺の後ろに付け!」
「おう!」
「スミスさんは前へ! リア、タイミ「わかってるわ」……頼む!」
指示を出しつつも、獅子の左前足を斬り続ける。
弾かれもするが……どうやら砕けなくはないようだ。
もっとも、毛の1本や2本……砕いたところで、痛くもないみたいだがな!
だが――!
「っ来い!」
「――――ッ!」
振り上げられた左前足が、俺目がけて叩きつけるように落ちてくる。
まるで吸い込まれるかのような風圧……受け損なえば、確実に。
「――〔天を貫く砂礫の塔〕!」
突如、俺の真横に塔が立つ。
……リア、完璧だ!
「ハァッ!」
塔を砕きながら、それでも止まらない前足に盾のように大剣を構え、真っ向から受け止める。
直後、振動が波のように身体を突き抜け……左膝が、地面へと叩きつけられた。
「ぐ、ぅ……っ!」
長くは……持たない!
「オラァ!」
「フンッ!」
かろうじて受け止めている俺の前方で、ジンとスミスさんの声が聞こえてくる。
それと同時に、獅子の腕が軽くなり……俺は機を逃さないよう、一気に押し返した。
「――ッ!?」
相変わらず轟音すぎて音としか判別出来ない声だが……今のはさすがに驚いたらしい。
まぁ、さすがに肉球は柔らかかったみたいだな。
「しかし……」
先ほどのように、力押しで来る事はもう無いだろう。
こいつとて、今の痛みで多少警戒するだろうしな。
「こっからが長期戦だなぁ」
「ああ」
「とりあえず、どうするよ。まだ腕狙いで良いか?」
「そうだな……。現状、相手の攻撃手段に何があるか分からない。マージンを確保しながら散発的に攻撃を続けよう」
「りょーかい!」
その言葉を皮切りに、ジンが動き、スミスさんは後ろへと退がった。
ジンの言う通り……長期戦、ここからが本番だ。
さて、どう出てくるか……!
次回もアル視点になります。
――――――――――――――――
「――――!」
人が100人以上入っても余裕のありそうな空間に、低く力強い声が響き渡る。
その声だけでもわかる。
……こいつは、強い、と。
「皆、迂闊に攻めるなよ」
「あぁ、こりゃヤベェわ。前にやった狼なんかの比じゃねぇ」
「……この揺れって、まさかあいつが原因じゃないわよね?」
「そう、思いたいがな」
ズン、と音がする度に、地面が小刻みに揺れる。
遠いと思っていた敵が、ものの数秒でその距離を縮め……その巨体を眼前に晒した。
光るように輝く、薄緑色の鬣は、一本一本が宝石のようにみえ、恐怖よりも先に、不思議と美しさを感じてしまう。
――風を纏いし巨躯の獅子。
それが、今回潜っている、風の神殿のボスだ。
「しかしアルよぉ……。どうやって攻めるよ?」
「そう、だな……。俺とジンで二手に分かれよう。あの大きさだ、下手に固まって一掃されるよりも、リスクを減らした方が良い」
「了解だ。右前足、貰うぜ!」
「スミスさんは、魔術師の2人を頼む」
「わ、わかりました!」
敵の大きさに多少緊張が戻ってきたのか、少し表情が硬いが……問題はないだろう。
そう結論付けてから、ジンへと視線を送り……言葉を交わすこともなく、飛び出した。
……さすがジン、タイミングは完璧だな。
「ハァッ!」
飛び込む速度を手に持った大剣に乗せ、両断するつもりで足へと叩きつける。
しかしその刃は断ち切るどころか、肉にすら到達していない。
「くっ!」
「硬ぇ!」
横目で確認したが、ジンも同じ状況のようだ。
柔らかそうに見える薄緑色の毛……だが、実際はその毛に攻撃を全てガードされている。
……毛のあるところは難しいか……?
「だが、そうなると……!」
狙うべきは腹や、首。
しかし、その場所は……高すぎてまず手が届かない……!
リアに足場を作らせるか……?
だがそれだと、壊されるのが容易に想像出来る。
「なら狙うべきは……!」
――ただ一点のみ!
「ジン! 俺の後ろに付け!」
「おう!」
「スミスさんは前へ! リア、タイミ「わかってるわ」……頼む!」
指示を出しつつも、獅子の左前足を斬り続ける。
弾かれもするが……どうやら砕けなくはないようだ。
もっとも、毛の1本や2本……砕いたところで、痛くもないみたいだがな!
だが――!
「っ来い!」
「――――ッ!」
振り上げられた左前足が、俺目がけて叩きつけるように落ちてくる。
まるで吸い込まれるかのような風圧……受け損なえば、確実に。
「――〔天を貫く砂礫の塔〕!」
突如、俺の真横に塔が立つ。
……リア、完璧だ!
「ハァッ!」
塔を砕きながら、それでも止まらない前足に盾のように大剣を構え、真っ向から受け止める。
直後、振動が波のように身体を突き抜け……左膝が、地面へと叩きつけられた。
「ぐ、ぅ……っ!」
長くは……持たない!
「オラァ!」
「フンッ!」
かろうじて受け止めている俺の前方で、ジンとスミスさんの声が聞こえてくる。
それと同時に、獅子の腕が軽くなり……俺は機を逃さないよう、一気に押し返した。
「――ッ!?」
相変わらず轟音すぎて音としか判別出来ない声だが……今のはさすがに驚いたらしい。
まぁ、さすがに肉球は柔らかかったみたいだな。
「しかし……」
先ほどのように、力押しで来る事はもう無いだろう。
こいつとて、今の痛みで多少警戒するだろうしな。
「こっからが長期戦だなぁ」
「ああ」
「とりあえず、どうするよ。まだ腕狙いで良いか?」
「そうだな……。現状、相手の攻撃手段に何があるか分からない。マージンを確保しながら散発的に攻撃を続けよう」
「りょーかい!」
その言葉を皮切りに、ジンが動き、スミスさんは後ろへと退がった。
ジンの言う通り……長期戦、ここからが本番だ。
さて、どう出てくるか……!
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