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第2章 現実と仮想現実

第186話 強くなったから

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 森から拠点へと続く平原を、少し駆けるくらいの速度で抜けていく。
 少しゆっくりな速度がもどかしいけど、ラミナさん曰く「即対応できる速さ」というものらしい。
 その意味は、すぐに僕にも理解ができた。
 ……拠点に近づくほどに聞こえてくる、音の大きさで。

「……なに、これ」
「鉄同士の音もしてるから、まだ拮抗してる」
「金髪の人が指揮してるのかなー? すごいね!」
「金髪……トーマ君、無事かな」

 あの念話では、かなりギリギリの状態だった。
 でも、その後にアルさんに連絡をしてたみたいだから、多少は持ち直してるのかな……。
 でも、それでも……

「早く、行かないと……!」
「……待って」
「え?」
「姉さん」
「わかってるよー! やっぱりって感じだね!」

 速度を上げようとした僕を止めて、ラミナさんはハスタさんを呼んだ。
 けど、ハスタさんも呼ばれるのが分かってたみたいに、ラミナさんの横……つまり、僕よりも前に出てきていた。

「やっぱりって、何が?」
「数人、向かってくる」
「数人……。もしかして、敵ってこと!?」
「多分そう」

 前方に意識を集中したまま、ラミナさんは僕の質問に答えてくれる。
 後になって知ったことだけど、2人はこのときすでに<気配察知>のスキルを持ってたみたい。
 あの4人のPKと出会った後、イベントまでの間、森で訓練して。
 ……あの時の出来事は、2人にとっても、心を動かす出来事になっていたみたいだ。
 けれど、今の僕はそんなことも知らず、身構えた2人に倣って、草刈鎌を片手に心を落ち着ける事に必死だった。

「……近い」
「音が近づいてる……なんだろ、不思議な音がしてる?」
「多分、靴。他にも複数ある」
「戦闘がもし始まったとしても、アキちゃんは拠点を目指して走ってね。アキちゃんはここで足を止めてる訳にはいかないから」

 手に持った槍の穂先を、ぐるりと上下に回しながら、ハスタさんはそんなことを言う。
 そういえば、ラミナさんも……そんなことを言ってたような……。

「でも……」
「大丈夫。私とラミナは強いよー! ……強くなったから」
「そう。ラミナ達は大丈夫」
「2人とも……」

 そんな話をしている間にも、足音は近づいてくる。
 なんだろう……?
 妙に軽くて不思議な足音が1つ……なんだかリュンさんの下駄みたいな音……?

「下駄……?」
「ん? アキちゃん、どうかした?」
「いや、この音って……リュンさんの下駄の音に似てるなーって」
「……確かに」

 でも、リュンさんは、まだ僕らより後ろの森にいるはず。
 だから前から来るのはおかしいけど……。

「そういえばもう1人……下駄の人がいたっけ」

 僕が会ったのは数回だけ。
 けど、初めて会った日にも、リュンさんの音に似てるって思ったんだ。

「……ヤカタさん」
「あぁ、こんなところで何をしてるんだ? お嬢」

 視界に現れたヤカタさんは、軽い口調でそんなことを聞きながらも、僕たちの方へゆっくり近づいてくる。
 近づくほどに鮮明に見えてきた作務衣は少し汚れていて、まるで作業場から抜け出してきたみたいに見えた。
 
「もう暗いですから、拠点に戻るところなんです。……ヤカタさんの方は?」
「俺はもう少し作業が残っててな。今、材料を集めてるところだ」
「そうですか。では、僕らは拠点に戻りますね」

 激しくなる鼓動を隠しながら、焦りを見せないよう……すれ違うようにゆっくり進む。
 ……このまま手を出さないで欲しい……!
 けれどそんな僕の願いは、真横で響いた音で、軽々と壊された。

「材料は動くなよ。……俺は大雑把だからな。よく手元が狂って、壊すんだ」
「ッ姉さん!」
「任せてっ!」

 僕の真横に放たれた大槌を、ラミナさんが盾で防ぎ、それに呼応するように、横からハスタさんが一撃を放つ。
 時間差なく繰り出された一撃は、まさしく双子らしく……まるでお互いの思考がわかってるみたいだった。

「ほぅ……速い、が甘い」

 ヤカタさんは一歩退がりながら、手に持った大槌の柄尻でハスタさんの槍を防ぐ。
 そして、流れるように退げた一歩を踏み込み……

「速いだけで芯がブレている」
「なっ!?」
「一撃ってのは、こういうのを言うんだ!」
「姉さん!」
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