上 下
183 / 345
第2章 現実と仮想現実

第184話 猿マネ程度

しおりを挟む
 今回の話も、トーマ視点となります。
 次からはまたアキに視点がもどります。

――――――――――――――――

「さっきより反応が鈍いな!」
「――クッ、ソ!」

 立ち上った砂煙から出てきたアル。
 その姿をした男の動きは、あの訓練所で戦ったアルの動きと、ほとんど同じ……!
 むしろ、あん時よりも強い……投影したのがあれ以降のアルだからか!?

「トーマ。お前は強い……特に一対一で、ある程度動き回れる広さがあれば尚更だ。一発毎に離れるヒットアンドアウェイや、投剣による牽制。さらに、その俊敏性を活かしたアクロバティックな動き。それらを混ぜることで生まれる、戦いのペース掌握」
「……何が言いたい」
「なに。それ故に弱点が分かりやすいという事だ。……こんな風に、武器の間合いを抜けられない状況とかな!」
「チィッ!」

 余裕そうな顔で放たれた大剣を逸らし、逆の手で弾き飛ばすように間合いを開ける。
 さらに時間を稼ぐためのダガーを投げつければ……!

「ぬるい!」
「クソがッ!」

 投げたダガーの先端に、大剣の先端をずらし当て、男はまっすぐに距離を詰める。
 そのまま突き出された大剣を、身をひねって躱し、すれ違うように場所を入れ替えた。
 こいつ、無駄がなさ過ぎる……!

「けど、それだけや……!」
「――ッ!?」
「ホンマのアルは……もっと強え!」

 少しばかり面食らって、攻めのタイミングが掴めんかったが……もう落ち着いた。
 あん時よりも強いアル……だからなんや!
 俺かて、あん時より強くなっとる!

「せやから……猿マネ程度の奴に、負けるわけにいかんのや!」
「なっ!?」

 アルの武器は大剣……やけど、盾を兼任しとる関係で、本来のソレよりは堅く、重く作られとる!
 だから、攻めるんなら……重心を下げ、深く地面を蹴り飛ばす。
 アルの腰よりもっと下、地面に胸が擦る直前のギリギリ……!

「もっと……もっとや!」

 振り下ろされた大剣を、左手のダガーで逸らし……反動で斜めになった身体を無理矢理前へと進める。

「もっと、アイツは強ぇ!」
「――ッ!?」

 腕を伸ばさなくても拳が触れるほどの距離。
 そこまで近づいて……右手のダガーを下から上へと振り抜く。
 
「でも、俺の方がもっと強ぇ!」
「――ハッ!?」

 高く飛ぶように振り抜いたダガーは、男の足から胸を切り裂き肩口に抜ける。
 見た感じは致命傷……やけど、手に伝わる感覚じゃ、まだ……少し足りない。

「なん、なんだよ……お前……」
「なんや、顔から余裕が消え取るで。そんなもんか」
「……!」

 防具に大きく傷が出来たからか……?
 男の変装が解け、よろけるように後ろへと尻を落とした。

「ひとつ、聞きたいことがある」
「なん、だよ……」
「なんでアキを狙った? 拠点を襲う事と、あいつを攫うんは関係が無いやろ」

 アキがいたところで、戦闘で何か障害になるわけでも無い。
 それよりも、拠点に攫う事で、人手を割く必要も出てくる。
 正直……無駄を増やすだけや。

「……なぁ、なんでや」
「……さぁ?」
「は……?」

 雰囲気に合わない軽い返答に、思わず緊張の糸が切れる。
 そんな俺の油断を狙っていたのか、男が一瞬の内に俺から距離を取った。
 持っていた大剣を壁にするように、俺の方へと投げながら――。

「ッ!?」

 一瞬、迫る大剣に目を閉じた隙に、男の姿が消える。
 あかん、またや!
 先に縛り上げて、話なんかそれからすれば良かったんや!

「俺は何回……! 今日だけで何回しくじればええんや!」
「……多分、次で最後じゃないかな?」
「なっ!?」

 後ろから聞こえた声に、振り向こうと身体を回した直後、俺の眼前に刃が置かれる。
 ……女の声、それも良く知った声やった。
 2人目……やない、突き付けられた殺気が、さっきまでと同じや。

「……猿マネ出来るんは、男だけやないんか?」
「そんなこと言ってないでしょ? トーマ君が、勝手に勘違いしただけだし……」

 目の前に突き付けられたんは、ノミ。
 いつでも打てるように、木槌もしっかり構えとる。

「当たり前で偽もんやと分かるやつになって、どうすんや。本物かどうか悩ませるのが、お前の真骨頂やろ?」
「んー、そうなんだけどね。ただ……バレちゃってる今なら、僕の方が良いと思って」
「……殴れへんと。そう思っとるんか?」

 俺のその問いかけに、困ったような笑みで返す。
 言葉に詰まったら笑うところも……よう見とるわ。

「確かに、殴るんは気が引ける。仮にも・・・女なわけやしな? 俺はあんまし性別を意識はせんようにしとるが……かといって弱いやつを好き好んで殴りたいわけでもない」
「仮にもって……」
「やけど……。もし道を間違えとると分かれば、真っ先にぶん殴ったる。それが友達ってやつやからや!」
「は……?」

 言い終わると同時に、ダガーを指で上へ投げる。
 狙いはノミ……その先端と俺の目の間!
 ミスなんて考えなくてもええ!
 考えるんはひとつ……俺なら出来るってこと、それだけや!

「なっ!? ダガー!? どうやって!?」
「余所見……すんなよ!」

 ダガーを投げてフリーになった右手でノミ!
 ダガーを持った左手で木槌!
 両方を抑え、作った空間に、額をねじ込む!

「――がッ!?」
「だから、俺は……殴る! たとえそれが、アキやったとしてもや!」

 頭突きで浮いた頭目がけて、右足を振り上げる。
 殺さない程度に……かつ、確実に意識を刈り取るために……!

「これで、仕舞いや!」
「――ッ!?」

 振り上げ、横から叩き込んだつま先が、相手の顔へ綺麗に入る。
 勢いを殺さないよう、軸足を回しながら振り抜けば……数拍遅れて、地面から鈍い音が響いた。

「……それにアキやったら……。仮にも女……なんての、認めへんやろ。……男やからな」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,137pt お気に入り:566

異世界もふもふ召喚士〜白虎と幼狐と共にスローライフをしながら最強になる!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:917pt お気に入り:1,456

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,646pt お気に入り:4,148

アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:362

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:91

お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:384

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:1,553

処理中です...