採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥

文字の大きさ
上 下
174 / 345
第2章 現実と仮想現実

第175話 名乗る名などない

しおりを挟む
「そんな……僕が……」

 僕と一緒にいたばかりに、みんなが……。
 僕が、僕が全部……。

「――ッ!」

 耳元で音が弾けた。
 それと同時に、頬が熱く……いや、これは痛み……?

「落ち着いてください。姫」
「……え?」
「失礼を承知で、頬を叩かせていただきました。申し訳ございません」

 あぁそうか……。
 この痛みは、頬を手で叩かれたからか……。

「姫が少々……いえ、大分取り乱しておいででしたので。お声おかけしましたが反応も無く、荒療治を取りました」
「ん、大丈夫。ありがとうございます……」
「いえ、こちらこそ。思いのほか強く叩いてしまい、申し訳ございません」

 捕らわれた部屋の中、2人向き合って頭を下げる。
 その光景がなんだかおかしくて、少しだけ気が楽になったと共に、以前アルさんと森に行ったときのことを思い出した。
 あの時もたしか、鹿に出会って取り乱して……アルさんに水を掛けられたんだっけ。

「……成長しないな。僕も」
「姫?」
「ううん、なんでもない。それより、ここからのことを考えよう」

 頷いたシンシさんと共に、扉から静かに離れる。
 また何かされても困るし……。
 それに、この後の相談を聞かれても困るから。

「ここなら見えにくいかと。念のために姫は私の影に隠れるように」
「うん。ありがとう」
「いえ……。それよりもあいつらですが……離れないとなると厄介ですね」
「そうだね……。でも、さっき言ってた通り、僕の友達を狙う予定なら絶対に離れるタイミングはあると思うんだけど……」
「それが、当初狙っていたタイミングとずれると難しいですね」
「うん……」

 もし交代するような形で離れるってことになると、元々狙っていた手薄な時間を狙うってことも出来ない。
 かといって、今無理矢理出たとしても、あの4人を相手するのは……。

「勝たなくてもいい……。逃げられれば……」
「最悪、姫だけでも逃げる方法はあります」
「……それって」
「えぇ、姫も分かってる通り……私が姫を殺すことです。そうすれば、姫は拠点で復活出来る」
「そうだけど……それじゃシンシさんが……」

 仮にそれで戻れたとしても、残ったシンシさんが何をされるかわからない……。
 それに、すぐに復活出来るわけじゃないし、復活直後はあの筋肉痛。
 正直、本当にどうしようも無いときの最終手段……だなぁ。

「その手段を取らなくて済むように考えましょう。僕はシンシさんに、必要だったとはいえ、人を殺して欲しくない」
「姫……ですがそれでは」
「うん。今の状態だったら無理」

 扉の向こうの4人がいなくなるか、もしくは何か別の手が降ってこない限りは……。
 最初の1回、一瞬だけなら怯ませる方法はある。
 けど、それも対応されたらどうしようもない……。

「せめて、誰か協力者が……」
「結局そうなりますね……」
「なるほど。それなら問題ないな」
「……ん?」

 妙案が出ず凹む僕の後ろ……壁の向こうから何か声が聞こえた気がする。
 もしかして誰かがいるの?

「お前、アキで間違いないな?」
「そう、だけど……あなたは?」
「名乗る名などない……が決め台詞だったんだが、今はウォンって名乗ってるぜ。久しぶりだな」
「会ったことありましたっけ……?」

 記憶を掘り返してみても、そんな名前の人とは出会ったことがない。
 この声も、なんだろう……知ってる人に似てるような気がするけど、なんだかみんな違う気もするし……。

「アキ、俺らに依頼をしないか?」
「依頼?」
「そこから出て、拠点に戻るためのサポートって依頼さ」
「――ッ!」
「俺らならそれが可能だ。……ただし、対価は貰うが」

 ……依頼?
 それに俺らってことは、複数人いるってこと……?

「……対価って何を出せば良いの?」
「何でも。それを正当と思えばその分だけの仕事をするぜ。もちろん足りなければそこまでの仕事しかしないが」

 つまり、お金なら金額。
 アイテムなら希少性なんかが対価の価値になるってことかな……?
 でも、今の僕にそんなモノはない……なら……。

「……終わった後に何か1つ、僕に出来る限りで要求を飲むよ。それでどう?」
「姫!? それは……!」
「シンシさん、静かに。表の人に気付かれる」
「ぐっ……すみません」
「それで、どう? 受けてもらえる?」

 正直、これで断られたら、これ以上の手はない。
 だから僕は虚勢を張るように、震えそうになる声を抑えて、彼へと届けた。
 それに多分……僕の予想通りなら、他の仲間は僕も知ってるはずだから。

「っふ、クク……。あぁ、いいぜ。交渉成立だ」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...