上 下
153 / 345
第2章 現実と仮想現実

第154話 また、明日

しおりを挟む
「ん! んんんん! ……美味しいー!」
「……」

 拠点東側の木材置き場で、自分達が取ってきた木に腰かけつつ、オリオンさんの淹れてくれたお茶を味わう。
 ハスタさんも、ラミナさんも、各々が各々でお茶の美味しさに舌鼓を打ってるみたいだ。
 というか、髪色以外はほとんど一緒なのに、反応が違いすぎてちょっと面白い。
 ハスタさんは全身で表現して、ラミナさんはただ静かに、飲んでは頷いてを繰り返してる。
 けど、それもわかる……やっぱりオリオンさんはすごいよ……。
 環境が整ってなくても、こんなに美味しいお茶を淹れられるなんて。

「お気に召したようで、大変嬉しく思います。ただ、合わせの方は、出来合いの物になってしまいますが……」
「大丈夫」
「うんうん。気にしないでください! 私は今でも十分すぎるほどに満足ですからー!」

 そう言って手持ちのお茶を飲む2人。
 けど、2人共……お菓子が楽しみなのか、視線がうろうろして、ちょっと挙動不審な感じ。
 オリオンさんもそれには気付いているんだろう。
 少し苦笑気味に、インベントリから袋を取りだし、その中へ手を入れた。

「紅茶が少し甘めですので、こちらはさっぱりとしたクッキーにしましょうか」
「クッキー!」
「……!」

 ……目ってホントに感情を表してくれるんだなぁ……。
 クッキーって聞いた瞬間、2人の目が光ったような気がする。
 女の子って、やっぱりお菓子が好きなんだ。

「お、おいしー! サックサクで、紅茶の味にも合うし、美味しいー!」
「……美味しい」
「食べるのがもったいないー! でも、手が止まんないよー!」
「姉さん、それラミナの」
「バレたー!」

 ワイワイと、主にハスタさんが騒ぎながら、お茶を楽しむ。
 夕日が完全に隠れるまで……お茶会の時間はもう少しだけ。
 なんて、ガラでもない感傷に浸りながら、僕はゆっくりお茶を飲み干した。



「じゃあアキちゃん、またねー!」
「うん。今日はありがとう。またね」
「アキ」
「ん?」
「明日も、来る?」

 オリオンさんに対し、「ごちそうさまです、師匠!」とか言ってるハスタさんを尻目に、ラミナさんが僕のすぐ前に来る。
 今の僕とほとんど変わらない背丈の彼女は、いつもの無表情でそんなことを言いながら、まっすぐ僕を見た。

「……うん。来るよ、きっと」
「そう。ならいい」
「何か用があった?」
「そうじゃない」
「そうなの?」
「そう」

 じゃあ何で聞いたんだろうか。
 よくわかんないなぁ……。
 でも、明日も引き続き伐採しないといけないし、出来る限りログインしないと……!
 トーマ君のことだから、明日辺りには図面作ってそうな気がするしね。

「アキ。また、明日」
「うん。またね」
「……また、明日」
「あ、はい。また、明日」

 見つめていた彼女の目から、妙な圧力を感じてすぐに言い直す。
 あ、もしかしてさっきのって、明日も会おうってことだったのかな?
 僕としては、全然大丈夫だから良いんだけど。

「アキさん、皆様戻ってきたとのご連絡がありました。私達もそろそろ向かいましょう」
「あ、はーい。それじゃ、ラミナさん達、今日はありがとね!」
「いえいえー! 美味しいお茶とお菓子食べれたし、全然気にしないでー! いってらっしゃーい!」
「アキ、いってらっしゃい」

 見送ってくれる2人に手を振りながら、アルさん達の元に向かう。
 なにか新発見とかあったかなぁ……?

「アキさん、あそこです」
「んー? あ、見えました見えました」

 拠点自体はまだ大きくなく、建物も少ないからか、少し歩くだけでもみんながすぐに見つかった。
 人は多いんだけど、それぞれのパーティーごとに固まってるからか、見つけやすいというか……。
 むしろ、アルさん達って有名らしいから、そこだけぽっかり空いちゃってて余計に分かりやすいというか……。

「お、アキさん達も来たか。お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。アルさん達もおかえりなさい。どうでした?」
「そう、だな……。詳しい話は少し離れたところで話そうか」
「わかりました!」

 建物がなくて、広場みたいになっている場所から、建物の裏側……人の少ないエリアに向かう。
 どうやら探索側は、まだ協力よりも、パーティー同士で牽制しあってるような状態みたいだ。
 んー……大変そうだなぁ……。

「よし、この辺で良いだろう。リア、机を頼む」
「はいはーい。ほいっと」

 返事をしながら、リアさんは4人掛けくらいのテーブルを2つ取り出す。
 なるほど……テーブルを持ってくる……か。
 さすがだなぁ……僕とは用意のレベルがひとつもふたつも高い……。

「それじゃ、この地図を見てくれ。朝にも言った通り、この地図は調査が進むと空白部分が埋まる仕組みになっている。それを踏まえてこの地図を見ると……」
「なんや、これ……。数ヵ所だけ、穴が空いたみたいやないか」
「変ですね……。奥は埋まっているのに、その手前は描かれていない……」

 トーマ君やオリオンさんの言う通り、アルさんが見せてくれた地図には、数ヵ所……5ヶ所だけ、真っ白なままだった。
 というか、それ以外が埋まってるってみんな頑張り過ぎでは……。

「他のみんなも気付いたとは思うが、2人の言う通り、何ヵ所かだけ『不自然』に空いている」
「お昼過ぎにそれに気付いた私達は、奥に向かう予定を変更して、そこに向かってみることにしたの」
「そのまま残しているのは、どうにも気持ちが悪かったからな」
「私もアルの気持ちと一緒で、気持ち悪かったから。そうして向かったら……」

 アルさんとリアさんが、お互いを補足するみたいに地図を指差しながらルートを説明してくれる。
 どうやら向かった先は、地図の右下……地図上では拠点から程近い場所の空白地点。
 何が……あったんだろう……。

「あったのは、崩れた遺跡だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~

オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。 彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。 新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。 「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう! 「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」 そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。 一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。 主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。 ※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。 ※是非感想いただけると幸いです。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ
ファンタジー
サービス終了となったVRMMOの中で目覚めたエテルネル。けもみみ幼女となった彼女はサービス終了から100年後の世界で生きることを決意する。カンストプレイヤーが自由気ままにかつての友人達と再開したり、悪人を倒したり、学園に通ったりなんかしちゃう。自由気ままな異世界物語。 *旧作「だってけもみみだもの!!」 内容は序盤から変わっております。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~

虎柄トラ
SF
音ゲーが大好きな高校生の紫乃月拓斗はある日親友の山河聖陽からクローズドベータテストに当選したアーティファクト・オンラインを一緒にプレイしないかと誘われる。 始めはあまり乗り気じゃなかった拓斗だったがこのゲームに特典として音ゲーが付いてくると言われた拓斗はその音ゲーに釣られゲームを開始する。 思いのほかアーティファクト・オンラインに熱中した拓斗はその熱を持ったまま元々の目的であった音ゲーをプレイし始める。 それから三か月後が経過した頃、音ゲーを全クリした拓斗はアーティファクト・オンラインの正式サービスが開始した事を知る。 久々にアーティファクト・オンラインの世界に入った拓斗は自分自身が今まで何度も試しても出来なかった事がいとも簡単に出来る事に気づく、それは相手の攻撃をパリィする事。 拓斗は音ゲーを全クリした事で知らないうちにノーツを斬るようにパリィが出来るようになっていた。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...