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第2章 現実と仮想現実
第146話 信じられない
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「なるほど……。つまり、お嬢としては探索や調査プレイヤーへのフォローを優先すべき……と」
「僕たちとしては、生産設備を充実させるのが先決かと思いますが。いえ、姫のお考えを否定する訳ではないのですが……」
予想通りではあるけれど、拠点設備の話はすんなりといかないみたいだ。
たぶん、シンシさんもヤカタさんも、それぞれがそれぞれの生産プレイヤーの代表として来てるだけに、自分達の設備を早く充実させてしまいたいんだろう。
「そうだね。私としても、生産用の設備や建物を充実させないといけないのはわかってる」
「ではなぜ?」
「……さっき、こちらのラミナさんに聞いたんです。生産プレイヤー以外のプレイヤーから『不満』が出てる、って」
言いながら、僕は視線を横に座る彼女へと送る。
多少慣れてきたって言っても、まだまだ緊張感が抜けきらない僕と違って、ラミナさんはいつもと変わらない感じで、なんだかちょっと安心する。
そんなことを考えていた僕の隣で、彼女は静かに立ち上がる。
そして、いつもの無表情のまま、口だけを動かした。
「アキの言う通り。少しだけ、だけど……不満出てる」
「なるほど」
「でも少しだろ? なら、さっさとこっちを終わらせたら良いだろ」
「それはそうなんですが、その……」
「……なるほど。姫は僕たちの力を信じられないと」
「え? いや、そんなことは言ってないんですけど……」
僕の言葉を聞いてすらいないのか、嘆かわしい……と言わんばかりに、シンシさんは大きくため息を吐く。
そして、急に立ち上がったかと思いきや、ヤカタさんの隣に歩いていき、座ったままの彼の肩へ手を乗せ――
「では姫、僕とヤカタの……いえ、僕らを代表とするチームの力をお見せいたしましょう。いいよね、ヤカタ」
「ああ、任せろ。お嬢、見ていてください」
「え、あの、ちょっと!?」
僕の制止も聞かず、2人はそれぞれの作業場に向けて走り出してしまう。
……いや、まだなにも決まってない……決まってないよ!?
「……アキ。がんばって」
「……うん」
あまりの出来事に打ちひしがれるように椅子へと座った僕の頭を、ラミナさんは優しく撫でてくれる。
これは、予想以上に……大変だぞ……。
あの会議から少し経って、精神的ショックから立ち直った僕は、ひとまず調理プレイヤー用のスペースに戻ることにした。
というか、今はお薬でも作って落ち着きたい……。
「アキさん、申し訳ございません……。お力になれず……」
「いや、オリオンさんのせいじゃないですよ。あの状況は、もう止めようがなかったですし」
僕とラミナさんの後ろから、落ち込んだようなオリオンさんの声が届く。
オリオンさんとしては、きちんとみんなが納得できる結果を迎えたかったんだろうけど……。
こればっかりは仕方ないよ……。
「姉さん、似てた」
「あー……シンシさん? 確かにそうかも」
「そう」
見た目とか口調とか……全然違うんだけど、あの勢いのまま自由に進んじゃうところとかは、すごく似てる気がする。
……でも、ラミナさんも興味があるものには一直線なところは似てると思うんだけど。
「ひとまずは、僕たちだけでもできることをやっていくのと……」
「協力してもらえる方を探す、ところですね」
「うん。探索や調査に加わってる人でも、こっちを手伝ってくくれる人がいるかもしれないしね」
「ラミナと、姉さんも」
並んで歩いていた僕の前を塞ぐように、彼女は立ち止まり僕の左手を取る。
そして、いつもと変わらない表情……いや、いつもよりも少しだけ真剣な雰囲気の無表情で、顔をあげた。
「だからアキ。がんばって」
たった一言。
さっきも僕に言った言葉をもう一度、確認するように口にする。
感情の読み取りにくい目は、僕を捉えて離さない。
まるで、その言葉にすごく重要なことが隠されているみたいに。
「……行こう」
まばたきするように、僕の目から視線を外し、彼女は手を離す。
そして、先導するかのように、僕の前を歩き始めた。
「僕たちとしては、生産設備を充実させるのが先決かと思いますが。いえ、姫のお考えを否定する訳ではないのですが……」
予想通りではあるけれど、拠点設備の話はすんなりといかないみたいだ。
たぶん、シンシさんもヤカタさんも、それぞれがそれぞれの生産プレイヤーの代表として来てるだけに、自分達の設備を早く充実させてしまいたいんだろう。
「そうだね。私としても、生産用の設備や建物を充実させないといけないのはわかってる」
「ではなぜ?」
「……さっき、こちらのラミナさんに聞いたんです。生産プレイヤー以外のプレイヤーから『不満』が出てる、って」
言いながら、僕は視線を横に座る彼女へと送る。
多少慣れてきたって言っても、まだまだ緊張感が抜けきらない僕と違って、ラミナさんはいつもと変わらない感じで、なんだかちょっと安心する。
そんなことを考えていた僕の隣で、彼女は静かに立ち上がる。
そして、いつもの無表情のまま、口だけを動かした。
「アキの言う通り。少しだけ、だけど……不満出てる」
「なるほど」
「でも少しだろ? なら、さっさとこっちを終わらせたら良いだろ」
「それはそうなんですが、その……」
「……なるほど。姫は僕たちの力を信じられないと」
「え? いや、そんなことは言ってないんですけど……」
僕の言葉を聞いてすらいないのか、嘆かわしい……と言わんばかりに、シンシさんは大きくため息を吐く。
そして、急に立ち上がったかと思いきや、ヤカタさんの隣に歩いていき、座ったままの彼の肩へ手を乗せ――
「では姫、僕とヤカタの……いえ、僕らを代表とするチームの力をお見せいたしましょう。いいよね、ヤカタ」
「ああ、任せろ。お嬢、見ていてください」
「え、あの、ちょっと!?」
僕の制止も聞かず、2人はそれぞれの作業場に向けて走り出してしまう。
……いや、まだなにも決まってない……決まってないよ!?
「……アキ。がんばって」
「……うん」
あまりの出来事に打ちひしがれるように椅子へと座った僕の頭を、ラミナさんは優しく撫でてくれる。
これは、予想以上に……大変だぞ……。
あの会議から少し経って、精神的ショックから立ち直った僕は、ひとまず調理プレイヤー用のスペースに戻ることにした。
というか、今はお薬でも作って落ち着きたい……。
「アキさん、申し訳ございません……。お力になれず……」
「いや、オリオンさんのせいじゃないですよ。あの状況は、もう止めようがなかったですし」
僕とラミナさんの後ろから、落ち込んだようなオリオンさんの声が届く。
オリオンさんとしては、きちんとみんなが納得できる結果を迎えたかったんだろうけど……。
こればっかりは仕方ないよ……。
「姉さん、似てた」
「あー……シンシさん? 確かにそうかも」
「そう」
見た目とか口調とか……全然違うんだけど、あの勢いのまま自由に進んじゃうところとかは、すごく似てる気がする。
……でも、ラミナさんも興味があるものには一直線なところは似てると思うんだけど。
「ひとまずは、僕たちだけでもできることをやっていくのと……」
「協力してもらえる方を探す、ところですね」
「うん。探索や調査に加わってる人でも、こっちを手伝ってくくれる人がいるかもしれないしね」
「ラミナと、姉さんも」
並んで歩いていた僕の前を塞ぐように、彼女は立ち止まり僕の左手を取る。
そして、いつもと変わらない表情……いや、いつもよりも少しだけ真剣な雰囲気の無表情で、顔をあげた。
「だからアキ。がんばって」
たった一言。
さっきも僕に言った言葉をもう一度、確認するように口にする。
感情の読み取りにくい目は、僕を捉えて離さない。
まるで、その言葉にすごく重要なことが隠されているみたいに。
「……行こう」
まばたきするように、僕の目から視線を外し、彼女は手を離す。
そして、先導するかのように、僕の前を歩き始めた。
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